第3話 NEET、準備する
米沢一家、ひいては長男である俺が住んでいる家は二階建てだ。
一階にキッチンやリビングなどがあり、二階には俺と妹の個室。そして両親が夫婦で兼用している寝室が存在する。外には庭があり、そこには例の洞窟に通じる穴が開いている。
ニートやってて出不精なのがたたり、息も絶え絶えに穴から這い出た俺がまず行くことにしたのは、キッチンだ。
歩きながら軽く土をはたき落とし、サンダルを脱いで縁側をまたぐことで、窓から直接リビングに入った。そこからキッチンへ行くと、まず水を一杯コップに注ぎ、一気に飲み干した。
ゴクリ、ゴクリと耳元で音が鳴り、水が首の内側を通ると同時に、五臓六腑に染み渡るような感覚があった。軽く意識が飛んだような錯覚すらある。
気がつけばコップから水はなくなっていた。
「…………っああ! 生き返るぅー」
そこで一息つき、軽く呼吸を整える。早鐘を鳴らしうるさいくらいだった心臓の音が収まっていくのを感じた。ついでに、汗でびっしょりだった顔と手を水で洗い、タオルで拭く。
さっぱりした気分で、俺は自室に戻ってパソコンをやりたかった。
願わくばそのまま引きこもっていたかったが、そうにもいかない。俺はパソコンという魔性に取り憑かれているため、一度それに触れてしまうと二十時間は離れられないのだ。
誠に遺憾だが、俺は道具を揃えて再びあの洞窟に入らねばならない。というか、パソコンを使っている最中に家が崩落とかあり得そうな気がして使うのが精神的に無理だ。こんな状況でどう冷静に使えるのか。
「と、とりあえず缶詰。スコップは……庭に残してあるな。寒かったから上に何か着込んで、あと懐中電灯も忘れずにっと。電池も新しいのにしねえと……ヘッドライトあったら良かったんだけどな」
ブツブツ呟きながら、自室から持ってきたリュックサックに必要なものを詰め込んでいく。あと、上り下りがしやすいようにロープも設置することにした。庭には丁度結びやすい木も一本生えているから活用させてもらうとしよう。
「俺も軍手つけよっと……あと運動靴だな。サンダルで洞窟入るとか正気の沙汰じゃねえ。っつーか、洞窟入ること自体、正気の沙汰じゃねえんだけどな」
クソみたいな事態だ。事前調査とかそういうのをやらなかったのであろう建築業者の怠慢に怒りを抑えきれない。
しかし、それと同時に俺は疑問に思うのだ。
――あの地表と天井の距離間なら、家を建てる時に崩落しそうなもんだけどな。
洞窟って、もうちょい地上との間に厚みがあるものなのではないだろうか。
そんな風に考えるも「洞窟の専門家じゃないのに何か考えてもな……」と思った俺は、その思考を切り捨ててさっさと洞窟に向かうことにした。
洞窟に一人で入っていき、中を探索する。
子供の頃ならば小躍りしてもおかしくない興奮を覚えたものだ。
だが、現在の俺はニートで、二十歳を超えた大人だ。覚えるのは興奮ではなく不安と恐怖のみ。
「……俺も大人になったなあ」
そう言うと同時に、なんだかわけのわからない寂しさも覚えた。
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