第27話 社畜なソウシ
「ありがとう。モニカ、タチアナ」
まさひこの棺桶を引っ張りながら、俺は二人へ礼を述べる。
思った以上に宝箱があって、多くのアイテムを手に入れることができた。
「いや、しかしいいのか? ソウシ殿。これだけのアイテムを頂いても」
「うん、必要ないからね。この中に当たりがあれば……少し使わせてもらうけど。用が終わったらそれも渡すから」
「んー、いや」とモニカはまだ悩んでいるようだけど、俺にはアイテムなんて必要ない。
せいぜい売っぱらってドールに変えるくらいだもの。それだったら、モニカたちに使ってもらった方が遥かによいさ。
もちろん、売ってくれてもおっけーだ。むしろ、俺なら炉に放り込みたいモノが多数ある。
「ソウシさん、こんなにたくさんアイテムがあったのに何だか不機嫌そう?」
「あ、いやさ。アイテム名が……イラッとして」
「そ、そうかな……」
タチアナから乾いた笑い声が漏れた。
「先にまさひこを復活させてから、一旦取得したモノを全て並べるか」
◆◆◆
モニカパーティと別れ、自宅に戻る。
暖炉の前に拾ってきたアイテムを並べ腕を組む。
けっこう数があるなあ。
・武器
ブリューナク
美女神の槌
戦乙女の剣
・防具
女神の羽衣
女神の鎧
美女神の具足
・アイテム
女神の吐息
女神の秘薬
六分儀
透明薬
復活の種
加速装置
これがラストダンジョンで拾ったアイテムリストになる。
女神シリーズとか要らねえし、美女神とか自分で名前を付けるセンスにイライラと……。
表面的な攻撃力とか防御力、アイテム名といったものは勇者が手に持つとウィンドウで表示されるので、モニカたちに聞いてアイテム名を知った。
攻撃力に関しては、店売りのものなど及びもつかないどころか天国の階段などの宝箱に納められた武器の倍くらい強い。
しかし、単純な攻撃力なんてどんな数値でも一緒だ。
問題は「隠しパラメータ」とでも言えばいいのか、武器それぞれに隠されたマスクデータを知りたい。
「すごい性能の武器・防具ですね」
湯気をたてるハーブティーをテーブルの上に置きながら、由宇が感嘆の声をあげる。
「問題はこれらがどんな隠し能力を持っているかなんだよ」
「へええ。隠し能力とかあるんですか?」
「うん。勇者が確認できないパラメータなんだけど、例えばサンダースタッフは振るとMPの消費無しで電撃の魔法が使えるとか」
「おお、ゲームみたいですね」
「うん」
六分儀とか、ラストダンジョンで手に入れるようなアイテムじゃねえだろ。
洋上にこの後の冒険で行くことなんて無いんだし……。いろいろ突っ込みどころはあるんだが、今は黙って全部魔王のところへ持っていくとするか。
女神の吐息とかいうアイテムに関しては、手に触れたくもないが……小瓶に入っているから……我慢だ。我慢。
「女神様の秘薬ってなんかすごそうですよね!」
「飲んでみる?」
「いえ……このメッセージで飲もうとは……」
女神の秘薬の説明文は使った時の効果が記載されておらず、
『あなたの欲望を満たしてくれる』とだけ書いてあるらしい……。
飲んだら呪われそうだよ。ほんと。
アイテムそれぞれの説明文を読む限り、女神の奴……本性を見せず無難なことを書いているな。
秘薬や吐息でさえ、そうなんだもの。
例えばブリューナクだと、『とある戦女神が使っていた伝説の槍』といった感じだ。
俺に対してもずっとかしこまった感じだったら、クソ女神の悪行に気が付くのが遅くなったかもしれない。
そういう意味では、自宅にあった数々のエロ親父臭い書置きも悪くはなかったのか? かなりイライラしたけど……。
「由宇。魔王のところへ行ってくる」
「はい。夕飯を作ってお待ちしてますね」
◆◆◆
――魔王城。
玉座に座る魔王は並べられたアイテム群へ眉をひそめている。
「ソウシ。これを全部見ろと?」
「これはほんの一部です。この中に『当たり』があれば、これで終わりですが」
「ううむ。しばし待て。このアイテムについて『世界の理』を閲覧できればいいのだろう?」
「はい」
魔王はゆっくりと立ち上がり、虚空を掴むような仕草をすると何もない空間から大きなサファイアがはめ込まれた杖が現れた。
そのまま顎を落とし考え込む素振りを見せること、数分……。
「よし。これでいいだろう」
魔王はそう呟くと、杖を二度振るう。
すると、魔王の手元が光り、彼の手のひらに小瓶が出てきた。
「それは?」
「この中に入っている錠剤を飲むといい。一錠で三時間程度の効果時間がある」
「どのような効果かだいたい察することはできるのですが……」
「おっと、説明しておらぬかったな」
魔王の出してくれた真っ赤な色をした錠剤は、飲むと目にしたアイテムのパラメータが全て見ることができるモノだったのだ。
これがあれば俺が自分で調査することができるし、魔王としてもいちいち全ての内容を伝えなくて済む。
「ありがとうございます。錠剤が無くなったらまた来ます」
「うむ。また何かあれば来るがよい」
よっし、じゃあさっそく調べるとするか。
◆◆◆
……な、なるほど。魔王が戸惑った理由が分かった。
これ……見たくもないパラメータも大量に出るんだな。
試しに女神の羽衣を手に取り閲覧してみると、ざああああっと五百行のプログラムデータが出てきやがった。
色のIDとかユニーク番号とか、形状の数値とか……なるほど。こうやって女神はアイテムを生成していたんだな。
いわゆるプログラムの生データが出て来たものだから、一つ見るだけでも非常に面倒だ。
この数字とアルファベットの羅列を魔王から口頭で聞いたとしたらかなりきつかったから、この薬はありがたい。
パソコンがあれば、データを流し込んで見やすいように……つまり、勇者が見ているようなメッセージに変換できるんだが、生憎ここは異世界。そんな便利なモノはないのだ。
ち、ちくしょう。勇者たちの死亡ウィンドウが落ち着いたと思ったら、今度は懐かしのプログラムでひいひい言うことになるとは。
あの時のことは思い出したくないのだが、俺の本能にまで刻み付けられたIT企業の社畜根性がむくむくと蘇ってくる。
「見ていろ。クソ女神。お前のスパゲッティのような入り組んだデータには負けねえ!」
暖炉の前で立ち上がり、天に指さし叫ぶ俺なのであった。
――翌朝。
はあはあ……ぶっ続けで何時間経ったんだ?
確か由宇が作ってくれた夕食を食べてからずっとここでプログラムとにらめっこしている。
ノートへアイテムに記載されたプログラムを写し、どの変数が何を指しているのか読み取り続け、ようやくだいたい分かってきたぞ。
知りたい部分だけ抜き出せるように見るだけでよかったのかもしれない。
しかし、全ての変数を解析しないと俺の気持ちが収まらなかったのだ。ビバ社畜精神。
「ソウシさん、まだやっていたのですか!」
眠気眼で二階から降りて来た由宇が目を見開く。
「由宇!」
「は、はいいい!」
つい大声を出してしまった。
ダメだ。社畜の頃の癖が……いかんいかん。
「ご、ごめん。大きな声を出すつもりは無かったんだ」
「い、いえ。それよりお体は大丈夫ですか? 暖かいミルクでも淹れてきます」
「ありがとう。助かるよ」
由宇が淹れてくれたミルクをふーふーしながら飲んでいると、体と心が落ち着いて来た。
こういう気遣いってとても嬉しいよなあ。社畜の頃に、これがあれば……。
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