第16話 NEET、自宅警備員になる
正直言って、捨て鉢気味だったことは否めない。
それとは別に、俺がニートだというのもあった。
フリーターではない、ニートだ。
俺は対人恐怖症だから仕方ないと家族が割り切ってくれているが、それでも穀潰しだというのには相違ない。
高校を中退してからの四年間。ずっと部屋に引きこもって家族以外の誰とも接することなく時間を無為に過ごしていたが、そのことに対して罪悪感を持たなかったと言えばそれは嘘になる。
そんな奴が、ちょっぴりでも家族に恩を返せるとなれば、その手段に飛びつくのは当然の帰結だろう。
「……まあ、適材適所なんじゃないか」
「え、お父さん本気!?」
理屈で考えても感情面ではまだ納得出来てないのか、歯切れ悪くそう言った親父に対して、妹が噛みついた。お袋はロダンの、あの、なんかよく見る像みたいなポーズを取って、深く考え込んでいる。
「だってさあ! お兄ちゃんだよ!? 引きこもりだし、運動もまったくやってないじゃん!」
「……だが、ネズミからは逃げ切れただろう? そこそこの運動能力はあるし、咄嗟の判断が出来る、という点では間違いなく適性はある。……おそらくだが、ネズミと初めて遭遇したのが俺ならば、そのまま死んでいた」
「…………で、でも。死んじゃうかも知れないじゃん」
ポロッとこぼれ出たような言葉だったが、俺にはそれが妹の本音のように思えた。要するに誰も死んで欲しくないのだろう。
俺だって同じようなもんだ。殺すのはつらいから、出来れば家族にはやってほしくない。あれは、メンタル的にしんどいのだ。俺はお世辞にも心優しい存在とは言えないが故に一晩で立ち直ったが、それでもなお後味の悪さは残っている。
親父は妹の言葉に対する反論が見つからなかったのか、目をつむって言った。
「……決めたのは守だ。どちらにせよ、俺にもお前にも口出しは出来ん」
「ふん縛ってでも止めれば良いじゃん!」
「その場合、あの洞窟はどうなるんだよ」
「そ、それは……」
俺が一言そう言うと、妹は痛いところを突かれた風に押し黙った。
いったん、食卓に重苦しい沈黙が訪れ、それを見計らったかのようにお袋が口を開く。どうやら考えがまとまったらしい。
「とりあえず、さ。守くんはやけになってるとかじゃないのね?」
「ああ、自宅警備員に就職っつーのも乙なもんだと思ってな」
「生きて帰ってくる?」
「積みゲーと積ん読あるからな」
そんな、捻くれた回答を返すと、お袋はまた少し考えた。
ややあって、再び口を開く。
「――じゃあ、腕時計。買わないといけないわね」
「はあ?」
なんで、腕時計?
そう思って頭に疑問符を浮かべる俺たち兄妹を尻目に、親父はお袋が何を言いたいのかがわかったようで、そうだなと同調意見を述べている。
「ちゃんと、家に帰らないといけない時間がわかるようによ」
お袋はそう言って、ちょっと悲しそうに微笑んだ。
そうして、俺は自宅警備員になることになった。
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