第6話 NEET、調べる

「な、なっ、なん、なんだよっ、あれ!?」


 布団にこもってから約一時間。

 話せる程度にまで恐怖を振り払い、ようやく出すことが出来た第一声は、自分でも大丈夫かと心配するほどにどもりまくっていた。しかし、その内容に関しては同感しかしない。


 ――あれは、なんだ?


 明らかに、ただのネズミではなかった。カピバラはネズミ科の植物ではあるらしいが、カピバラは非捕食者側だ。俺が相対した怪物のように、決して、あんな――捕食者の眼をすることはない。


 あれは本当にネズミなのだろうか?

 あれがネズミだったら、ネズミの定義がおかしくなる。そんなことを思いながら、俺の手はパソコンへと伸びていた。


 慣れた手つきで電源を付け、パスワードを入力。ロックを解除すると検索エンジンを起動しあの生物のことを調べにかかる。

 生態とか、そういうのではない。弱点はないか、とかもっと実用的で……実践的なものだ。何も知らないから『怪物』なのだ。弱点の一つでもわかったら、次はもっと冷静に対処……は出来ないな。取り乱さずに逃げられるかもしれない。というだけだ。


 しかし、ない。


「いや、いや待てよ。そんなわけねえだろ。見落としてるだけだろ……?」


 手を変え品を変えて探すが、ない。


「な、なんっ――はぁ!? うそだろ……?」


 あの『怪物』の情報が、ない。

 その事実は、ひとまずは収まっていた恐怖心を蘇らせた。それは『未知』に対する恐怖だった。


「ほんと……なんなんだよ! あの洞窟は!」


 叫んだ。叫ぶしかなかったともいえる。


 身体が震える。嫌な想像が止まらない。全身から冷や汗が噴き出してくるのがわかった。ただひたすらに怖かった。もう、誰か別の、俺とは違って勇気だとか使命感だとかそういうのを持っている人に任せたかった。


 リビングに行って、電話を取って。警察に電話しようかとも思った。

 本当に、実行しかけた。


「…………クソッ!」


 だけど、出来ない。受話器を叩きつけるようにして戻す。


 自宅の地下に巨大な洞窟があって、その洞窟の中を見たことのない生物が徘徊している――。こんな話を、誰が信じるというのだ? 自分でも自分が信じられないし、なんなら夢だとでも思いたいくらいの話を……一体誰が?


「ぐ、ぐぅぅぅぅ……!」


 限界だった。


「どうすりゃ良いってんだよォ!!」


 リビングにあった椅子を思いっきり蹴っ飛ばす。当然すねに激痛が走るが、それが俺の正気を保証しているようで、どこか心地よかった。

 でも、不安は晴れない。


「……ちくしょう」


 どうして、俺がこんな目に。

 そんなことを思いながら、憎々しげに穴を睨む。


 すると、目が合った。


 あのネズミと、目が合った。


「うそだろ……?」

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