第30話 反逆の仕込み

 食器を洗った後、由宇と共に二階へあがる。

 そして、初日以来開かずの間になっていた例の回転ベッドがある部屋の扉を開け放った。

 

「ソ、ソウシさん? まだ明るいのに……」


 由宇がポッと頬を染めるもんだから、「このまま押し倒してもいいのか?」と一瞬思ってしまう。

 だがしかし、彼女のことだ。この部屋そのものに恥ずかしがっているだけだろうとすぐに思い直す。

 あれだよあれ。彼女の気持ちは恥ずかしがりながら、指の間から覗き込んで「きゃーきゃー」するシチュエーション。


「この部屋は女神が自分の趣味で作成した部屋なんだ」

「ソウシさんがそうおっしゃってましたね」

「……その目。まだ俺が希望したとか疑っているだろ?」

「い、いえ。そんなことありませんよお」


 目が泳いでいるって。

 だいたい、俺が希望してラブホ部屋を作ったのなら、部屋に住ませることをダシに由宇とエロいことをしているはずだろう。

 勇者としての適性が無く、逃げ場のない彼女を拾った時から、鬼畜だという気持ちさえ捨てれば俺はいつだって彼女とエロエロすることはできた。

 そうしないことから、察してくれよ。いい加減……。

 

「まあいい。この部屋でキャッキャウフフすると女神は確実に観察する」

「な、なるほど。ソウシさんがお一人でえっちなことはできませんものね……」

「俺が頼めないって言った理由が分かっただろ?」

「は、はい。で、でも嬉しいって……」


 変なところだけ覚えているんだな。

 全くもう……。

 

「ラブホ部屋で芝居を打ち、女神に喋らせる。相手が誰にしてもここまでは確定だ。ちょっとシナリオを組んでから、メガネとモニカに相談してみるか」

「えむりんや魔王さんにもお話しないとですよね」

「だな。順番に行こう」

「はい!」


 ◆◆◆

 

――メガネパーティのところへ。

「……なるほど。意外な武器があったものだね」

「そうなんですよ。あとは女神のところへ行ければ何とかなりそうなんです」


 メガネはふむと顎に手を当て、考え込む仕草を見せる。

 彼にはまだ武器のことしか伝えておらず、俺の自宅についてはまだ伝えてはいない。

 現代的な設備が整った俺の自宅を軽々しく見せて、これまでの関係性が崩れないか少し心配している。

 が、あくまで少しだけで、まずこれまで通りの友好な関係性は崩れないと思っているのだが……。

 

 まだ黙っている最大の理由は、ひょっとしたらお色気作戦とは違った方向性でアイデアを思いついてくれるかもしれないって期待があるから。

 彼は頭が切れるからさ。

 

「女神を挑発することは難しくないと思う。問題は狙ったタイミングで彼女に声を出させることかな」

「挑発し過ぎて街や勇者たちが壊滅……ってことになったら目も当てられませんし」

「そうだね。君の様子を見ていると、何かアイデアを既に持っているんだろう?」


 す、鋭い。

 黙っているより、先に言っちゃった方がいいなこれは。

 

「はい。俺の自宅はメガネさんの特殊能力みたいに願ってもらったものなんですが」

「うん」

「女神が全てプロデュースした家なんですよこれが」

「なるほど。女神の趣味が分かるってわけか。君が自宅を気に入ったかは分からないけど、結果的にいい願いをしたんだね」

「はい。で、ですね。自宅にラブホみたいな部屋があるんですよ……」


 続きを喋ろうとしたら、メガネは眉間に皺を寄せて右手を上げる。

 もう分かったからこの先はいいって言わなくてもいいってことだ。さすが、メガネ。話が早い。

 

「分かった。他の手を考えるけど、万が一の時は協力しよう」

「メガネさんが?」

「パーティメンバーに頼めるわけがないだろう? やりたくはないけど、君と僕でなんとかするしかあるまい。他に迷惑はかけれないだろう?」

「で、ですが……それはちょっと……」

「君に恋人がいるなら、その人に頼みたいところだが……女神が出歯亀しているんだろう? 例え恋人であっても嫌なものさ」


 確かにメガネの言う通りだ。し、しかし……男同士は嫌だあああ。

 あ、そうだ。

 

「メガネさん、モニカパーティにも相談してきます。何か思いついたらまた教えてください」

「分かった」


――モニカパーティ。

「ソウシさんのえっちい。どさくさに紛れて私の胸を触りたいのね!」


 タチアナが自分の無い胸を抱き口を尖らせる。

 モニカとタチアナへラブホ部屋のことを話すと、何を勘違いしたのかタチアナがぷんすかしているじゃあないか。


「あ、いや。さすがにタチアナとモニカに頼もうとは思ってないんだが……いいの?」

「え? そ、そう。それならいいのよ」


 毒気を抜かれたように顔を逸らすタチアナであった。

 一方でモニカは目をつぶり、押し黙ったままじっと何かを考え込んでいる。

 

「ソウシ殿。その役目、誰かがやらねばならぬのだろう?」


 真剣な目でじっと俺と目を合わすモニカ。


「あ、うん。一つ考えがあるにはあるけど……」

「もし、誰も候補がいないなら、私がやろう」

「え?」

「私じゃあ、君が嫌か?」

「い、いや……」


 むしろ大歓迎です。本当にいいのか?

 俺の目がモニカのぷるるんに釘付けになる。あ、あれをもにゅもにゅさせても怒られない?


「い、痛てええ」

「ちょっと! モニカを嫌らしい目で見るなって言ってるでしょお!」

「モニカにああ言われたら見てしまうだろ!」

「もう!」


 また頬を叩かれた。全くパンパンと気軽に。別にいいんだけどさ。失礼なことをしたのは事実だし。


「それで、ソウシさんの考えてる事ってどんなことなの?」


 タチアナがちゃんと俺の言葉を聞いていたとは、珍しい。


「それはだな。まさひこに協力してもらってメガネさんと……」

「そ、それは……私も見たい……」

「ほう。メガネ殿の……」


 二人の目の色が変わった!

 まさひこはどーでもいい感が凄まじいが、メガネの人気に嫉妬する俺なのであった。


「メガネさんが他の手段も考えてくれているし、俺ももう少し案を練ってみる。まさひこに頼むのは最終手段で……」

「ソウシ殿!」


 ぐわしっとモニカに肩を掴まれた。

 彼女の鬼気迫る顔を見たのは初めてだ……。

 

「な、何かな……」

「メガネ殿とまさひこ殿の案になった場合……必ず私も呼んで欲しい」

「う、うん……」


 普段冷静沈着なモニカからは想像がつかない態度に気圧され、頷きを返すしかなかった……。

 

「ソウシさん、私も! 絶対よ!」

「分かった分かった」


 次は魔王のところへ行くか。


 ◆◆◆

 

 魔王に俺の作戦を伝えたところ、彼はすぐにえむりんを作戦完了までの間、俺の自宅へ待機させることを了承してくれた。

 そんなわけで、すぐにえむりんを連れて自宅に戻る。

 

「うーん、こんなところかなあ」


 シナリオを筆記し、由宇へ手渡す。

 

 紙を受け取った由宇は顔を赤らめながら、きゃーと声が漏れる。 

 俺は俺でさっきからずっとバナナを食べ続けるえむりんの胃袋がどうなっているのか……なんてしょーもないことを考えていた。


「ソウシさん、これなら大丈夫と思います!」

「よっし。この案はこれで」

 

 ラブホ作戦はこれでいいとして、他の手を練るとするか。

 一旦休憩するために、紅茶をゴクリと飲み干すものの、どうも由宇の様子がおかしい。

 彼女は首をブンブンと振った後、突然立ち上がり、ぷしゅーと頭から煙でもあがったかのようになって座り込む。

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