第13話 勇者会議

 由宇は一番最初にこの世界に召喚された勇者だ。彼女はスローライフを夢見て冒険へと旅立った。しかし彼女は戦うことにまるで向いておらず、戦闘を忌避しながらも頑張って戦うが……最初の敵にさえ何度も負けてシマシマパンツが丸出しになっているていたらくである。

 次に召喚された俺は特殊だから置いておくとして、彼女の後から召喚された勇者たちは女神が考え無しに召喚したことを顧みたのかどうか俺には分からないが、ちゃんと戦う意思の持った者だけが召喚されるようになったんだ。

 勇者増大の時に「勇者一覧」を確認したけど、みんなレベルが上がっていたしその後も彼らのレベルは上がり続けている。

 

 彼らは勇者を志願し、勇者になった。戦い冒険することを望んでだ。

 俺がこの結論に至ったのは、勇者が三十人ほどになってからになる。

 どうしてそう思ったのかと言うと……「由宇以外、落伍者が誰も出ていない」という事実。

 女神が不特定多数の中からどんどん勇者として送り込んでいるならば、これだけの人数が集まると必ず「酒場でグダル勇者」とか、「モンスターを倒したくなくてお金に困り露頭に迷う勇者」とかが出てくるはずなんだよ。

 だけど、新たに召喚された勇者たちも、速度にこそ差があれ全員がレベルアップしている。

 

 つまり……彼女にとってとても残酷なことだけど、彼女だけ戦闘に対する適正が無かったのだああ。

 

「いや、由宇。気に病むことはない。君は農業もできるし料理もとてもおいしい。得意なことをやればいいんだよ……」


 椅子から立ち上がり、由宇の肩へそっと手を乗せ微笑みかける。

 あ、彼女が俺の顔を見上げた動きでアップルパイを喉に詰まらせてみたみたいで、むせてる。

 

 俺は急ぎ、水の入ったコップを彼女へ渡す。

 

「ソウシさん……」

「そ、そうだ。由宇。土地の調査は進んだの?」


 あからさまに話題を変えたが、由宇は首を一度だけ振った後笑顔を見せて頷きを返す。


「はい。土地は区画ごとに温度が違ったんです。科学的にはおかしいんですが、魔法とか何か不明ですけど……この世界の謎の法則でそうなってるとしか」

「理屈は問題ないよ。温度が違うから育つ植物が隣あっているのに熱帯と温帯とかになるんだな」

「その通りです。日照量は同じですが、温度が違うため育つものが変わる感じです。で、ですね。庭の中に大きめの池が二つあるじゃないですか」

「うんうん」


 やっと由宇が調子を取り戻してくれた。

 彼女は生き生きと二つの池の違いについて語る。一方は淡水、もう一方はなんと海水なんだそうだ。

 池の中には魚やエビ、カニもいて淡水のものも海水のものも摂ることができる。

 

「……というわけなんですよ。水温も場所によって大きく違います」

「うはあ。もう何でもありだな」

「そうですね! でも、いろいろな物がとれて楽しいです」

「そうだな。ははは」

「ですです」


 顔を見合わせて笑いあう。

 和気あいあいとしたところで、食器をかたずけ俺は再び勇者の回収に向かう。

 

 自宅に戻る頃にはすっかり日も落ちていて、作り置きしておいてくれた夕食をレンジでチンしてごちそうになり風呂に入る。

 勇者とパーティのことで話をしようと思っていたけど、由宇に笑顔が戻ることの方が大事だ。

 「魔王は誰が討伐しても同じじゃないのか」ってお話は使わせてもらうぞ。由宇。

 

 湯船につかりながら、そんなことを考えているとまたウィンドウが開く。

 無視してそのまま寝ようとしても開く開く開く。

 だあああああ! ホントにもうブラックってもんじゃねえぞ。このままではウィンドウに押しつぶされてしまう。

 

 勇者の死亡率を下げることは急務だ。

 そのために……他の勇者の協力を仰ぐことにしよう……。

 

 ◆◆◆

 

 二日後、王都にあるとあるお店の二階を貸し切り高レベル帯の勇者たちに来てもらい会議を行う事にした。

 たった二日しかたっていないが、勇者の数が七十人まで増えいくら回収してもウィンドウが完全に消えている時間が皆無になってきてしまっている。

 何とかして彼らに協力してもらわなければ……。

 

 集まってくれたのは、攻略組筆頭のメガネ、レベルは七十二。鬼族のタチアナ、レベル七十。彼らに加え、メガネのパーティの三人とまさひこと彼をふんじばっているモニカ。

 彼ら以外にもレベル六十を越える勇者は二人いるが、今回は呼んでいない。一人は★セフィロス★とかいう不穏な名前の人物なので、今後もおそらく呼ばないけど……。

 彼とは会話をしたことがないが、全身黒ずくめで爪に黒いマニキュアを塗っていたり、メイクもなんかこう黒っぽくて……お近づきになりたくない感じなのだ。

 おそらく彼はとんでもなく方向音痴で、死亡するとしたらフィールドのどこかで野垂れ死んでいる。噂によるとダンジョンまで辿り着けたことがないとかなんとか。


「集まってくれてありがとう。準備した料理とドリンクはサービスだから遠慮せずに飲み食いして欲しい」


 にこやかに全員を眺めたところで、イルカが視界に入って来た。

 いつもいいところで邪魔してきやがる。必死こいて勇者の回収をしていたら、気にならなくなるけどこいつはいつも俺の体にまとわりついているんだよな……。

 

「ソウシ君自らが動くなんて珍しい。僕も他の勇者や君とじっくり話をしたかったんだ」


 メガネはキラリと白く輝く歯を見せる。彼は最初敬語で俺に喋っていたんだけど、年上だしビジネス的なお付き合いをしたくなかったので俺から頼んで普通に喋ってもらうようにしたんだ。

 でも、敬語じゃなくてもなんだか知的で爆発しろと思っていることは俺の心の中だけの秘密なんだぜ。

 

「メガネさん。本来ですと勇者の皆さんを陰ながら支援する俺がしゃしゃり出るのは余りよくないことなのかもしれません。ですが、こちらにもいろいろ事情がありまして……」

「君は一人だものな。想像はつくよ」


 メガネは自分のメガネをクイっと上げてニヤリと微笑む。

 しかしこの人、自分の名前をメガネにするとかどういうつもりなんだろう……。何か深い理由があるに違いない。


「メガネさんって、ソウシさん、ちゃんと名前を呼んであげなさいよお。こんなイケメンさんに失礼でしょ!」


 タチアナが冗談めかして絡んでくる。

 

「いや、タチアナ。メガネさんはメガネさんって名前なんだって!」

「そうなんですよ。タチアナさん。僕の特徴をそのまま名前にすることで覚えてもらいやすいと思いましてね」


 メガネがさわやかな笑顔を向けると、タチアナは少しだけ頬を赤らめて「そうなんだ」って照れたように言葉を返す。

 

 それに対し俺はワザとらしい咳をして何か言いたそうな顔でタチアナを見つめると、彼女は「な、なによお」って言いつつも顔を逸らした。

 へへんっだ。

 

 おっと、このままじゃあせっかくの貴重な時間が。

 

「コホン。今回集まってもらったのは、俺から一つ提案があるのとみんなと意見交換をしたいってことなんだ」


 全員の顔を見渡して、言葉を続ける。

 

「勇者たちは日々増えているんだけど、初心者同士、似たレベル帯同士でパーティを組んだ方がソロより攻略も進むだろうし、死亡率も減ると思うんだ」

「確かにそうだな。私たちは元から二人だったが、まさひこが入り三人になったことでより冒険は進むようになった」

 

 モニカがうんうんと頷く。

 

「そうだね。死亡すると所持金が半分になってしまう。結構な痛手だからね」

「え? メガネさん。半分なんですか?」

「そうだよ。半分だ」

「そ、そうですか……」


 メガネは嘘を言っているように思えない。他の勇者たちも何も言わないから、死ぬと半額は嘘ではないことは確定。


「どうかした? ソウシさん?」

「あ、いや。みんなの所持金って案外少ないんだなあって」

「そう? まさひこはこの前ソウシさんに復活させてもらった後、千ドールしか持ってなかったけど彼は例外よ?」

「あ、うん」


 この前か。俺は二百五十ドールをあの時手に入れた。てことは、勇者の所持金は死ぬと、半分になり……俺の手元に四分の一が入る。

 残りの消えた四分の一はどこへ? ま、まさか王様か!?

 ワナワナと戦慄するが、今は確かめる手段はない。いつか暴いてやる。

 

「ソウシ君。ソロが好きな者もいるから強制はしないとして、パーティの斡旋は僕らも行おう」

「私も異存はない。いくら復活するとはいえ死人は見たくないし、魔王討伐の果たせる可能性を少しでも上げておきたいから」


 パーティリーダーのメガネとモニカが俺の意見に同意してくれた。

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