14話side:朔
「兄貴。柚利愛、大丈夫なのか?
倒れたんだって?」
「ああ」
柚利愛が目の前で倒れた。
額に手を当てるとかなりの熱があることが分かった。
慌てて家に運んだ。
「どちら様で?」
柚利愛の家に行くと彼女の母親らしき人が出て来た。
とても面倒そうに対応する女性に柚利愛のことを言うとなぜか溜息をつかれた。
普通、そこは娘の安否を心配するものではないだろうか。
柚利愛の家庭環境とか詳しくは知らない。
突っ込んで聞くようなことでもないと思ったから。
人の家族、ましてや親のことを悪く言うのは良くないことだとは分かっているがあまり好感の持てる人ではなかった。
俺は柚利愛の母親とのやり取りを思い出し、眉間の皺を深くさせた。
「皺になるぞ」
「うるさい」
透間の茶々を返しながら俺は柚利愛のことを考えていた。
「柚利愛から両親のことって聞いたことあるか?」
「ないな」
「俺もない。元々口数の多い奴じゃないし」
「確かに、柚利愛からあまり自分のことを聞いたことはないけど、ここ最近お前目当てで来てる柚利愛のクラスメイト」
「クラスメイト?ああ、あの頭の悪そうなガキか」
透間の言葉で思い浮かべたのは二人の内、緋紅と呼ばれている方だ。
それは昇も同じで、隠すことなく出た辛口に俺は苦笑を漏らす。
「あいつ等といる時と俺らといる時の柚利愛って感じがガラッと変わるよな」
「俺らや友人に見せている顔が同じなわけないだろ」
「いや、そうじゃないくてだな」
常に本音で生きている昇は透間の言いたいことが分からなかったようだが、俺にはよく分かる。
「誰だって自分を演じているものだろ?透間」
「・・・・それもそうだな」
「面倒くせぇ生き方してんな」
「お前のように生きれる人間なんて少数だ」
「全くだ」
「明日、喫茶店を休業しても良いか?」
「ホール二人じゃ回んねぇから良いだろ」
「店長は兄貴だろ。兄貴の好きにしろよ。数日休んだからって問題はねぇよ」
俺が色々と拘ってるせいで喫茶店の従業員は増えず、みんなには負担ばかり行く。
どうしてもの時はホスト時代の友人を助っ人に頼んだりもする。
柚利愛の体調不良が長引くようなら今回もその手で行くつもりだ。
あまり長く休業していると柚利愛が自分のせいだって気にするから。
「で、兄貴は明日仕事サボって柚利愛の看病をしに行くわけか」
「片想い中の男はフラグを立てるのに必死だね」
「うるさいぞ、外野二人」
フラグ云々はともかく母親の態度が気になるので明日、様子を見に行く予定だ。
翌日、俺は柚利愛の家に行った。
高校生にもなって親が仕事を休んでまで看病するってのはあまりないことだ。
だから様子を見に行った柚利愛の家に誰も居ないのは別にいい。
驚きはしない。
衝撃的なことは冷蔵庫に柚利愛が食べれそうな物が何も入っていないということ。
柚利愛の為にと用意されていてもおかしくはないお粥関係のものすらなかった。
普通は用意するものではないだろか?
お腹に何か入れないと薬も飲めないのだから。
何も用意せずに仕事に行ったということは随分と気の利かない親だ。
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