第32話 駄女神
「いきなり切りつけるなんて、レディをなんだと思ってるの!」
怒り心頭といった感じで突如ローテーブルの上に出現する女神。
「お、意外に遅かったな。トイレでも行ってたのか?」
モニターから目を離さないまま女神へ毒つく。
「セクハラよ、セクハラ!」
ぴーぴーとうるさいやつめ。
「ソウシさん! どうやってここに来たの!」
無視していたら後ろから女神に肩を掴まれ椅子ごと後ろに押し倒されてしまった。
見上げると女神のぷるるんがちょうど真上に見える。こんなクソ女神でも見た目だけはいいんだよなあ。
しかし、触ってモミモミしたいという気にはなれない。
「普通の方法ではここには来れないよな。うん」
「そうよ。あなたのマップでも座標は確認できないはずだわ」
「そうだな。女神。君は二つのミスをした」
床に仰向けになったまま二本の指を立てる。
「な、なんですってええ!」
由宇もそうだが、女神もお約束の反応を返してきた。なんだかイラッとするぜ。
動きが大げさだから、ぷるるんが振るえるしさあ。
「いいか。君はえむりんが声を頼りに転移できることを見逃していた」
「う……」
「次にイルカだ。こいつは君の作ったアプリに直結しているんだよ。だから、イルカを窓口として伝ってくることで転移が可能となったんだ」
転移はどこにでも行けるわけではない。そこへ至るまでの道筋が無いと到達できないんだ。
ダンジョンにあるような障壁は入り口を閉じることによって達成している。ダンジョンの入り口は開いていたとしても外界とは見えない扉で閉じている。
だから、道筋を辿れないので転移ができない。
「な、な、な……」
プルプルと口元を震わせる女神。
「で、女神。さっき光と共に消えたカラクリはどうなっているんだ?」
「んー。教えて欲しいのー? どうしよっかなあ」
うぜえ。
「女神。君の本体は別のところにあるんだろ? ここに来ているのはアバターみたいなもんだろ?」
「化身といいなさいよ! 私は
ふんと胸を張る女神である。どうしようかなあと言っていたのは飾りかよ。あっさりと喋り過ぎだ。
要は、VRみたいなもんだろ。女神は天界かどっかからVR機を装着して仮想空間へ行くようなもんだ。
VRと違って行き先は現実世界だけどな。
「つまりだな。俺にやられて光となって消えた後、この世界へ繋ぎなおして出て来たってわけだ」
「鋭いわね。だいたいそんなところよ」
「うん。予想通りだった。これまで散々好き勝手やってくれたな、女神」
「好き勝手って失礼ね。私はこの世界を導こうとここへやって来たのよ!」
「へー」
どの口がそんなことをのたまうのか。
一つたりとも益になることをやってないだろお。
いや、死んだ地球の人間に再び生を与えたのはいい事なのかもしれない。ただし、捨て駒としてだがな。
「魔王が邪魔だったのよ! だからあなたたちに協力してもらったんじゃない」
「別に魔王は世界を破壊しようとか考えてないが?」
「……あいつは邪魔なの。それでいいじゃない!」
「この世界を乗っ取るに魔王が邪魔だったわけだ」
「そうよ! 今からでも遅くないわ。魔王をやってしまって、この世界を私の……いや、私とあなたのモノにするのよ」
いけしゃあしゃあとひでえことを言いやがる。
やはり女神はクソ女神だった。確認するまでも無いと思っていたが、ひょっとしたら善意のみで導びこうとしていて結果的に失敗しているだけなのでは? という可能性もあった。
結果は、予想通りだったわけだが……。
「だが、断る!」
カッコよくニヒルな笑みを浮かべながら言い放ってやったぜ。
寝ころんだままだけどな。
「な、何よお! もういいわ。あなたなんて消してやるんだから!」
「時に女神。君は女神なんだろ?」
「あ、あれ、消えない! そうよ。だから何なのよお」
「仮にも神と名乗るくらいだから、自分の管理する世界があるんじゃないのか? 欲張ってこの世界まで奪う必要はないだろうに」
「……う、うるさいわね!」
女神はかああああっと顔を真っ赤にして怒声をあげる。
あー、なるほどな。そういうことね。
ニヤニヤと口元が緩みながらも、立ち上がる。
「な、何よ!」
「君は自分の世界を持ってないんだろう」
「……私が悪いんじゃないのおお。破滅したあの世界が悪いんだから!」
予想外だった。落ちこぼれだから世界を持てないのかと思いきや、すでに一つ破壊していたとは。
「この世界は神なんていらない。帰るといい」
「神が管理していない世界は珍しいんだから中々見つからないのよ!」
「ふうん。で?」
「私がこの世界を管理するんだからああ!」
「だが、断る」
二度目の決めセリフをカッコよく言い放つ。
「あなたが消えないなら、隕石で勇者たちを追い詰めてやるんだからあ。そうしたらウィンドウで視界が」
「ほうほう」
「あれ? 隕石がうてない!」
「まだ気が付かないのか?」
「あ、あなたもしかして……」
「うん。女神の権限は全て消去したぜ。君がここへ戻った瞬間に君の個体IDを取得したからな」
「なんてことしてくれるのよおおお!」
本体ならともかく、精神体ともなればこの世界の法則に従うしかない。
女神が持っていた権限は全て取り上げたから、もはや彼女はおっぱいをぷるるんとさせるくらいしか取り柄が無いのだ。ははは。
「全てスッキリとしたところで」
「な、なによ。恨みから私にえっちなことをしようっての!」
そう言いながら顔を赤らめて上目遣いで見上げて来る女神……。
だれがそんなことをするかああ!
「いや、そんなつもりは毛頭ない」
「由宇って娘がいいのね! この浮気者おおお」
「待て待て!」
やべえ、このままでは女神のペースに乗っかってしまう。
気を取り直し、厳かに宣言するぜ。
「女神。君はアカバンの刑に処す。さよならだ」
「ま、待って。まだ見てないの。メガネとあなたのくんずほぐれつをおおお」
「消えろ!」
まだ何かギャーギャー言っているところで、女神は俺の目の前から忽然と姿を消す。
「えむりん、帰ろうか」
ローテーブルの上でぐでえっとしているえむりんへ声をかける。
「うんー。ソウシのおうちに戻るねー」
◆◆◆
えむりんと自宅にあるラブホ部屋に戻ったはいいが……由宇が……そ、その。我慢できずに。
うわあ。うわあ。
こ、これは見てはいけない。
「ソウシ―、由宇は何をしているのー。なんだかくるしそー」
「ダメだ。見ちゃいけません!」
えむりんを部屋の外に追い出し再びラブホ部屋に戻ろうとした時、不意に視界が切り替わる。
このまま由宇といけないことをしようと思っていたのに、目の前にいるのは魔王だ。
ち、ちくしょう。
さすがにこのまま無言で戻るわけにはいかねえ。
「ソウシよ。首尾はどうなったのだ?」
「女神は無事、追い出しました」
「ほう。詳しく聞かせてもらってもよいか? 宴を準備しよう。そこでゆっくりとな」
「は、はい……」
か、帰れない。
要らぬ気遣いは無用なんだが、魔王は最大の協力者の一人だから
功労者たるえむりんも一緒だしなあ。
ギリギリと歯ぎしりを立てながらも、宴の準備が整うまで待つことにしたのだった。
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