第14話 研修

「ありがとうございます」


 由宇から頂いた理屈を出さなくとも、みんなが協力的だったのに少し驚いたけどうまくいってよかった。


「それとソウシ君、僕からも一つ提案がある」

「どんなことでしょうか」


 いちいち歯をきらーんとさせたり、クイっとメガネをあげたりと……イケメンはこれだから。

 なんて思いはおくびにも出さず、彼へ尋ねる。


「それは、来たばかりの初心者勇者を集めて『合同研修』をやったらどうだろうかってんことなんだ」

「それはいいですね。戦い方も分かるし、その場でパーティを組みたい人は組めます。で、ですが一つ問題が」

「初心者をどうやって集めるかかな?」

「はい。そうです」


 夜に勇者が増えたことを確認したことはないけど、日が出ている間なら時間帯に関係なく勇者は新たに現れる。

 日中ずっと王の間に張り付いているわけにもいかないしさ……。

 

「君は行ったことがないかもしれないけど、王都には武器屋が一つしかないんだ。ソウシ君」

「最初に必ず武器を買いに行くってことですか!」

「その通り。勇者は最初無手なんだよ。王様から支度金を頂くことができるので、通常そのお金で武器と防具を買う」

「なるほど! 武器屋の店員さんに『合同研修』を行っていることと行う場所を伝えてもらえればですね」


 メガネはにこやかに微笑み、頷きを返す。

 これならうまくいきそうだ。


「さっそく武器屋さんに行ってきます。場所は王都の出口付近に毎朝十時ごろにします」

「日本からの転生組はまず腕時計も、ましてや現地の人のように懐中時計も持っていないから、武器屋かどこかで時間を確認できることも伝えておいた方がいいかな」


 メガネの抜け目のなさが有難い。

 俺はお礼を言ってから、前を向く。

 

「先に行って悪いけど、みんなは遠慮せず食べて飲んでください。食事が足りなかったらいくらでも追加して大丈夫なんで」


 ◆◆◆

 

 武器屋さんは快く俺の依頼を受けてくれて、彼に謝礼を渡すことを約束する。

 ついでに武器屋さんに並んでいる武器を見てみると……。

 

『竹やり 十ドール

 ひのきのぼう 千ドール

 鉄の剣 八百ドール

 鋳鉄の剣 五百ドール

 イーグルクロー 千五百ドール

 ヌンチャク 三百ドール

 鋼の剣 三千ドール

 ノコギリ 五十ドール

 回転ノコギリ 二千ドール

 魔道師の杖 千五百ドール』

 

 ……などなど最初の街とは思えないほど品揃えが豊富だったが、値段の付け方が無茶苦茶だよ。

 ひょっとしたら、ひのきのぼうがとんでもなく強い……わけはなかった。実際に持たせてもらったけど、ほっそい木の棒である。

 この分だと防具屋さんとか道具屋さんもごっちゃごっちゃにアイテムが入り混じってそうだ。暇がある時に見てみよっと。もちろん怖い物見たさから。

 

 こうしている間にも会議とか武器屋なんてこっちの事情とかまるで考慮せず、「勇者死亡につき回収しろ」ウィンドウが増え続けついに五個に……。

 イルカをつついてウインドウを小さくできないかとかいろいろ試してみたけど、ダメだ。コマンドのコンフィグにも文字の大きさをいじったりする項目はないからなあ。

 その割にBGM音量とか音楽が流れてもないのに設定できるし……他にもメッセージ速度とか、いらねえ。

 いつか「イルカウィンドウシステム(仮。俺が勝手につけた名称)」のプログラム改修を行いたい。特に見た目周り(GUI)を使い勝手のいいものへと変えるべくいじり倒したいところだ。

 

 とにかく、夕飯までは勇者の回収をやれるだけやるかあ。やっているうちにウィンドウがまた増えるんだけどさ。

 

 ――翌朝。

 すげえ、たった一日で四名の勇者たちが集まってくれた。

 今日は初日ということもあり、メガネが指導してくれるとのことなのでこっそり様子を伺うことにしよう。

 

 最初は勇者が何をやるのか概要説明と死亡時の注意点などをメガネが語っている。

 「死ぬと所持金が半分」このセリフを口酸っぱくして言ってくれているメガネは素敵過ぎる。抱いて……欲しくはないが、メガネを応援したくなったのは確か。

 頑張れメガネ。もっと強調してくれ!


 心の中で盛大な応援をする俺をよそに、最初の座学は終わったらしく戦闘訓練へと入る。


「モンスターはこちらを発見するとすぐに襲ってくる。気が付かれないように接近して一撃加えると戦いが楽になる」


 メガネはかつて由宇を倒した小鬼に草陰からそっと近寄り、射程距離内に捉えるとそのまま一気に踏み出す。

 そのまま大剣を上段から振り下ろすと、小鬼は頭から潰され絶命した。

 

 おお、慣れたもんだなあと感心したんだが、一つ気になることがある。

 今メガネに話かけるのは憚られたので、初心者勇者たちの様子を見守るとするか。

 

 彼らは初めてということもあり、すぐに小鬼に気が付かれ襲い掛かられるが、傷つきながらも小鬼を仕留めることに成功している。

 やっぱ由宇とは違うか。彼女は小鬼にすらまるで歯が立たなかったものなあ。小鬼は先んじて自分から彼女へ襲い掛かって来ないというのに。

 

 あれ? やっぱりおかしい。

 見ている限り、小鬼は索敵に成功すると勇者たちへ先制攻撃していた。

 由宇はそうではない? 彼女だけ特別なのか?

 いやいや、彼女だけ特別ならあれほどへっぽこになっていないよ。

 

 なんだか、これまで普通だと思っていたことが普通じゃなくなる……そんな予感がしながらも自宅へ戻る。

 

 ◆◆◆

 

 自宅に戻ると庭で雑草を引き抜いていた由宇へ声をかける。

 

「戻ったよ」

「お疲れ様です!」

「由宇。ちょっとデートしないか?」

「今からですか?」

「うん」

「ぜひ!」

 

 にぱあと満面の笑みを浮かべ由宇。デートとは言ったがロマンチックさの欠片も無いぞ……すまんな。

 俺は土で汚れた手を洗う由宇を見やり、顎に手をやる。

 

「じゃあ、『天国の階段』という塔の見学にでも行こうか」

「何故か崩れ落ちない不思議な建築物ですよね! やったー」


 由宇の手を繋ぎ、頷き合うとロケートの呪文を唱えた。

 

――天国の階段。

「思った以上に天高くそびえ立つ塔なんですね! 石柱が一階層ごとに切れちゃってますが……」

「うん、何度もここに入ったんだけど、未だに崩れてきそうでビクビクする」

「へええ」

「中に入ろうか」

「モンスターがいるから危険って、いつもソウシさんおっしゃってましたよね……」


 不安そうに顔を伏せる由宇だったが、俺は口元に笑みを浮かべ彼女の肩をポンと叩く。


「モンスターへ攻撃の意思を見せない限り襲って来ないんだよな? 由宇がそう言ってたじゃないか」

「そ、そうですけど……」

「一階層でそれを確かめた後、ご褒美に最上階まで連れて行くから……付き合ってくれないか?」

「は、はい。もしもの時は、ま、護ってくださいね」

「もちろんだ」


 力強く頷きを返し、由宇の手をとって塔の中へと入る俺たちであった。

 

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