24話 辻本加奈クラス委員長
緋紅はあれから誰からも相手にされず、勿論私の所に来るようになったが私も相手にしなかったし、みどりや小夏、他のメンバーが緋紅が私に近づく度に攻撃(口で)をしていたので完全に孤立してしまった。
この状況に不満を抱いている者が緋紅を除いて一名。
私はその人とそろそろ正面から向き合わないといけない。
「委員長」
「あら、珍しいわね。あなたの方から私に話しかけるなんて」
放課後、誰も居なくなった図書室で一人勉強をしていた委員長は口調は明るいけれど、私に向ける目には完全な敵意が込められていた。
「これ」
私が見せたのは緋紅の下駄箱に入っていたという写真だ。
「これを撮って、下駄箱に入れたのって委員長でしょ」
「そんな証拠、どこにあるの?」
「どこにもないわ」
「なら濡れ衣ね」
「そうなるかもね」
私は委員長と対面にになる位置に座った。
昔の私なら気にしなかった。
人間なんてそんなものだと諦めて、委員長のことなんて視界にも入れなかった。
私も随分、強くなったと自惚れて良いのだろうか?
「そうまでして私に勝ちたい理由って何?」
「あんたには分からないわよ。ちょっとの努力で欲しいものが手に入るあんたには」
「あなたの欲しいものと私の欲しい物は違うわ」
「できる人間の傲慢さね」
「そうかもしれない。普通でありたいと思っている時点で自分が特別だと豪語しているようなものだものね。
でも、ねぇ。特別な存在を羨み、妬み、貶めようとするあなた達#凡人__・__#が傲慢でないと?」
「・・・・それは」
「首席になることが全てになって余裕がない。誰かに首席になることを強要されてるの?」
「あなたには関係ないでしょ」
「関係なくなさせたのはあなたよ。援助交際の告発にこの写真を使った時点でね」
「・・・・・」
「あなたも私も籠に閉じ込められた鳥のようだわ。
おかしな話よね。籠の扉は開いているのに」
◇◇◇
『あなたも私も籠に閉じ込められた鳥のようだわ。
おかしな話よね。籠の扉は開いているのに』
家に帰った委員長こと辻本可奈の脳裏にはずっと柚利愛の言葉が繰り返し流れていた。
「可奈、塾のテストの結果が今日出たんでしょ。見せなさい」
下から聞こえる母の声に可奈は深い溜息をついた。
テストの結果を持って可奈は下におり、にこりともしない母に渡した。
「あら、今回は百点なのね」
「ママ。辻本家では百点何ね当たり前のことだよ」
と、余計なことを兄に言われ、可奈は睨みつけるが兄はどこ吹く風だ。
「それもそうね。入学試験は二位なんて情けない結果を出して、次も無理なようなら塾の他に家庭教師もつけることになるわよ」
両親は東都大出身で兄も現在、東都大に通っている。
辻本家ではそれが当たり前。学校でも常に首席を取るのが当たり前。
それができない者は落ちこぼれになる。
『籠に閉じ込められた鳥』
再び柚利愛の言葉が可奈の脳裏に流れた。
全くだと可奈は思った。
夏休み前に行われる中間テスト。結果は二位だった。
壁に貼りだされた結果を見てぎゃあぎゃあうるさい生徒の中で静かに自分の結果を確認している柚利愛を見た。
すると視線を感じたのか柚利愛も可奈の方を見た。
視線が合ったけど隣に居る#林青緑__はやしさいふぁ__#に話しかけられ行ってしまった。
その背中を見ながら可奈は思った。神山柚利愛も自分と同じ籠に閉じ込められた鳥なのだろうか、と。
だが、それを確かめることは可奈にはできなかった。そこまで自分達が仲が良くないという理由が一つと知ったところで共感持って仲良くなるなんて有り得ないと思ったからだ。
可奈にとって柚利愛はいつか首席を自分が得るまでのライバルに過ぎないのだ。
テストの結果が二位だったので可奈は母親にさんざん怒られた後、塾の他に前に言われた通り家庭教師をつけられた。
「どうも、家庭教師の#柳馬透間__やなぎばとおま__#です」
随分、顔の整った家庭教師だというのが可奈が持った最初の印象だった。
「うへぇ~。可奈ちゃん、塾、週五で行ってるの?遊ぶ暇ないじゃん」
「私は馬鹿で要領が悪いから人の倍努力しないとダメなんです」
「二位でも凄いと思うけどね」
「ダメなんです。それじゃあ、お母さんもお父さんも満足してくれない。私の知っている子はバイトを毎日してるのにそれでも首席なんです。だから私は彼女の倍努力しないといけないんです」
「ふぅん。俺はさ、毎日テキトーに生きてるからそういうのって分かんないけど。俺からしたら努力できること自体が才能だと思うよ。だって、言うのは簡単だけど、努力ってかったるいし、誰にでもできるもんじゃないじゃん」
そう言って貰えたのは初めてで、いつも『お前はダメな子だ』、『どうしてみんなみたいにできないの?』、『どうしてあなたはこんなに馬鹿な子に産まれたのかしら』、『努力が足りないのよ』と言われ続けて来た。
だから、透間の言葉は衝撃的で、そして心にあるしこりに沁み込み、可奈の目から涙を流させた。
透間は優しく可奈の頭を撫でた。
「可奈ちゃんはもう随分、頑張ってるよ。偉いね」
「・・・・・・ぃ。・・・・・はい」
泣き続ける可奈を呆れるでもなく、両親のように叱るでもなく、ただ優しく透間は見守ってくれた。
初めて努力を認めてくれた透間が天敵、神山柚利愛がバイトをしている喫茶店のシェフであることを知るのはもう少し先の話だ。
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