第12話 NEET、家族と合う

 目を覚ますと、そこは俺の自室だった。


 身体を起こすと、窓の外を見る。外は真っ暗で、どうやら夜になってしまったらしい。そこから下に目線をやると、木の根元でまとめられたロープが見受けられる。どうやら、妹はちゃんと指示を遂行してくれたようだった。


 次いで、俺は全神経を耳に集中させた。布団の上にあぐらをかき、身じろぎもせずに耳を澄ませる。

 研ぎ澄まされた聴覚が、いくつかの音を捉えた。二人、いや三人だ。


「…………あー、下に降りたくねえなあ」


 絶対に親父とお袋いるじゃん。

 つーか、親父まだ仕事の時間じゃねえのかよ。それとも、お袋に電話されて帰ってきた……? ああ、あり得そうだな。

 めっちゃ、降りる気が失せた。お袋だけならまだ良かったんだけど。


「でも降りなきゃダメなんだよなあ」


 そう、今回ばかりは事の規模が違うのだ。

 ちゃんと、俺が口頭で話す必要があるだろう。俺だって、自分のわがまま通して良い範囲くらいは理解している。今は通しちゃいけないということもわかっているのだ。

 物凄く気分が乗らないが、こればっかりは我慢しなければならないだろう。


「…………」


 俺は無言で、階下へと降りていくことにした。

 死刑台に上る時の心境ってこんな感じなのだろうか。なんてことを考えながら、おそるおそるリビングへと顔を出す。


 真っ先に反応したのは妹だった。何故かは知らないがマスクを付けている。


「あ、お兄ちゃん! よくこんな状況で三時間も寝られるね。でもまあ、生き物を殺すのってとても疲れるってお父さんが言ってたし仕方ないのかな。疲れはとれた? ああ、あとお兄ちゃんが言ってたのは全部終わらせたよ」

「相変わらずマシンガントークだな、お前……」


「――戻ってきたか」


 俺は不意に届いた声に、口をつぐんだ。ネズミの死骸を調べていた壮年の男が――というか親父だ――こちらに目線を向けている。老眼になっているのか、前に見た時はつけていなかった眼鏡をつけていた。そして、こっちもマスク着用だ。


 なんで二人ともマスクを付けているんだろうか。なんて疑問が頭を過ぎったところで、背後で人の足音が聞こえる。

 振り返ると、こちらも久しぶりに見る母親だ。やはりマスクを付けている。


「あら、守。アンタ起きたの?」

「……ああ、つい今し方」

「そう……じゃ、これつけて」


 そう言って、差し出されたマスク。百均で売ってありそうな奴だ。ひょっとしてネズミになんかの菌が付着しているだろうから、ということだろうか。

 それなら仕方ない。大人しく俺もマスクを付ける。息苦しいから、マスク付けるの嫌いなんだけどな……。


「猛くん。死体に触ってたなら、手ぇ洗ってきてくれない?」

「……わかった」


 親父がお袋の言う通りにする。

 その後、俺たち米沢一家はお袋の先導を経て、全員手を洗った後に食卓に座ることになった。妹は珍しく沈黙しており、親父とお袋はジッと俺のことを見つめる。


「…………」


 空気が重苦しい。というか目線がつらい。空気になって消えてもよろしいでしょうか。無理だけどさ。

 そんなことを俺が考えているということは知るよしもなく。


 お袋はそれじゃ、と口火を切った。


「何があったか話してくれない?」

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