20話

 その日から私の面倒な日常が戻って来た。

 翌日、学校に行くと私の机の上に菊の花が一本飾られていた。

 「あれぇ。どうしたの?柚利愛」

 クスクスと笑いながら緋紅が近づいて来た。

 何て子供っぽことを平気でやってのけるのだろう。

 こんなことで私にダメージを与えられると本気で思っているのだろうか?

 生憎だがこの手の嫌がらせは今まで散々受けて来たので慣れている。

 みんなレパートリーが少ないから大体することって代わり映えしないんだよね。

 ああ、そうか。

 私が慣れているから平気なだけで他の人は結構堪えるのだろう。

 私も多分、初めてされた時はかなり衝撃的で堪えたのだと思う。あまり、覚えていない。

 だって、キリがないし、心がもたないから。

 小さい頃から近所の子に「外人」と呼ばれたり「お前は母ちゃんと似てないから母ちゃんの本当の子じゃないんだろ。お前、本当の母ちゃんに捨てられたの?かっわいそぉ」とか好き勝手言われて来たから。

 小さい頃はアルビノなんて知らないから、自分だけが異質で、自分のことを化け物のように思っていたし、本当に自分は母の子供ではないのだと思った時期もあった。

 本人に直接確かめたことはないが。

 今ではアルビノに対して知識があるので自分が両親とは違う容姿を持っていることを理解している。

 「別に。わざわざ私の為に花を用意してくれるなんて随分、優しい人が居るもんだなの思って」

 私は笑って言った。

 高校に入学する前なら黙って花を片付けただろう。

 少しは進歩したのだろうか。

 「はぁ?馬鹿じゃないの。親切心なわけないじゃん。悪戯でしょ。気づけよ。空気読めないな」

 「読めないのはあんただ。どこから聞いても柚利愛のは嫌味でしょ」

 いつの間にか登校して来たみどりが溜め息をついた。

 「あ、みどり。おはよう」と、緋紅は笑顔で挨拶をして、みどりの腕に自分の腕を絡みつかせる。

 この行動には私だけではなく、みどりも驚いていた。

 「何?」

 「何って。べっつにぃ~」

 「やだ、気持ちが悪い。放して」

 「いいじゃん。私達、大の仲良しなんだから」

 「・・・・・は?」

 訳が分からないと言うかをしているみどりとは対照的に私は理解した。

 つまりこの行動は私に見せつける為のものだろう。

 自分とみどりは仲良しで、お前はそうじゃないと。

 正直、どうでもいい。

 「神山さん、先生が呼んでるよ」

 私達三人の関係がぎくしゃくしているのは昨日のことと今日の出来事で既にクラスでは周知されている。

 その為、遠慮がちにクラスの子が私に話しかけて来たのは仕方がない。

 「分かった」

 何だろうと思って教室を出る際、委員長の前を通ったらまたくすりと笑われた。

 嫌な予感がする。

 そう思いながら私を呼んだ先生の元に行けば、なぜか生徒指導室に呼ばれた。

 「あなたが援助交際をしていると報告がありました」

 壮年の先生の思いがけない言葉に私は一瞬何を言われているか分からなかった。

 「夜間に外出しているとも」

 「バイトはしています。その為、時間的に遅く変えることはありますが、学校側が決めたルールに従っています。帰りが一緒になれば同じバイトの子と帰ることもあります。

 援助交際のことを報告した生徒が何をもってそう定義づけたかは知りませんが、誓って私はそのような行為はしておりません」

 「あなたが真面目な生徒であれば私共も『何をふざけたことを』と一蹴したでしょう。

 けれど、髪を染めて、それを地毛だと言う不真面目な生徒の言葉をこういう時だけ信じろと言うのは無理があります」

 「あなた方は初めから信じる気などないじゃないですか。私のは地毛ですと何度も申し上げました。髪を染められない理由についても」

 「兎に角、そのような報告がある以上何らかの措置は必要です」

 「濡れ衣です」

 「神山さん、高校は中学と違って退学だってあるんです。ここで簡単な措置ですませる方がいいんじゃないかしら?」

 「脅しのつもりですか?」

 「いいえ。そのようなことをしているつもりはありません」

 「自覚がなくとも立派な脅しになっています」

 「駄々をこねるのは止めなさい。兎に角、あなたには三日間の謹慎処分を言い渡します。これは決定事項です」

 先生は冷たくそう言い放って部屋を出た。

 ぴしゃりと閉じられた扉。

 それが私と世界を遮断する境界線のように見えた。

 結局、私とみんなは違うのだ。

 アルビノが何を言っても無駄ななのかもしれない。

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