17話
極力、買い物の時間を他のことに回す為に母と父に頼んで宅配サービスというものを始めた。
宅配サービスがチラシや雑誌などをくれるのでそこから番号を選んで注文書に記載。
自分の家のポストに入れておけばサービスの人が回収して、その一週間後に頼んだものが届くという仕組みだ。
だから物が頼めるのは一週間に一回となる。
送料はかかるが最初の三ヶ月はお試し期間で送料無料となる。
私がその宅配サービスで買うのは主に特売の物でスーパーよりも安いものを中心だ。
まだ始めたばかりと言うか、今日初めて注文書をポストに入れたのだ。
今週一週間は買い物をしなければいけないが、来週には頼んだものが届くので買い物に回す時間を他のことに回せると・・・・・思っていた。
「どうして注文書が家にあるの?
今のテーブルの上に新たに宅配サービスから届いた注文書や雑誌以外にも昨夜記載して、今朝ポストに入れておいた注文書がなぜかそこにあった。
「ああ、それ。由利が郵便物と間違えて持って帰ってきちゃったのよ」
時間を確認したらもう回収時間は過ぎていた。
「・・・・・昨夜言っておいたのに」
「仕方ないじゃない。間違えた物は」
ああ、そうですね。
確かに間違えてしまった物は仕方がない。
私は一応宅配業者に確認の電話をしたが時間が過ぎているので回収不可となった。
つまり来週も私は買い物に行かないといけないということか。
世の中、どうしてこんなにも上手く行かないのだろう。
何でも最初はこんな感じに失敗するものだ。
私は前の注文書を破棄し、新しい方を持って部屋に行った。
いつものように内職をしていると由利がノックもなしに入って来た。
「またパソコン弄ってるの。カチャカチャカチャカチャ、うるさい」
「うるさいって、別に百合の部屋まで聞こえるような大音量は出していないはずよ」
というか、聞こえるのならどんだけ壁薄いんだよ。
手抜き工事のレベル遥かに超えてるだろ。
「何の用?今忙しいの。宿題なら自分でやって」
「パソコンで遊んでるだけじゃん。
それに宿題はいつも自分でやってる」
私がした宿題を丸写し、あるいは私に答えを聞いてノートやワークに記入することは自分で宿題をしたことになるのだろうか。
まぁ、書いているのは本人なんだから『した』という言葉は間違いではないのかもしれない。
『解いた』というのなら間違いではあるけど。
日本語はなかなか難しい。
「今度、買い物に行かない?」
「・・・・また急ね。いつもは私と一緒に行きたがらないじゃない」
「だって、柚利愛と一緒だと目立つんだもん。隣を歩いて欲しくない」
そうですか。
「じゃあ何で、今回は誘うの?」
「もう直ぐお母さんの誕生日じゃん。だから何かプレゼントしない?」
関心がなかったから忘れていたがそう言えば来週あたりが誕生日か。
くだらない。そう思うのは、薄情だろうか。
「今月は厳しいから無理」
病院代もかかったし。
「だから二人で買おうって言ってるじゃん」
母の誕生日プレゼントなんて毎年買っているわけではない。
そもそも由利が言い出さなければまず買わないのだ。
つまり、由利のいつもの気紛れだ。
「日頃の感謝じゃん。それぐらい買っても良いでしょ。柚利愛は本当にケチだよね」
一体何を感謝すればいいのか私には分からない。
「取り敢えず、日曜日ね」
「その日はバイト」
「いつも入ってるじゃん。休めないの?」
「忙しい所だから無理」
「じゃあ、土曜日ね。私は今週の土日しか空いてないからそれ以上は無理。
何とか都合をつけてよね」
予定が空いてないって。ただ友達と遊ぶ予定がびっしり詰まってるだけじゃん。
でも、由利はそれ以上を譲るつもりはないようでこれは決定事項だとばかりに部屋を出て行った。
由利みたいに世界が自分を中心に回っていると思っている人間の目には世界はどんなふうに映っているのだろう?
きっと、とても輝いているのだろう。
小説やドラマの主人公も由利みたいに輝かしい世界をその目に映しているのだろう。
羨ましいとは思う。
その反面、くだらないとも思う。
◇◇◇
土曜日
「もうちょっと離れて歩いてよ。
あまり近づかないで。連れだと思われたくない」
私は由利と母の誕生日プレゼントを買う為に買い物に来ていた。
由利は目立つ私と一緒に歩くのが恥ずかしいみたいで私から極力距離を取ろうとする。
面倒くさい。
「これいいんじゃない?」
由利が決めていたショッピングモールに入り、目に留まったお店に片っ端から入って行く由利の後ろを私はついて行く。
由利はああでもない、こうでもないと悩みながら色々と手にとっては棚に戻すを繰り返している。
私も一応選ぶのを手伝った方が良いのかと思い母が普段から持ち歩いている物から母の趣味を考えて手に取ったのは化粧ポーチだった。
確か数年前に買ったボロボロの化粧ポーチを持っていた。
雑誌で最近ポーチをチェックしていたのでそろそろ新しいのに買い替える気でいるのだろう。
そう思って私は目に留まった化粧ポーチを由利に見せた。
「何かダサくない。それに化粧ポーチってお母さん持ってるじゃん」
「でも最近雑誌でチェックしてたし」
「じゃあもう買うものを決めてあるんじゃない?」
「何かさりげなくどういうものが欲しいか聞いてないの?」
「聞いてないよ。だってサプライズだもん」
それでも何か聞いておけよ。
「予算は幾らなの?」
「私、そんなに手持ちがない」
嘘つけ。
貯金額百万円近くあったよな。
そりゃあそうだ。
遊びに行く度に私から(母経由で)お金貰ってるし、お昼のご飯代だって一〇〇〇円ぐらい貰ってるのにおにぎり一個で済ませてあとは自分のお財布に仕舞ってる。
それに毎月のお小遣いだって貰ってる。
でもそれは全額貯金してるから由利は結局自分のお金を一切使ってはいないのだ。
「で、幾らなの?」
「一〇〇〇円ぐらい」
私が手にしたポーチは五〇〇〇円。
二人で二五〇〇円。つまり、予算オーバーで却下したわけだ。
っていうか二人で二〇〇〇円の誕生日プレゼントって・・・・・。
一人で買えよ。
「・・・・・あっそ」
それからたくさんの店に入ったけど私が選んだものはことごとく由利に却下された。
自分でお金を出すから(私も出すけど)自分が納得したものじゃないとあげたくないのだろう。
じゃあ、私のいる意味ってないよね。
ああ、もう、帰りたい。
私は由利が入って行った店の前にあるベンチに腰かけて由利が出てくるのを待った。
最早、選ぶ気なし。
「決まったの?」
「全然」
手ぶらで出て来た由利を見て私はつきそうになる溜息を何とか堪えた。
「これ、ジュース。買って来た。柚利愛の分」
「・・・・ありがとう」
さっき自販機の所に行っていたから買って来たのだろう。
「五〇〇円で良いよ」
「・・・・・」
お金を徴収するとは思っていたよ。
喩え私が頼んで買って来たものではなくとも。
私は由利に一五〇円渡した。
缶ジュースも最近は値段がバラバラでいくらか分からないけど一五〇円渡しておけば少なくとも足りないってことはないだろう。
由利は不満そうだが。
「ちょっと、お金はきっちり返してよ」
「自販機に五〇〇円の缶ジュースがあるわけないでしょ。
それに返せと言うのなら私も徴収するよ。今まで由利に貸した分のお金」
一体何十万になるだろうね。
「はぁ?私、柚利愛にお金借りてないし」
「あんたが今まで遊びに行く度に私から取っていったでしょうが」
「それは借りたんじゃない。貰ったの」
大した根性だ。
由利と話すと疲れる。
「もういい。次の店に行くよ」
「何で直ぐにそうやって怒るん?」
「・・・・・」
「訳分らんし」
暫くお互いにイライラした気持ちのままショッピングモールを歩いた。
「お腹すいた」
唐突に由利がそんなことをい言った。
朝の一〇時から動いて、今は一四時を回っている。
お昼の時間帯には遅すぎるが、飲食店はそろそろ人も少なくなってきて丁度いい時間帯だろう。
「何食べる?」
「私、お金がない」
それって私に出せってこと?
「じゃあ、出せる範囲で決めたらいい。ハンバーガーならセットで頼んでも六〇〇円以内に収まる」
「私、交通費とプレゼント代しか持ってない」
「じゃあ、諦めたら」
「お腹すいた」
「持ってないなら出せないじゃん。それとも下ろす?ATMならそこにあるけど」
「私の通帳の残高一〇〇〇円」
嘘つけ!
使ってないのに、減るかよ。
「下ろせばいいじゃん。一〇〇〇円なら腹は満たされる」
「無理。今月どうやって乗り切るの?」
「知らない」
ぎゃぎゃ言う由利を無視してお昼も返上でプレゼント探しをしたので百合の機嫌は最高潮に悪い。
お互いに口を利かずに買い物は終了。
結局、由利がプレゼントに選んだのはハンカチとお菓子の詰め合わせ(子供が買うようなスーパーの)。
小学生の子供が贈る様なプレゼントだ。
そして、そのプレゼントを由利は母の誕生日に「これ、#私からの__・__#プレゼント」と言って母に渡していた。
母はとても嬉しそうに由利に抱き着き、由利にお礼を言っていた。
私も一応、買い物には付き合ったし、お金も出した。
でも、由利の言い方からして母はあれを由利からのプレゼントだと思っただろう。
気の利く優しい娘じゃないか。
そんな皮肉を心の中で囁くが、私は決して由利の言葉を訂正したりしない。
何故って?
答えは簡単だ。
面倒だから。
『そんな細かいこと、どうでもいいじゃない』とか何とかきっと色々言われて母の不興を買うだろう。
そんなにことになればお互いの不快指数が増すだけだ。
私は嬉しそうに話す母と由利を横目に自分の部屋に戻った。
「今江も用意したんじゃないのか?」
私の後を追って来たのか、父がそんなことを言ってくる。
「ちゃんと言えばいいのに」
「選らんのは由利」
「でも、お前もお金を出したんだろ。だったら」
「どうでもいい」
関係ないじゃないか。
私がお金を出した?
プレゼント選びに付き合った?
だから何?
私がしたことで母が喜ぶようなことがあったか。
「どうせ『あっそう』の一言で終わる。
なら、言っても言わなくても同じじゃない」
「でも」
「私は我儘な由利に付き合っただけ。ただ、それだけよ」
「はぁ。お母さんももう少しお前に優しければ良いのにな」
そう言って父は私の部屋を出て行った。
優しかったら?
何それ?
「・・・・・くだらない」
呟かれた言葉は床に落ち、溶けて消えた。
誰の耳にも入ることはなかった。
当然だ。
私しか居ないのだから。
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