第8話 NEET、覚悟を決める
戦うからには武器が必要だ。
しかし、スコップは庭の方に置いてきてしまっていることを思い出した。
「…………。やっぱり逃げようかな」
決意が揺らぎそうだった。俺の中に巣くう負け犬根性とか、意思の薄弱さは健在なようである。性根が腐った自分を殴りたい。
なんにせよ、スコップを取るのは無理そうだ。潔く諦めることにする。
とりあえず、リビングの置いてある奴で何か戦えそうな物はないか。なお、リビング以外の場所に行くのは相手の居場所が捕捉出来なくなるのでダメだ。見失って奇襲されたら身体能力がもやしの俺は確実に死ぬ。
「武器、武器、武器……」
テーブルは重すぎて、リモコンは軽すぎる。その中間くらいの重さで、扱いやすいものが良いのだが……何かないだろうか。出来れば長物が良いのだが、当然ながらそんなものがリビングに転がっているわけがなく。
悩んだ結果、俺はすっ転んだ時に足を引っかけた椅子を武器として使うことにした。椅子の背を引っ掴んで脚の方をネズミに向けると、うん、まあ……かなり不格好だが、この状況では贅沢も言えない。
とりあえず、心臓がばくばくいってきたので、深呼吸をする。
「大丈夫だ……俺はやれる。俺はやれる。俺はやれる……あれはネズミだ」
そう、ネズミ。ネズミ。ただのネズミだ。
でかいだけだ、さして強いわけでもない……はず。全身が寒中水泳でもしたかのようにぶるぶると震えている気がするのだが、それはあくまでも気のせいなのだ。そうに違いない。
呼吸を整える。ズボンで手汗をぬぐい、椅子を握り直した……心なしか、手汗でぬるぬるしている気がする。感触が気持ち悪い。
未だに高鳴る心臓の呼吸を収めるため、もう一度深呼吸。これが終わったら行くことにしよう。振りとかじゃなく、決意を確固たる物にするためだ。
「スゥー、フゥー……よし」
行くぞ。
俺は窓を開け、縁側に――ひいてはその先にある庭へと足を踏み出した。
心臓は覚悟を完了させたのか、落ち着いている。多分この先、決して高鳴ることはないだろう。俺が死んだら高鳴らないからだ。
「いや……じゃあ、勝てば良いのか」
また負け犬根性が顔を出していたな、反省。俺が負けたら連鎖的に(多分だけど)家族全員死んでしまうので、今回ばかりは負けられん。
いや、でも妹陸上部だからな……逃げ切れるかもな。
いやいやちょっと待て、その場合俺死ぬだろ。何生存諦めちゃってんだ俺。
セルフツッコミをかましながら、注意深くネズミを観察する。相手も庭にやってきた俺を警戒しているようで、なんか、その……生存本能が鳴らしているのであろう警鐘の音を感じまくっている。やばい。
まず、警戒するべきなのは突進だな。倒されて頭でも打ったらそのまま俺は気絶するだろう。ジ・エンドだ。
次点で、尻尾を使った攻撃。足を引っかけられて頭でも打ったら以下同文。
相手の運動性能次第では、他に何か別の攻撃手段があってもおかしくないので、そのことも思考の隅で考慮しておく。
『…………ヂュウウウ!!』
「――――!」
その時、ネズミが飛びかかってきた!
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