4話 由利side
「由利。由利のお姉さん見たいよ」
友人の希空(のあ)が話しかけて来た。茶髪に両耳ピアス。そこら辺にいるギャルだ。遅刻欠席、早退も多いので教師に目をつけられている。よく注意をされている現場を見たことがある。
友人、と言っても時々話をする程度だ。そこまで深い関係ではない。
「やっぱ目立つね。アルビノだっけ?外人みたい」
またか。と、私は思う。
よく柚利愛のことを言われる。双子なのに柚利愛はプラチナブロンドに青みのかかった瞳。それに乳白色の肌。
どこに行っても目立つ柚利愛はどこに行っても話題の的で、同じ中学の時はよく先生に柚利愛のことで注意を受けた。でも、神経の図太い柚利愛は髪を染めることもせず、その度に注意をされる私のことなんて考えてもくれない。
本当に良い迷惑。まるでアルビノであることを自慢しているみたい。
玄関で出かける柚利愛に声をかけた時も自分は普通だみたいなこと言ってたけど、何それ。皮肉?
そうやって自分は普通だと言って自分を上にあげて周りを見下して、本当に性格が悪い。だから友達ができないんだよ。
「由利のお姉さんさ、すっごい美形の男を連れてたよ」
私は希空に視線を向けてもいないし、返事もしてはいないがそんなこと構わないのか希空は勝手に話を進める。空気の読めない友人だ。
「私、あの人知ってる。シャノワールの店長でしょう。あそこ一時期バイトを募集してたんだけどさ私不合格だったんだよね。あれかな?見た目とかで選んでるのかな?店長って元ホストって話だし」
双子の片割れが元ホストと付き合うなんて外聞悪すぎ。柚利愛の評判が落ちると私が周りに色々言われるんだけど。
そういうところ、柚利愛は全然分かってない。
「由利はバイトしないの?」
出たよ。
どうして双子だとセットで考えるんだろ。
片方がこれをしてるんだからもう片方がそれをするのは当然だみたいな質問。
「別に」
「ええ、すればいいのに」
「面倒くさい。お金に困ってるわけじゃないし」
「いつも、お金がないって言ってるじゃん」
「だからってバイトをする程でもないもん。それに私、無駄遣いとかしないし」
「ふぅん。ねぇ、帰りにシャノワールに寄っていかない?」
「ええ、やだ。行かないよ」
「何で?いいじゃん。双子の片割れが働いてる姿とか見たくない?」
全然。興味ないし。
「早く帰りたいもん」
「たまには付き合ってよ」
ああ。本当にうざいな。
◇◇◇
結局私は希空に連れられてシャノワールに行くことになった。
早く帰りたい。
「いらっしゃい」
ドアを開けるとドアについている鈴が鳴り、中から昨日玄関で聞いた男と同じ声がした。
「あ、あの」
爽やかに笑うシャノワールの店長に希空は頬を染めて積極的に話しかけようとしていた。
「初めてかな?席は空いているところを適当に選んで座っていいよ。うちは基本的に全室禁煙だから」
「え、あ、はい。あ、あの、こ、この子!そう、この子、ここで働いてるアルビノの子の双子の妹なんです!」
積極的に話しかけようも客と店員としてしか相手にされずにすぐに離れていこうとする店長を引き留めるために希空は最悪なことに私をダシに使って来た。
店長が私を見る。初めて私の存在に気づいたように。
「知っているよ。ここはよく柚利愛のクラスメイトの女子がよく来るから。みんな似たり寄ったりのことを言っている。『柚利愛の友人だ』って。でも、それは俺には関係のないことだから」
「・・・・・」
完全な拒絶。
希空は出方を間違えたのだ。
みんなが柚利愛をダシにしてこのイケメン店長に近づこうとしているのだろう。
モテる男も大変だな。
「あの」
「何?」
「元ホストで、顔も良いんだから別に柚利愛じゃなくてもいいですよね」
私がそう言うと店長は目を細める。口元には変わらず笑みを浮かべていたがそれが余計に怖かった。でも、ここで退くわけにはいかなかった。だって柚利愛とこの男が付き合うと絶対に私にまで火の粉が飛んでくる。
何で私が柚利愛のせいで苦労しないといけないの。
「俺は柚利愛以外を恋人にするつもりはないよ」
「アルビノだから珍しいだけでしょう。正直、いい迷惑よ」
「みんなもそうだけど、どうして彼女をアルビノとしか見ないの?
まるで柚利愛にはそれ以外何の価値もないみたいに」
「あの子のせいで私は色々と苦労させられてるんです。髪も先生に注意されているのに染めないから先生に私が怒られるし。アルビノだからって自分は特別みただって勘違いして一匹狼なんか決め込んで」
「君は本当に何も知らないんだね」
「何がです?」
呆れたように店長は溜息をついた。その姿が柚利愛と重なって余計に私を苛立たせた。
「彼女はアルビノでも何でもない。普通の子だよ。もし特別だと言うのなら、それは周囲がそうさせただけにすぎない」
「責任転換ですか?」
「本当に頭の悪い女だ」
一瞬で口調も雰囲気も変わった。
血の気が一気に引いて、膝がガクガクと震え出した。
隣に居た希空も恐怖のあまり私の腕に抱き着く。
逃げなければと本能が言っているのに体は縫い付けられたようにそこから動かない。
「自分の都合でしか物事を考えられないのか?さすがは両親に甘やかされて育っただけはあるな。
だいたい、柚利愛から散々甘い蜜を吸っておいて随分な言い草だ」
「な、何のことですか?」
「それはとぼけているのか?それとも本当に分からないのか?」
「・・・・・」
堪えられない私に店長は深い溜息をつく。
一体何だと言うのだ。
「お前は年頃の割には金をよく使う。親の小遣いだけでは足りないだろう。それでもお前がバイトをする必要がないほどお金に困らないのは柚利愛から巻き上げてるからだろ」
「そ、そんなの」
「知らないなんて言わせない。目の前で母親に金を徴収され、それがお前に手に渡るのをお前はその目で見ているんだからな。
言っておくけど俺にとって柚利愛が最優先事項だ。
お前らのことなんかどうでもいいし、お前らが柚利愛を傷つけると言うのならその時は容赦はしない。分ったな」
私は無言で頷くしかなかった。
私が頷くのを見ると店長は用は済んだとばかりに仕事に戻って行った。
そこで漸く圧迫感から解放された私と希空は逃げるようにシャノワールを出る。
「由利、何をしているの?」
そこで柚利愛に会った。どうやら今からバイトのようだ。
「・・・・・別に、何も」
恐怖のせいでまだ口が上手く動かない。それでも、それだけは言うことができて私は希空とそのままそこを離れた。
背後から私達を訝し気に見る柚利愛の視線を感じたが、振り返り、事情を説明するだけの余裕はなかった。
取り敢えず、店長と柚利愛にはもう二度と関わらないようにしようと思った。
あの男に変に関わると危険だし、そんな男と平気で付き合える柚利愛はやっぱり普通じゃないのだ。
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