第18話 NEET、恐怖を理解する

 家の外に出ると、かんかん照りの陽光が俺を出迎えた。

 まぶしい。やる気が減った。ゲームで毒沼の中を歩いていると体力が減少するように、これからずっと俺のやる気は減衰を続けるのだろうという、限りなく未来予知に近い予感があった。


「……お兄ちゃん。今家に帰りたいなあとか思ったでしょ」

「よくわかったな」

「顔に出てるもん。でもダメだよ、今回ばかりは甘えは許さないからね! いくらつらくってもお腹痛くなってもゲロ吐いても絶対にホームセンターまで連れて行くから今回の私に救済は期待しないでね!」

「鬼かよ」

「なにか?」

「いや、なんでもありません」


 なんて言葉を交わしながら、俺は時刻が時刻だからか閑散としている住宅街を歩いて行く。通行人はいない。良いことだ。とても、とても、良いことだ。この上ないくらいの幸運だった。

 それでも、ホームセンターまで行けば確実に人は出るだろう。ちくしょうめ。


「お兄ちゃん、目ぇ血走ってて怖いんだけど」

「そっとしておいてくれ。お兄ちゃんは今未知なる恐怖と戦っているんだ」

「あっそ。……まだ治らないの? 対人恐怖症」

「そう簡単に治ってたら心療内科の概念はないだろうな」

「だよねえ……」


 一応、俺も毎月カウンセリングに行こうとはするのだが、そのたびに吐き気を催してトイレで嘔吐してしまう。困ったもんだ。今は命がかかっているから、なんとか出ることが出来ているが……例の洞窟が出現しなかったら、俺はきっといつまでも外に出られなかっただろう。


 その点において、俺はあの洞窟に感謝してもおかしくない立場にいるわけだが、それ以前の問題として死にかけたため、絶対に感謝は捧げない。


「恐怖はそれを上回る恐怖の前ではかすむもんなんだな……」

「ん? 何か言った?」

「いや、なんでもない」


 相変わらず、太陽は憎らしいくらいに輝いている。どうせなら曇りが良かった。いや、人が出歩かない雨が良かった。そんな天候なら、俺は台風がこようが外に行くことが出来ただろう。


 もちろん、ホームセンターに入ることが出来るかどうかは別としての話だが。


 だって、怖いし。仕方ないと思うのだ。

 まあ怖いからこそ、それを上回る恐怖を避けるために克服出来たわけでもあるのだが。今の俺を過去の俺が見たとしたら、確実に絶句するだろう。間違いない。


 そんなことを考えながら歩いて行く。

 いつしか、二人は住宅街を抜け、車通りの多い道路へと出ていた。


「……大丈夫だよな。車、こっちに突っ込んでこないよな?」

「突っ込んでこないうちから何言ってんの! ほら、さっさと行くよ!」

「ぐ、ぐうう……」


 意外と力の強い妹に引きずられ、哀れ俺はホームセンターへと連行されていく。



 ※   ※   ※



 この第18話の投稿時点において、1000PVの達成を確認しました。

 これも、ひとえに皆様のフォローや、応援。評価の支えがあったからこその結果です。


 ありがとうございます。

 いつ終わるかもわからない。エタるかも知れないこの作品ですが、力の続く限り頑張りますので、これからもどうぞよろしくお願いいたします。

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