8話
「あら、ご機嫌様」
朝、学校に行く途中で近所でもお金持ちで有名な奥様に会った。
「おはようございます」
「今から学校?」
「はい」
「そう。大変ね。遠い所に通うと」
「いいえ、自分で選んだところなので」
「まぁ!しっかりしているのね」
朝から毛皮のコートに身を包み、甲高い声を上げる奥様。
朝は何かと怠い。そんな時にこの奥様のような甲高い声は正直、耳障りだ。
「そう言えば。由利ちゃんは最近学校に行っていないそうね」
心配を装って聞いてくる。装っているだけで決して心配しているわけでない。
好奇心の塊のような人だ。暇な人間と言うのは人の粗を探し、面白おかしく言う。自分の言ったことに何の責任も持てないくせに。
「気候も安定せず、体調を崩しやすいですから仕方がありません。それでは私は学校があるので」
「あら、ごめんなさいね。長い間付き合わせて」
にっこりと笑うハイエナのような目をした女と私は分かれて学校を行った。
◇◇◇
学校から帰ると真っ暗なリビングのソファーに深く腰掛けた母が居た。
「ねぇ」
私を見もせず、何も映っていないテレビを凝視したまま母は私に話しかけてきた。
「今日、言われたの。あなたの娘さん夜遅くに男と歩いてたって」
そう言って漸く母は私に視線を向けた。
侮蔑の籠った視線だった。
「どれだけ私のことを貶めたら気が済むの?」
「ちょっと、待って、何を誤解しているかしらないけど」
「昨日の夜、男と歩いてたんだって。見た人が居るのよ」
「それは」
「信じられない。あなた何を考えてるの?」
「だから誤解だって」
「少しは考えて行動しなさい」
母は私の言うことを聞く気がないようで一方的に話を進める。
こちらが言葉を重ねようとしても自分の言葉を重ねて聞くこと自体を拒否する。
私の言うことなど聞く必要もないのか。
「もう、いい。分った」
「何が分かったって言うの?あなた何も分かっていないじゃない」
それはお母さんの方だ。
「私、この家を出て行く。そうして欲しいんでしょ」
「そんなことできるわけ」
「行く宛てぐらいある。私が居ると迷惑なんでしょ」
「待ちなさいっ!」
私は母の制止を振り切って二階の自分の部屋に行き、取り敢えず通帳とお財布、携帯を持って部屋を出た。今のこの状況で服までは持ち出せないので後日、誰も居ない時に帰って持っていこう。
「待ちなさいって言ってるでしょ!お母さんの言うことが聞けないの?」
階段に差し掛かった時、母が私の腕を掴んだ。
「そんな勝手が許されると思ってるの?」
「誰かの許可なんて要らない」
「ふざけないで。普通の高校生が一人で生きていける程、世の中甘くないのよ。人生舐めないで!」
「私がどこで野垂れ死のうとお母さんには関係ないでしょ!放して!安心して。野垂れ死ぬ時は身元が分からないように身分証明のできるものは捨てておくから」
「子供のくせに馬鹿言わないで。あっ」
「えっ」
ズルっと足が下に下がった。体が傾き、全てがスローモーションに見えた。
視界が闇に覆われる前にゴツンと重い音がした。
痛そうだなと他人事のように思った。
◇◇◇
「?」
「目が覚めた?」
「朔さん」
急に開けた視界。そこで最初に見えたのはホッと胸を撫で下ろす朔さんの姿だった。何があったのだろうと思い、思い返してみると自分が階段で母と揉めて、階段から落ちたことを思い出した。
「気分が悪い所はない?」
「特には」
「痛みは?」
「ないです」
「そう」
「あの。ここは病院で良いんですか?」
「ああ。柚利愛は丸一日寝てたんだよ」
「えっ!」
窓を見るとまだ明るかった。あの時は夕方で、明かりのついていないリビングは薄暗かった。
今はどう見積もっても昼ぐらいだ。
頭から落ちて、丸一日寝ていただけなら運が良かったのだろう。下手をしたら死んでいた。
私が寝ている間に警察が来て事情説明のようなものが行われたらしい。
私も目が覚めたので事情を聴かれた。
結果として今回のことはただの事故で片が付いた。
警察を呼んだのは一体誰でしょうね。当然だが親は呼ばないだろう。救急車ぐらいは呼んでくれたかもしれないが。
因みに朔さんがいるのは東雲さんから連絡を受けたからだそうだ。もしかしたら警察も東雲さんの仕業かも。なんて思ったけど、それを後でこっそり聞いても答えてはくれず、ただとても良い笑顔を見せてくれたので答えは間違えてはいないと思う。
今回のことは大したことには無からなかったが近所では「愛人の子(つまり私だ)が邪魔になって殺そうとした」とまことしやかに囁かれ、母は由利を連れて逃げるように家から出て行った。現在、どこに暮らしているかは不明だ。
東雲さんに聞いたらもしかたら何か知っているのかもしれないが私達には今、距離が必要だと判断し、聞かないことにした。
私も家を出て、朔さんの家で暮らすことになったのであの家には父一人が暮らすことになった。勿論、私が出て行くことに父は反対したが私はそれを無視して朔さんとの同棲を始めた。
「結局、バラバラになっちゃった」
私がそう漏らすと朔さんが私の肩を優しく抱いてくれた。
「ずっとこのままとは限らない。柚利愛、いつか温かな家庭を築いてもう一度戻ってこよう。例え受け入れられなくても俺が傍に居るよ」
『温かな家庭』それを朔さんと築く。嬉しいのと恥ずかしいので私の顏は真っ赤になり「・・・・・はい」と答えるのがやっとだった。
アルビノ。
それは私が死ぬまで変えられない事実。どこまで付き纏い、どこまでも私を傷つける。けれどそんな私を受け入れてくれる人が居た。
アルビノでいいんだと言ってくれる人が居た。
私は、私を理解してくれる人達と一緒にこれからの苦難を乗り越えようと思う。
いつか子供が生まれ、母の苦労が少しでも理解できたら、その子供を連れて母の元を訪ねてみようと思う。
もう一度家族が一緒になれる日を夢見て私は今日も頑張る。
双子なのに妹はヒロイン!?姉は家政婦(@ ̄□ ̄@;)!!家族の中は格差社会m(。≧Д≦。)mどこにでもカースト制度は存在する(*`Д´)ノ! 音無砂月 @cocomatunaga
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