第11話 NEET、夢を見る
何故だか知らないけど、蹴られていた。
理由はわからないけど、とにかく蹴られていた。
みんなが、俺を蹴っていく。俺はうずくまっているだけで、何も出来ない。ずーっと、ずーっと、教師や、クラスメイトが俺を蹴っていくのを見ているだけだ。上から聞こえる哄笑に耳を澄ませて、嵐が過ぎゆくのを待つだけだ。
昔に、同じような体験をしたことがある気がした。
遠い、遠い記憶だ。そのはずだ。
なのに、なんだって俺は、こんな惨めな目に遭っているのだろうか?
アレはもう終わったはずだ。
俺が、惨めったらしく家に引きこもって終わったはずだ。あの日は昔といって差し支えない過去のことだが、今でも覚えている。両親に土下座して、学校に行くのをやめさせてもらったんだ。あいつらに出くわしたくないから、家の外に出るのもやめた。ただひたすらに、怖くって。
あそこで、俺は一回へし折れて……じゃあ今俺は何をやっているんだ?
視界が暗転する。
暗闇の中で、目が光る。
俺の手の中にある懐中電灯が、ぽとりと床に落ちた。
『――――』
ネズミだ。怪物だ。暗色の、洞窟で牙を研いだ怪物だ。
そいつは今にもこちらに飛びかかろうとしているようだった。俺は這いつくばって逃げようとするが――理解する。逃げられないのだと。
なら、どうする?
逃げられないなら、どうするか。
そんな思考、俺の中からはとっくに消え失せたものだと思っていたが、どうやらそうではなかったらしい。次第に、思考が澄み渡ってくるのを感じた。
怖い。怖いけど、逃げられない。
逃げられないなら、どうするか。
ならば、倒すしかない。
倒すには――武器が必要だ。
いつの間にか、手が血まみれになっていた。
血まみれの手には、ガラスの破片が握られていた。
「違う……もっと、もっとリーチが長い奴が欲しいんだ」
手にあったガラスの破片が消えて、スコップが出てくる。
無骨で、ホームセンターで買えるであろうスコップだ。だが、手に来る感触と重さは確かなもので、なぜだかそれであの怪物が倒せそうな気がした。
そもそも、なんで俺はスコップを武器として使っているのか。
それに、なんで最初の武器がガラスの破片だったのか。
様々な疑問はあったものの、それは無視しても構わないものだった。
そうだ、怪物を倒すのだから、無視しても構わないのだ。
怪物なのだ。倒さなければこちらが死ぬ。だから倒す。単純明快なことだ。
いや、怪物でもない。
死ぬのならば、怪物でさえない。
ただのネズミだ。
――だから、倒せ。
俺は、いつの間にか振り上げていたスコップをネズミに向かって振り下ろし――
そこで、目が覚めた。
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