22話 みどりと緋紅

「えぇ、また行くのぉ~。私もうやだよ。帰りも遅くなるしさ。私、メリットなくない?」

この日も緋紅はいつものようにみどりを連れてシャノワールに行こうとした。

だが、連日連夜。それに付き合わされるみどりはさすがに難色を示した。

それもそのはずだ。

緋紅が朔に目をつけてシャノワールに毎日のように通い出してからもう一ヶ月が経とうとしていた。

むしろ、みどりよ。よくここまで付き合ったな。と、感心するレベルだ。

「いいじゃん!友達でしょ」

みどりが拒否をする度に緋紅はそう言う。

「友達にも限度っていうものがある。

私だって用事とかあるんだよ。毎日、緋紅に付き合えない」

「じゃあ、先にその用事をすませてよ。私も付き合ってあげるからさ。」

付き合って#あげる__・__#。とは、随分と上から目線の物言いだ。

彼女はいったい自分のことを何様だと思っているのだろう。

こういう態度が原因で、知り合って、仲良くなる可能性のあった友達がみんな去って行ったことに緋紅は未だに気づいていない。

更にたちの悪いことに彼女はそんな子達とは未だに仲の良い友達だと思っている。

初めてあったときに交換したLINEのIDを未だに登録していて、もう会ってもいない中学や小学生の子達のも入っているので『私、友達が百人いるの。凄いでしょ』と、LINEのIDを一人も登録していなかった柚利愛に言っていた。

『友達百人できるかな~♪ひゃーくにんでたっべたいな~♪日本のおにぎりを♪ぱっくんぱっくんぱっくんちょ♪』てか。

鈍感なのがアホなのか。

そんなことが可能だと本気で思っている緋紅はどこまでいっても馬鹿なのだろう。

人格者ならともかく、自称人格者の緋紅は無理だ。

「一ヶ月も通って未だにお客様対応。脈絡なんてないと思うよ」

「何言ってんの。朔さんは私と楽しそうに話してくれるじゃん」

そりゃあ、客相手にぶすっとした顔で話す人はいないだろう。

「それにいつも私と話してくれるじゃん」

客を無視する店長はいないと思う。

いたら、客商売、なめてるだろ。

「他の客とも同じように相手をしてるし。その他大勢じゃん」

「だから毎日通ってるんじゃん」

「それをしてるのは何も緋紅だけじゃないでしょ。イケメンだし」

「だから頑張ってアピールしてるんじゃん。アルビノってだけでモテる柚利愛なんかに負けるわけにはいかない」

「柚利愛と店長は恋仲には見えなかったし、店長は知らないけど柚利愛はその気がないようにも見えた」

でも無自覚に恋はしてそう。

面倒なのでみどりはそのことを指摘しなかった。

それに緋紅はアルビノだからって何かにつけて言ってるし、多分、人と違う柚利愛のことを無意識に羨み、嫉妬してるんだろう。

でも、みどりは柚利愛を見て、柚利愛を羨むことはなかった。

柚利愛は多分、みどりのことも信じてはないない。

仲の良い友達だとは思ってくれているかもしれないけどいざってなったら簡単に手のひらを返す人だと思っている。と、思う。

人は人を裏切るものだ。

それを知ってる柚利愛のどこを羨めば良いのか、どうして緋紅を初め一部の人間は羨めるのかみどりには分からなかった。

だって、それを知っている人は裏切られた経験のある人だと思う。

それに人は残酷な生き物だ。

己と違うだけで差別の対象にする。

緋紅が柚利愛を羨むのも差別をしているのと同じだ。

柚利愛はよく年配の教師、特に女の教師に目をつけられている。

髪の色が問題なのだろう。

外人に染めろとは言わないけど同じ日本人には染めろと言う。

アルビノみたいに派手じゃなくても色素の薄い子とかも染めろとか言われてるし、赤毛の子は影で染めてるんじゃない?と、言われたりもする。

黒髪が当たり前の人種は毛色の違う人間に敏感だ。

みどりはこの国はとても生きにくそうだと思っている。

「何でも良いけど私はもう付き合わない。

幼馴染みのよしみで一緒にいたけどもう無理」

「はぁ!?ちょっ、ふざけんなよ」

「その言葉そっくりそのまま返す。

あんたの横暴さにはついていけない。

誰を好きになるも誰にアタックするもあんたの関係だけど、それに私を巻き込まないで」

「ちょっと、それ酷くない?

友達なら恋の応援ぐらいしてくれてもいいと思うけど」

「友達なら少し友達のことも考えるべきだと思う。あんたにはついていけない」

「あっそう。じゃあ、もういい。みどりなんか要らない。

私はみどりや柚利愛と違って友達がたくさん要るからいいもん」

そう思っているのは緋紅だけだ。

だが、何を言っても無駄だということを知ってるみどりは「あっそう」とだけ答え、緋紅から離れるために踵を返した。

背後から自分を睨み付けている緋紅の気配を感じたがみどりは知らない不利をした。


◇◇◇

みどりと別れ、柚利愛とも仲たがいをしている(一方的な嫌がらせを緋紅が柚利愛にしているだけなのだが)と思っている緋紅は柚利愛と仲良くなるまでいたグループの子達に近づい。

「ねぇ、ねぇ、今日一緒に帰らない?」

当然だが仲の良い友達と談笑をしていた四人グループの子達は驚き目を丸くした。

彼女達は緋紅の度重なる遠慮のなさについていけず、言い方は悪くなるが緋紅をハブにしたのだ。

それでも積極的に自分達に関わろうとした緋紅だが、何を言っても無視される状況に諦めがついたのか、別のターゲット、つまり柚利愛に近づいたのだ。

「みどり達はどうしたの?」

「だってあの二人、酷いんだもん」

グループの一人、リーダー的な役割をする#小夏__こなつ__#がグループを代表して聞いた。

小麦色の肌を持つとても健康的な少女だ。は、事の顛末を知っているだけに緋紅の言葉に顔をひきつらせた。

それは他のメンバーも同じだった。

彼女達と緋紅は高校からの付き合いだ。

最初は何となく声をかけ、何となく一緒にいるようになった。

そんな中で時間が経つにつれ緋紅の性格についていけなくなり関係を一方的に終わらせたのだ。

そんな経緯から再び緋紅をグループの中に入れようと思う子はおらず、またみどりや柚利愛と仲たがいをしてしまった彼女に同情する子も居なかった。

「それでさぁ、一緒にシャノワールに行こうよ。あそこの店長さん、マジでイケメンなんだよ。

私、顔見知りだから紹介して#あげようか__・__#」

「・・・・シャノワールの店長がイケメンなのは噂で知ってる。結構、有名な話しだもん」

「あそこって神山さんがバイトしてる所でしょ。だったら紹介は神山さんに頼むわ」

「わざわざ緋紅に頼むわ理由はないもんね」

「はぁ!?あんな人の好きな人まで寝とる尻軽女に頼るとか馬鹿じゃないの?

だいたいさぁ、初めて見た時から思ってたんだよね。

柚利愛ってさぁ、性格悪いよね。

自分がアルビノだからって自慢してさ。

私がわざわざ『髪を染めれば?』って#忠告してやった__・__#のに聞かないし。

みんな、知らないかもしれないけど柚利愛って教師に目をつけられてるんだよ。

あんな裏で何してるか知らない人より絶対に私の方が特だって」

「目をつけられてるって田口でしょ」

「あいつケバいよね」

「厚化粧しないといけない程、スッピンが不細工だからって、ちょっと可愛い子がいたら直ぐに難癖つけるよね」

「男子には甘いくせにうちら女子には厳しいよね」

「媚びてんのかな?」

「やめてよ。キモイ」

「年考えろって感じ」

「緋紅もさぁ、もううちらに話しかけてこないでくれる」

ある程度田口の悪口を言って満足したのか、視線を緋紅に戻して小夏が友達と呼ぶには冷たすぎる視線と言葉を緋紅に投げつけた。

「は?何で?意味分かんないんだけど」

「だってさぁ、緋紅にとって友達って都合の言い道具でしょ」

「毎日当たり前のように宿題を写させて、でも自分は絶対に写させてくれないよね」

「私ら知ってるよ。この前あげた誕プレ、値段が幾らかわざわざ調べて『安い』とか文句言ってたって」

「それはだって・・・・・本当のことじことじゃん」

「はぁ!?」

「マジ、ふざけてんの?」

「最低」

「自分はお菓子の詰め合わせとかだっりするかせに」

「千円もしないよね」

「それで自分には一人五千円が相場とかよく言うよね。恥ずかしげもなく」

「本当。死ねばいいのに」

弁明するかと思いきやまさかの一言に完全にキレて、緋紅は集中砲火を浴びることになった。

「何それ。自分が悪いからって人のせいにしないでよ」

訳の分からない言葉を残して緋紅は小夏のグループを諦めた。

次に向かったのは中学からの知り合いだ。

だが、そこは小夏のグループよりも酷い言葉で詰られ、諦めるしかなかった。

そんなことを繰り返している緋紅はついにクラス内で自分の友達と呼べる人がいないことに気がついた。

「何よ、みんな。薄情なんだから。

ああ、このクラスは失敗だったな」

仕方がないので緋紅は一人でシャノワールに行くことになった。

「何だ、お前また来たのかよ」

出迎えてくれたのは店長の朔ではなくその弟の昇さんだった。

緋紅的には昇さんも確かに格好良いが(朔さんの血縁だけあって)態度が尊大過ぎてタイプではないのだ。

やはり男は紳士的でないと。

「朔さんは?」

「今出掛けてる」

「どこに?」

「どこでもいいだろ」

「私、客なんだけど」

「だから?」

「もう少し態度を改めたら?」

「はっ。兄貴目当ての奴に改める態度なんかねぇよ」

「ねぇ。朔さんと柚利愛の関係は?」

「何だよ。急に」

「だって、朔さんは私が最初に目をつけたのに一緒に買い物に行ったりとか抜け駆けするし。

朔さんやあんたは知らないみたいだけど柚利愛って援助交際してるんですよ」

「うちの従業員を貶めるような発言は止めてくれるか?」

「あっ!朔さぁん」

黒髪で顔に傷のある男を連れて朔が戻ってきた。

だが彼は笑みを消して緋紅を睨み付けていた。

けれどその様子に気づいてないのか緋紅は言動を改めようとはしない。

「本当なんですよぉ~。アルビノってやっぱりモテるんですよね。

いいですよねぇ。アルビノってだけでモテるなら私もアルビノに生まれたかったなぁ」

「君が彼女の何を知ってると言うんだ?

彼女がモテるのは事実だろう。でもそれはアルビノだからじゃない。

彼女だからだ。君がアルビノだったら、まずモテないだろう。素材が違いすぎる」

初めて言われた言葉にさすがの緋紅は絶句し、目を丸くして朔を見上げた。

「悪いけど、もう二度と来ないでくれるかな。

これ以上、君と無駄な時間を過ごしたくない」

「なっ。まっ」

「触るな。穢らわしい」

店の奥に行こうとした朔を緋紅は慌てて引き留めようとしたが、彼に触れる前に伸ばされた手を避けられてしまった。

「おい、このガキを追い出せ」

傷のある男が側に控えていたいかついた顔の男に命じた。

緋紅は突然のことで頭がついていけていないのか無抵抗のまま外に追い出される。

「すみません、#東雲__しののめ__#さん。折角来てくれたのに

「別に構わねぇよ。余計な虫が飛び交うのは良い男の性みたいなもんだからな」

東雲は朔がホストとして働いていた店の経営をしているヤクザの組員で、現在は組長の側近となる。

ホスト時代から東雲は朔を気に入り、仕事を辞めた今でも時折遊びに来るのだ。

朔も東雲とは気が合うのか二人でよく遊びにいっている。

「俺も一度会ってみてぇな。お前お気に入りの神山柚利愛に」

「彼女は毎日来てるので、いつでも会えますよ」

「今日も来るのか?」

「ええ」

「なら少し待ってみるか」

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