7話

 「ちょっと、何で服が乾いてないのよ!」

 帰って早々昨日の夜干した服が乾いていないことに母は怒りを露わにした。

 「天気があまり良くなくて乾かなかった」

 今日は曇りで、太陽は一度も顔を出さなかった。

 「あんたの干し方が悪いんでしょ!」

 ここ最近、由利の機嫌も悪いが母の機嫌も悪い。

 そんな母を見て父はそそくさと自分の部屋に避難する。

 君子危うきに近寄らず。

 全くだ。

 「何とかしなさいよ!これ、明日着ていくんだからね」

 そう言って母はハンガーに干してある服を取って私に投げつけて来た。

 「・・・・・はい」

 火に油は注ぎたくないので私は反論をしなかった。

 何とかしてと言われても魔法が使えるわけではないのでパパッと乾かすことはできない。

 壁時計を見て時間を確認すると夜二一を回っていた。

 歩いて二〇分程度の所に二四時間開いているコインランドリーがあるので私は服を適当な紙袋に入れて外に出た。

 まだ寒くなる気候ではないが暦の上では秋だ。そのせいか外は蒸し暑さもなく丁度いい空気が肌に纏わりついた。

 ニュースでは「残暑が」とか言っていたりもするが地球温暖化の影響か、気温は定着せず、冬の寒さが来たかと思えば、急に真夏日和に戻ったりもするので着ていく服に困る。

 紙袋の中に入っている服も半袖と長袖両方が入っていた。


◇◇◇

 「あれ?珍しい所で合うね」

 「・・・・・東雲さん」

 見た目のせいかコインランドリーが似合わない。

 私はちょうど乾燥を終えた服を紙袋に中に入れ終わり帰ろうとしているところだった。

 東雲さんはコンビニ袋を右手に下げ、左手には空っぽの紙袋があったので乾燥を終えた服を取りに来たのだろう。

 「女の子がこんな時間に一人で出歩くなんて危ないよ。特に君は美人だから」

 そう言って東雲さんはウィンクをする。

 キザさはなく、寧ろ様になっていた。

 「そうですね。もう直ぐ早く来るべきでした」

 「君はこんな時間に出歩くような子じゃないよね。女性の一人歩きは危ないし。危機管理が君はできる子だ。それでもこんな時間にわざわざ来たのはそう言われたのかな?」

 誰にとは東雲さんは言わなかった。

 「天気が悪い日が少し続きましたからね。なかなか服が乾かなかったんです。私が気が利かなかったのでコインランドリーに行く時間がこんなに遅くなってしまったんです」

 「・・・・・健気だね。そうやって庇うんだ」

 「庇ったつもりはありませんよ。私は要らぬ火の粉を浴びたくないだけですから」

 「そう」

 話をしている間に東雲さんは取りに来た服を紙袋に入れ終わっていた。

 男だし、堅気の分陰を一つもないので服を乱暴に紙袋に入れると思っていたのだが意外にも東雲さんは慣れた手つきで丁寧に服を折りたたんで袋に仕舞っていた。

 「送っていくよ。女の子の一人歩きは危ないからね」

 「え、でも」

 「俺も同じ方向に帰るからね」

 「・・・・・私の家の場所を知っているんですか?」

 「ああ、知っているよ」

 「教えた覚えはありませんが」

 朔さんも、友人でも個人情報だからと言って絶対に本人の許可なく教えたりはしない。私は東雲さんに私の家を教えることを朔さんからは聞いていない。つまり彼の情報源は朔さんではない。

 「俺は情報通だからね」

 「・・・・・そうですか」

 その情報源については聞いたも教えてはくれないんだろう。私も知りたくはない。

 知らぬが仏だ。

 「じゃあ、行こうか」

 「はい」

 私は東雲さんに家まで送ってもらった。

 東雲さんはとても気さくな人で、話すと面白い人だと言うことが分かった。

 東雲さんは私を送っていった後、元来た道を戻って行った。つまり彼の帰り道は私とは真逆だったのだ。だが、それを言わず、嘘までついて送ってくれたのだ。だから私は東雲さんがついた嘘には気づかず、「おやすみ」の挨拶をして家に入った。

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