第21話 イルカはいるのだ
「はい。結論から言いますと、女神は世界の
「興味深い。女神こそが侵略者。そこに自力で辿りついたことは称賛に値する」
「いえ、そこまで褒められるほどの深いものではありません」
あまり手放しで褒められると照れてしまう。
「何を言うか。うぬの知は誇ってよいぞ。それはそうと、うぬがその考えに至った理由を説明してくれぬか?」
「もちろんです。一言でいいますと、魔王さんがこの世に存在したままになっていることが理由です」
「ほう。それは興味深い。続けてくれ」
女神にとって魔王は邪魔で仕方ない存在であることは確かだ。これはもう説明の必要はないだろう。
王様を抱き込み、勇者を騙し魔王討伐へ向かわせる。
魔王は世界の理(OS)へ触れることができるほどの存在。女神が魔王以外へ躍起になっていないことから、魔王はこの世界における最も強い者に違いない。
もしOSそのものを改ざんできるほどの技術を女神が持つのなら、魔王のステータスを書き換えるとか存在そのものを消し飛ばすとかやりようはいくらでもある。
しかし、それを行わないってことは、やれないってことなんだよ。
「……というわけです」
「ふむ。うぬの説明は半分くらいしか分からぬ。が、余も一つ気が付いたことがあるぞ」
「どのようなことでしょうか?」
「勇者なる手先を送り込み続ける理由だ」
「大量の勇者の中から、たまたま実力者を引くためなのだと思ってましたが……」
「それもある。もう一つ、女神は勇者なぞ回りくどいことをせず、直接手を下しにくればよいとは思わぬか?」
確かにそうだ。
そもそも、直接手を下して終了ならアプリを作ったりとか勇者を送ったりなんて回りくどいことをする必要はない。
「それは、魔王さんが女神にとって簡単に勝てる相手ではなかったってことですか」
「うむ。余と戦えばただではすまぬと思っているのだろうな。腑抜けなことだ」
魔王の気づきがあって、全てのピースがかっちりハマりスッキリしたぞ。
どうすれば女神をこの世界から追い出すことができるのか、まだまるで見当がつかないけど……、俺は佇まいを正し魔王をしかと見上げる。
「魔王さん、俺と手を組んでくれませんか?」
「余は慣れ合うことが好きではない」
ふんと顔を背ける魔王。
「そ、そうですか」
「女神の排除。この一点に関してのみ協力しようではないか」
魔王はニヤリと老獪な笑みを浮かべ右手を差し出してくる。
全く素直じゃないんだから、少しだけ焦ったよ。
「よろしくお願いします」
「うむ」
魔王と俺はガッチリと握手を交わしたのだった。
「うぬは女神の目的が何だと推測する?」
手を離し魔王は口角を上げたまま俺へ尋ねる。
んー、そうだなあ。
魔王を滅ぼして、この世界をおもちゃにして遊びたいってところなのかなあ。
案外情けない理由かもしれないけどさ。
例えば……そうだな。
「女神は神っていうんですから、自分の管理する世界ってあるんですよね。たぶん」
「そうかもしれぬな」
「あのクソ女神、やることはゲスイですけど、手際がとても悪いと思うんですよね。だから、案外、自分の世界がミスで滅んじゃって管理する世界が欲しいんじゃ」
「カカカ。それは愉快。この世界には神はおらぬからな」
そうだよなあ。神様がいたら女神に好き勝手させてないだろうし。
地球もきっとそうだけど、この世界にも神がいないのか。
「神は世界の理を創造したことで全ての力を使い果たし光になったという伝説がある」
「天地創造してお隠れになったってことですか」
「余はそう思っておるよ」
「魔王さん、案外ロマンチストなんですね」
睨まれた。
「……フン。ともあれ、世の理を乱す者を好き勝手にしておけぬ余の気持ちは理解しただろう」
「はい」
「その顔、まだまだ聞きたいことがありそうだな」
「そうですね。聞きたいことがどんどん浮かんできますが、自分の中で整理しないと逆に分からなくなりそうなので後日……そうですね二日後にまた来ます」
思いつくことはいくらでもある。
例えば、海底神殿とか天国の階段は誰が作ったのかとか、紋章の仕組みとか……あげればキリがない。
そんなこんなで魔王と共同戦線を張ることになったわけだが、動くのは魔王へ告げた通り二日後だ。
「ほう。二日後か、今更うぬの考えに口出しはせぬよ。ククク、トコトン面白いやつだ。余を待たせるとはな」
「ちゃんとした理由もあります。女神の反応を見たいんですよ」
女神はこの世界を何処からか見ているではないかと思っている。しかし、見る手段については不明なのだ。
なので、俺の動きを女神が何処まで見ているのかを判断することで、彼女の出方を伺おうってわけだ。
俺は魔王とガッチリと握手をした。女神が会話を聞いていなくても俺と魔王の仕草や顔を見ただけで、こいつら繋がったなと分かる。
つまり、翻意を見せた俺に対し、女神がどのような反応を見せるのかを見極めるための二日間ってわけ。
さて、クソ女神は動くのかそれとも……。
◆◆◆
魔王城を後にして自宅に戻る。
ちょうど由宇がネギを収穫したところらしく、ドア口で彼女と鉢合わせになった。
「お、由宇。収穫か!」
「はい。ようやくいろいろ形になってきました」
ほくほく顔で由宇は口元を綻ばせる。俺も畑の様子を遠目に眺め目元が緩んだ。
「ねーねー。えむりんーおなかすいたー」
不意に頭の上に重みを感じると、太陽に光を反射して七色にキラキラと輝く鱗粉が舞う。
「えむりん、いつの間に」
「イルカさんはおなかすかないのー?」
相変わらず人の話を聞いちゃいねえ。えむりんはロケートが使えるから神出鬼没なのは当然っちゃ当然なんだけど……頭の上に出て来なくてもいいじゃないか。
「ソウシさん、イルカって……」
「前に言ったアレだよ。俺の体にずっとまとわりついているという」
「本当の話だったんですね。すいません」
由宇のあの顔……疲れた俺の妄言だとでも思っていたようだな。
これは、後で頭をグリグリの刑にしなければ。
「えむりんさん、スイカなら冷えてますよ。食べますか?」
あからさまに逃げたなおい。目が泳いでいるぞ……由宇。
「うんー。えむりんたべるー」
「はい、じゃあ、中へ行きましょう。ね、ソウシさん」
「お、おう」
うまく誤魔化したつもりだろうが、そうはいかねえぞ。ふふふ。
ダイニングテーブルの上にえむりんがぐでえっと寝そべり、俺は椅子に座る。
すぐに由宇が三人分の切り分けたスイカの乗ったお皿をお盆に乗せて持ってきてくれた。
「スイカ―」
えむりんは体ごとスイカの乗りかかり、がつがつと食べ始める。
「ソウシさん、魔王と会ってきたんですよね?」
俺の対面に座り、由宇はスイカの赤い実をスプーンですくいながら尋ねてきた。
「いろいろあるが……そうだな。まずはだ」
立ち上がり、由宇の横にたつと優しく彼女へ微笑みかける。
「な、なんでしょうか」
「撫でてもいいかな?」
「と、唐突ですね……いつもお世話になっていますし……か、構いませんよ?」
由宇の許可が出たところで、両手を彼女の頭に乗せて撫でる仕草を見せつつ……。
「い、痛いです。ソウシさんー」
「俺のことを可哀そうな人と見ていたことに対する、お仕置きだー。イルカはちゃんといるんだって」
「わ、分かりましたからあ」
「分かればよろしい」
手を離し、席に戻る。
「えっと、何だっけ?」
「魔王に会ってきたんですよね?」
「うん、そうだったそうだった」
由宇に何から説明しようかなあ。
スイカをもしゃもしゃ食べながら、考え込む俺なのであった。
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