第4話 NEET、未知との遭遇を果たす

 頑丈なロープを子供の頃に教えてもらった”もやい結び”とかいうやり方で木に縛り付け、結び目が解けないことを確認する。


「……すごい固くて降りやすいな。嬉しくないことに」


 あーやだやだ、洞窟探検なんてしたくねーなーと思いながら愛しの地上にさよならし、俺は洞窟の中に降り立った。


 とりあえず、歩いているだけでつまづきそうなふかふかの土はすべて横にどけることにする。さらばだ。親父の財布から出された云千円の腐葉土ども。もう見ることはない……いや、帰る時に見るか。


「とりあえず、懐中電灯をっと……えーっと、これか?」


 スイッチを適当にいじくっていると、点灯した。暗闇の中に差す一条の光、と形容するとさぞ格好いいことのように思えるが、格好いいもののほとんどはまるで実用性がないのだ。


 この懐中電灯も言わずもがな。なまじ指向性があるために、光が当たってない場所以外のほとんどが見えない。これならランタンでも自作して持ってきた方がマシだったように思える。

 あっちは薄暗いが、その分後ろ以外のすべてを照らしてくれるのだ。


「うおっ!? ミミズ……っ」


 少なくとも、ランタンだったらミミズを思いっきり踏んづけずに済むはずだ。ぐちゃっ、もしくはブチッ、て感触が足にこびりつくことはないと思う。念入りに下向いて歩いていたのに……。


「…………」


 ――それにしても、不気味だな。ここ。


 なんというか、生物の気配が多い。そのくせ姿は見えない。風鳴り音はしきりに鳴っている。洞窟ってもうちょっと静かなものなんじゃないだろうか……いや、俺が洞窟というものを知らないだけか?


 それに、なんだか居心地が悪い。っていうか、結構な長さじゃないだろうか、この洞窟。想定よりも短いことを期待していたのだが、そうは問屋が卸さないらしい。もう、プロの人に任せた方が良い気がするレベルだ。

 なんてこんなのが日本にあるのか驚くレベル。といったら嘘になるが、間違っても素人が最初に入るべきではないのは確かだろう。既に何度か曲がり角にさしかかってるし。迷わないように直進してるけど。


 しばらく考えたのち、俺はぽつりと呟いた。


「……引き返すか」


 帰ったら親父……はダメだ、絶対に働けって言われる。妹かお袋、先に帰ってきた方に親父に話すように言ってもらおう。それか、メモ帳に書き置きでもして置いておくか。


「書き置きが良いな、うん」


 何せ、誰にも会わない。サイコーです。


 書き置き残したら、二階に上がってパソコンでゲームでもやろう、今日は疲れたからこれから優雅に昼寝も良いかも知れない……と、そこまで考えた時だった。


「…………ッ!?」


 音がした。


 甲高く、そして短い音だ。ネズミの鳴き声だろうか? それに近い気がしたが、距離のわりには音量が大きい。日頃、耳にしない音なためか背筋がぞわりとする。

 それ以上に、嫌な予感がした。


 素早く音源の方向に懐中電灯を向ける。


『…………』

「――――」


 そして、言葉を失った。

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