3話

「お母さん、明日ね学校が終わったら友達と買い物に行く約束したの。

だからお金頂戴。今お財布に千円しか入ってないの」

お風呂から上がりリビングに取り込んだままになっていた洗濯物を仕分けし、それぞれの部屋に運んでいたら由利が母にお金をねだっていた。

高校生になり、由利のお小遣いは五千円から一万円になった。

対して私はお小遣いをもらってはいない。

「アルバイトをしてるからいいでしょ」と母に言われてしまったので。

私は由利とは違って勉強に必要な筆記用具や服は自分のお金で買っている。

一人暮らしの為に貯めていたいのであまり自由になるお金はない。

しかも由利にはよく服を盗られるのだ。

何度抗議をしても「これは私も持っていた」と言い張る。

目印のようなものをタグにつけてもそう言い張るのでもう手の打ちようがない。

しかも、何年かして黄ばみや色褪せで着られなくなった服を見せて「これ、柚利愛のでしょ」とか言ってくるんだから腹が立って仕方がないな。

兎に角何が言いたいかと言うと私は由利の盗られるせいで服代もかかるのだ。

取り返せれる分は取り返してはいるが。

対して由利は服も靴も勉強に必要な物も全て母が買っている。

それなのに一体何がそんなに足りなくなるのか私は不思議でならない。

「今月は厳しいから柚利愛に貰って」

は?

今とんでもないことを聞いた。

思わず服のシワを取るために当てていたアイロンで自分のシワまで取ろうとしてしまった。

「何よ?いいじゃない。あんたはアルバイトしてるんでしょ」

なら、由利もすればいい。

別に由利の学校だってアルバイトを校則で禁止しているわけじゃない。

「今月はお母さんに五万渡したから無理」

「だからお給料が入ったら返すって言ったじゃない!」

先月もそう言って返してもらえなかった。

しかもさりげなく催促したら「そんなお金あるわけないでしょっ!」と逆ギレされた。

この人は自分もパートで働いているくせに娘がアルバイトを始めたら億万長者にでもなったきでいるのだろうか。

お金が無尽蔵に湧いてでるとでも思っているのだろうか。

学校が終わってからの数時間しか働けない学生の給料がそんなに良いわけがない。

それに高校の昼ごはんに給食はない。

私は少ないお金から何とか捻り出したりしている。

もちろん、夜ご飯を多目に作ってお弁当に詰めるときもあるけど気を付けないと由利に取られたりする。

由利はお小遣いとは別に昼飯代を母からもらっているのにだ。

「無理。お昼ごはんだって買わないといけないし」

「どうせ大して食べないでしょ!

それこそあんたはおにぎりで良いじゃない」

何だ、その言い分は。

だいたい私が渡したお金だって生活費とかよりも由利の物を買ったり、由利が水族館に行きたいとお強請りしてその足にしたり、寿司を食べたいと言った由利の為に寿司を買うお金にしたりしているのを私は知っている。

「私は由利の為にお金を稼いでいる訳じゃないっ!」

「我が儘言わないで!

今月は生活が厳しいって言ってるでしょ」

だからそれは由利の為に散財するからでしょう。

少しは節約すればいいのに。

それに由利が友達と買い物に行かなければすむ話じゃないか。

「早く由利にお金を渡しなさい」

「・・・・・」

「早く!」

私は結局、由利に五千円を渡した。

「五千円じゃ足りない」

こいつ、マジで死ねば良いのに。

「あんたはどんだけケチなのよ。

アルバイトして何十万と稼いでるんでしょ」

母の中では私はどれだけの給料を貰っている設定なのだろう。

「これ以上は持ってない」

本当に明日からお昼はおにぎりにしよう。

じゃないと貯金も出来ない。

私だって本当はもっといろんなことに使いたいのに。

貯金する額は決まってるし、卒業までに貯める額の目標は定まっている。

お金が足りないからと言って貯金を崩す気はない。

そうなるとかなり厳しいが仕方がない。

「考えなしに使うからお金が足りなくなるんでしょ」

と、母に呆れられ溜め息をつかれたが私はもう少し出せるかもとは言わなかった。

母は仕方なく自分の財布から一万円を出して由利に渡した。

何だ、あるじゃないか。

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