9話

 「柚利愛、これ五番テーブル持って行って」

 「はい」

 「明菜、三番テーブル」

 「おい、できたぞ」

 「ああ」

 「厨房が間に合わねぇな。朔、助っ人に回れないのか?」

 「無理。ホールが回らなくなる」

 「ほらよ、できたぞ」

 「サンキュー、昇」

 喫茶シャノワールは今日も大盛況

 お客さんの大半は女性陣だ。

 店の外にも行列ができている。

 眼も回る忙しさとはこのことだ。

 従業員をもう少し増やした方が良いのかもしれないが、店長や昇さん、透間さんを目当てにアルバイトをしたいと言う人ばかりで話にならない。

 店長はそういう人ではなく、純粋にこの場所が好きだからという人に働いて欲しいと言っていた。

 それには私達も賛成だ。

 ピアスをつけ、指輪を付け、付け爪に香水までつけて、完全装備で面接に来る女なんてごめんだ。

 喫茶店には当然、軽食だが食事も出る。

 それを持っていく人間が香水臭くては適わない。

 料理の匂いと混じって嗅いだ人間を不快にさせるだけだ。

 たまに男の従業員も居たが、問答無用で追い返されていた。

 男なら店長目当てと言うわけでもないので良いのではないうかと思ったし、それを店長に進言もした。

 「目当てが俺とは限らないんだよ」と笑顔で返されたが、なぜか底冷えする怖さがあったのでこれ以上突っ込んで聞こうとは思わなかった。

 君子危うきに近寄らず、だ。

 これは結構大事なことだと思う。

 「今日も盛況だね、柚利愛」

 「緋紅、みどり」

 完璧におめかしをしている緋紅とうんざりした顔をしているみどりがカウンター席に座っていた。

 「朔さん、私、手伝いましょうか?

 忙しそうですし、ホールぐらいなら経験あるんでできますよ」

 いや、あんたアルバイトの経験ないって言ってたじゃん!

 と、思わず突っ込みそうになったけど下手に突っ込むと今後の人間関係に影響するので止めた。

 「ありがとう。気持ちだけ受け取っておくよ」

 「えぇっ!遠慮しないでください。

 バイト代とか要らないんで。

 柚利愛は私の#親友__・__#でもあるので、親友の助けがしたいんです」

 私はいつから友人から親友に格上げされたんだろう。

 っていうか、人をダシに使わないで欲しい。

 「君は優しいね」

 店長は笑っているけど明らかに営業用だし、目は笑っていなかった。

 あまり長い付き合いではないけれど、一緒に居ることも多いのでそれくらいは分かる。

 緋紅は店長のことが気に入って猛アピールしているけれど、どうやら店長にとって彼女は好みではないらしい。

 というか、苦手な種類に入るのかな?態度とか見ている限り。

 でもまぁ、二四歳の店長からしたら高校生なんて子供だし、元ホストの店長が相手にするわけない。

 緋紅は胸元の大きく開いた服で何とか落そうとしているけど完全に空回っている。

 隣で必死にアピールしている緋紅にみどりは溜息をついていた。

 まぁ、学校が終わってからこの行列に付き合わされるなんて確かに嫌だよね。

 ましてや料理はおいしいけれどここは普通の喫茶店だし、特にこれといって目玉があるわけじゃない。

 まぁ、季節ごとに創意工夫された料理が出されてはいるけれど。

 「きゃっ」

 「明菜、大丈夫か?」

 「大丈夫です、店長」

 結構派手に転んだ明菜の元にここぞとばかりに店長は逃げていく。

 「何、あの子?」

 邪魔をされた緋紅は不機嫌を隠そうともせずに明菜を睨みつけた。

 「同じバイトの子」

 「ドジっ子キャラで朔さんの気を惹こうって言うの。厭らしい」

 あんたのほうが十分厭らしいよ。

 「キャラじゃなくて素だよ」

 そう言って私は自分の仕事に戻った。

 緋紅とみどりは結局閉店まで居た。

 出待ちのつもりで二人は裏口で店長を待っていたけれど、店長は私を連れて窓から脱出したので二人は結局無駄足を踏むことになった。

 それに付き合わされたみどりが正直哀れだけど、私にはどうすることもできないので放置することにした。

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