12話

 「面倒くさい。さっさと病院に行かないからそうなるのよ。

 どうせ大したことがないんだから学校に行きなさい」

 朝、起きたら倦怠感、悪寒、頭痛がした。

 熱を測ったら微熱だった。

 そして、それを知った母の最初の一言が上記にあるものだ。

 「大げさなのよ。その程度で」

 「柚利愛、学校休むの?」

 「テストも近いんだから休ませるわけないでしょ。

 柚利愛、あんたは由利と違って頭が悪いんだから学校に行きなさいよ。

 熱なんて自然と下がるわよ」

 ・・・・・由利が私より頭が良いね。

 少なくとも私は由利みたいに下から数えて一〇番以内は取ったことがない。

 「行ってきます」

 私は解熱剤を飲んで家を出た。

 一応、マスクもつけている。

 いつものように満員の電車に乗り、駅から学校まで徒歩

 頭が少しボーッとする。

 薬が効いて来たのか、頭痛は学校に着く頃には和らいでいた。

 「柚利愛、おっはよぉ!」

 「・・・・おはよう」

 甲高い緋紅の声が頭に響く

 頭痛が再発しそうだ。

 一つが気になるとさっきまで無音だった世界に一気に大音量が流れ出し、その全てが不快だった。

 「どったの?元気ないね」

 「今日、朝熱測ったら微熱だった」

 「えっ!?やっだ、うつさないでよ」

 イラッと来るよね。

 どいつもこいつも。

 別に心配して欲しいとは思わないけど体調不良の友人に対して最初に発する言葉がそれって人としてどうなの?

 朝開口一番に聞いた母の言葉もあって不機嫌な私の機嫌が更に悪化する。

 イライラで体調も悪化しそうだ。

 「マスクしてるでしょ」

 「待って、もっと離れて。

 マスクは万能じゃないから隙間から菌が私に来るじゃん」

 「なら私から離れたら?」

 私に近づいて来たのは緋紅なんだから、緋紅から離れるべきだと思う。

 「えぇ。だって私から離れたら、私なんか感じの悪い子じゃない。

 そういうふぅに思われたくないから柚利愛から離れてよ」

 もう既に感じの悪い奴だよ。

 「おはよう。緋紅、柚利愛」

 「おはよう、みどり」

 「・・・・おはよう」

 「どうしたの、柚利愛。なんか顔色悪いよ。大丈夫?」

 「柚利愛、体調が悪いんだって」

 「そうなんだ。大丈夫?」

 「薬飲んで来たから、一応」

 「そう。あんま無理しない方が良いよ。

 今日、休めばよかったのに」

 「そうだね」

 休めたら良かったんだけど。

 というか、今日初めてのまともな対応

 母がうるさいから学校に行ったけど無理だったら保健室で休ませてもらおう。


 私は結局、早退せずに学校の一日を終えた。

 これからバイトだ。

 「柚利愛、大丈夫か?」

 バイト先に行くと真っ先に店長が来た。

 「・・・・はい」

 と、答えられたものの頭がぼーっとして店長の声がどこか遠くに聞こえる。

 「柚利愛っ!?」

 焦る様な店長の声を最後に私の視界は真黒に染まった。

 一体何が起きたのだろうか?

 停電かな?

 私には一瞬の出来事だったので視界に光が戻った時シャノワールに居たはずの私が自分の部屋のベッドに寝ていたことには驚いた。

 階下に行くと不機嫌な顔をした母が居た。

 「バイトで倒れたあんたをシャノワールだっけ?

 そこの店長があんたを運んできたのよ。

 ちゃんと体調管理しないからそういうことになるんでしょ。

 高校生にもなって自分の体調管理もできないなんて恥ずかしい。

 止めてよね」

 母は「あんたは本当にどうしようもない子ね」と言って溜息をついた。

 いつものことだ。

 「明日、病院に行ってきなさいよ」

 「・・・・はい」

 もう既に行っているがもう一度行くか。

 それよりもお腹がすいた。

 時刻は二〇時

 まだ夕食を摂っていない。

 「あの、ご飯は・・・・」

 「あんたが何も用意してなかったから適当に食べたわよ」

 いや、私のご飯・・・・用意しているわけないか。

 「そう」

 台所に行って冷蔵庫を見てみたが病人の私が食べれる物は入ってなかった。

 私はお粥が嫌いなので雑炊を作ることにした。

 「柚利愛、何してるの?」

 風呂上りなのだろう。

 濡れた髪を拭きながら肌を上気させた由利が来た。

 「お腹すいたからご飯作ってる」

 「雑炊?私も食べたい」

 私の手元を覗き込みながら由利が言う。

 病人の私に作らせる気か。

 「食べるなら由利が作ってよ」

 「何でよ。今、柚利愛が作ってるんだからいいじゃん。序に私の分も作ってよ」

 本当に溜息しか出ない。

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