第29話 連続死亡

――三日後。

 あれから三日経つ。メガネから預かったアイテム群はあと少しで解析が終了する。

 レア度の高そうなものから処理していって、残すは店売りの武器と防具を半分くらいだけだ。

 

 メガネの持ってきたアイテムのうち一番数が多かったのは、もちろん店売りのアイテム群だったんだけど、これらはすぐに処理ができることが分かった。

 というのは、女神が作成したアイテムではなく元からこの世界にあるアイテム群にはプログラム的な要素が無い。

 単に効果が文字列で表示されるだけという親切設計なのだ。店売りのアイテムにはこの世界に元からあるモノが大多数だからどんどん処理が進む。

 

「しっかし……こんだけ数があって今のところ収穫ゼロか……」


 暖炉の前にあるロッキングチェアを揺らしながら、一人ごとを呟きガクリとうなだれる。


『まさひこが死亡しました』

『★セフィロス★が死亡しました』

『スペランカー先生が死亡しました』

『ふぇにきあが死亡しました』

『サガラーンが死亡しました』


 な、何だとおお!

 矢継ぎ早に勇者たちの死亡ウィンドウが開く。

 一体何が起こったんだ? 現在、勇者たちは現地の仕事斡旋を行いつつ冒険も安全な範囲でしか行っていない。

 攻略は意味が無く、お金を稼ぐために弱いモンスターを倒す程度なんだ。

 だから、ここ三日ほどウィンドウが開くことは無かった。

 

 まさひこの座標をチェックしてから、モニカとタチアナの座標も見る。

 うん、近くにいるみたいだから彼女らから事情を聞こう。

 

「ロケート」


 ◆◆◆

 

 出て来たのは地平線の向こうまで草原が広がる荒野だった。

 しかし、様子がおかしい。ところどころ、直径五メートルから十メートルのクレーターが出来ているじゃあないか。

 

 事前にマップで確認してくればよかったかもしれない……。

 

「ソウシさん!」


 俺の姿に気が付いたタチアナが泣きそうな顔で俺の名前を呼ぶ。

 彼女の隣には寄り添うようにモニカの姿も見えた。


「まさひこは?」

「この下でぺちゃんこになってるわ……」


 モニカが顎でクレーターを指し示す。

 クレーターの縁から中を覗くと……確かにまさひこがいる。見るに堪えない姿だったので、目を逸らしながら棺桶に彼の遺体を突っ込む。

 

「一体何があったんだ?」

「突然、空から隕石が降ってきたの!」

「え、ええ。(魔法の)メテオか?」

「ううん、メテオより二回り以上大きな隕石よ」


 ほう。確かにメテオだとクレーターはできないな。

 隕石といっても、クレーター以外は跡形もなく消えているし、火災が起きた様子もない。

 つまり、これは自然落下した隕石ではなく、魔法だ。

 しっかし、この魔法はメテオの魔法に近いが威力がけた違いだな。 

 やったのは女神以外にあり得ない。あのクソ女神。勇者が死なないからと言って強硬策に出やがったか。

 

「あの、クソ女神……」

「ソウシ殿。どの範囲で隕石が降り注いだのか分からない。この辺りは一瞬で大量の隕石が降って来たのだが……」


 モニカがその時の様子を語ってくれた。

 突如、空が茜色に染まり、巨大な隕石が次から次から降って来たんだそうだ。

 まさひこは何故かそこでテンションがあがり、「隕石と勝負をする」とか言って真正面から突っ込んだ……。その結果がアレである。

 

「詳細を教えてくれてありがとう。二人が無事でよかったよ。王都まで送る」


 ◆◆◆


 まさひこを復活させた後モニカたちと別れ、残りの勇者たちも回収する。

 彼ら全員が草原地帯で死亡していた。マップで確認してみたところ、広大な草原が広がるエリア全体へ隕石が降り注いだことが分かった。

 

 これはゆっくりしていられないな。

 解析を急がないと……不眠不休でやるしかねえ。とんだブラック作業だよ……。

 急いだところでどうにもならないかもしれないけど、平野に隕石が落ちたっとことは街にだって落とすことができる。

 そんな状況でのんびりと構えていられるほど、俺は悠長に出来ていない。

 

 自宅に戻り、必死こいて解析を進める。

 その日の晩、俺はついに打倒女神を成し得る武器を発見したのだった。


「み、見つけたぞ。まさか、店売りの武器だったとは……これ、絶対にバグだよな……。まあいい、こういう致命的なバグを探していたんだよ」


 バグ持ちの武器は回転ノコギリ。

 そう、木を切り倒す時に使うチェーンソーである。

 世界観に合わない武器だなあと思っていたら、案の定女神のお手製だった。


 回転ノコギリには一風変わった仕様がある。俺はバグだと思っているけど、女神が何を考えてこうしたのかは不明。

 ネタ武器を作ろうとして、プログラムを書き間違えたんじゃないかと予想している。


 さて回転ノコギリであるが、至ってシンプルな特殊能力なのだ。

 装備すると、「攻撃力と防御力を入れ替える」という普通の勇者にとっては少しいやらしい性能になっている。

 もっとも、回転ノコギリそのものの攻撃力はノーマルノコギリと同じたった五しかない。

 こいつを装備して防御力大幅アップだ。なんてことはできなくなっている。


 「チェーンソーおもしれえ」なんて考えた女神が、ネタ武器にしてやろうと遊び心を振りまいた素敵な使えない武器――というのが勇者たちにとっての回転ノコギリってわけだ。


 しかし、俺は違う。

 俺のステータスは攻撃力が一なものの、防御力はバグッてるんだ。

 つまり、俺が回転ノコギリを装備することによってとんでもない攻撃力を発揮できるようになる。


 ここで一つ重大な懸念点があった。

 勇者回収業とかいうふざけた職業は、剣や槍といった武器や服以外の防具を装備することができない。

 勇者と違って、武器や防具が必要無いからそうなっているんだろう。

 

 しかし、女神と約束した「スローライフ」を行うための道具なら装備できるのだ。

 農具や何度か使っているツルハシみたいな道具……つまり、工具であるノコギリも装備可能。


 そんなわけで、回転ノコギリも装備できる!

 ふふふ。こいつで女神をバラバラにしてやるぜ。

 

 見ていろ。女神。

 暗い笑みが浮かぶが、今ここで女神に察知されても困る。

 

 何気なく次の武器を手に取り解析をするフリをしつつ、ポイと投げ捨てる作業を続けていく俺なのであった。

 作業を続けながらも、どうやって女神をおびき寄せるかを思案する。あーでもない。こーでもないと考えた結果、これでいこうと決める頃には朝日が差し込んでいた。

 

 ◆◆◆

 

「ソウシさん、また徹夜したんですか……?」

「あ、うん。いろいろ考え込んでしまってさ」


 由宇が準備してくれた朝食を食べながら、心配そうな顔を浮かべる彼女へ笑みを浮かべる。

 

「その嫌らしい顔……いい事があったんですね!」

「嫌らしいって失礼な……。でも、由宇の言う通り全ての準備は整ったよ」

「すごいです! ソウシさん!」

「作戦実行には、えむりんともう一人の協力が必要なんだ」

「私で役に立つのなら、ぜひ協力させてください!」

「あ、うーん。由宇なら……俺も嬉しいけど……でもなあ……」

「嬉しいんですか! やったー!」

「あ、いや、でも、由宇には頼めない……」

「え、えええ。どういうことなんですか?」

「食べ終わってから……」

「はい!」


 さすがに由宇に頼むには気が引けるぞ。

 どうしたもんか。

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