第25話 メガネの好きなモノ
女神を倒すって言ってもどうするかだなあ。彼女は勇者が魔王を打倒できるようにいろんな準備を仕込んでいた。ノーチラス号とか……おそらく紋章集めもそうだ。
モンスターや巨大建築物は元からあったにしろ、その力は絶大。
少なくとも彼女が用意した武器防具は通用しないんじゃないかと思う。
「ソウシ君。この世界はとてもゲームっぽくないかい?」
お互い無言で考え込んでいる中、メガネが先に口火を切る。
「確かにそうですね。この世界に元々あったモンスターの要素とかからしてゲームな感じですけど、女神がそれに輪をかけてロールプレイングゲームみたいに作り込んだ……のかと」
「現地の人は神託だと言えばあまり疑わないかもしれないけど、僕たちは違う。情報が溢れている社会に生きているから、情報が正しいかどうか疑う習慣ができている」
「だから女神はゲーム性を演出し、ゲーム的な魔王に向かう勇者とすることで、疑問に思わなくさせようとしたんでしょうね」
「おそらく……しかし、凝り過ぎるところが女神の綻びを生むと思うんだ。そもそも、魔王討伐ゲームは破綻している」
「ですよね。クソゲーってもんじゃないですよ。クリア不能の無理ゲーですもん」
ん、待てよ。
魔王討伐を行うゲーム……つまりゲームシステムそのものが破綻している。
女神はコンピュータで言うとことろのOSではなくアプリを作成して、そこからいろいろ悪事を働いているんだ。
OSそのものを触らないのは、この世界そのものを壊してしまう可能性があるからだと俺は思っている。
つまり、女神はプログラムを触ることにあまり慣れていない。
しかも、あの女神……結構刹那的に動く。
なら、きっと彼女自身が作成したものの中に、何らかの不具合を含んだモノがあるんじゃないか?
「何か思いついたようだね」
「はい。時間はかかるかもしれませんが、全てのアイテムを調べてみようかと」
「アイテムのステータス……仕様を見る手段はあるのかい?」
「それは……うお」
テーブルの上に鱗粉が舞ったかと思うと、羽をパタパタさせたが出てきてすぐにぐでえっとテーブルへへたり込む。
「……」
メガネは突然の出来事に唖然として口が開きっぱなしだ。
「えむりん、ここは人の領域だけどいいのか」
幸い個室だから、他の人に見られることはないけど。
しかし、えむりんはいつものノンビリとした調子を変えない。
「えむりん、おなかすいたのー」
「あ、うん……」
思いっきり脱力してしまった。どこでもマイペースなのがえむりんなのー。
ま、また口調がうつってしまった。
「えむりん、一体何をしに突然……」
「バナナがたべたいなー」
まるで聞いちゃいねえ。何このデジャブ。
「……か、かわいい……」
ボソリとメガネが呟く。
彼はちらちらとえむりんに目をやり、ソワソワと落ち着かない様子だ。
耐えられなくなったのか、立ち上がると個室の外に出て行った。
一方のえむりんは体育座りをしようとして、お腹が空いているからかべたあと仰向けに倒れ込んでしまった。
どうしたもんかなあ。メガネもいなくなっちゃうし……。
すぐに、ドタドタと床を激しく叩く音がして息があがったメガネが戻って来た。
「バナナ―だー」
「どうぞ」
メガネはきざったらしくクイっとメガネをあげて、バナナを一本テーブルの上に置く。
でも俺は見逃さなかったぞ。
もしゃもしゃと全身を使って一生懸命バナナを食べているえむりんを優しい目で見つめるメガネの姿をな。
なんというか、娘を見やる父親って感じだ。
ふーん、へー。
「メガネさん」
「全く君は……」
ニヤニヤとメガネの名前を呼ぶと、彼はえむりんから目線を外す。
「見られたからには白状しよう。僕は小さくてかわらしいものに目が無いんだ。特に小動物が好きなんだよ」
「そうだったんですか。かわいいグッズとかも好きだったり……」
「悪いかい?」
「いえ、人の趣味は様々ですし。いいも悪いもないです!」
えむりんが登場した時メガネが唖然としていたのは、驚いたからじゃなくえむりんに見とれていたんだろうな。
イケメンに意外な趣味が。しかし、彼はイケメンだから可愛い物好きな趣味がバレても余計に女子にモテてしまうんだよ。
やはり……イケメンは。
俺がふつふつと黒い気持ちになっていると、間の抜けたえむりんの声。
「ソウシ―。魔王さまが呼んでるのー」
「あ、マズイ。もうそんな時間か」
魔王と会う約束をしていたのは覚えたいたけど、思った以上にメガネと話し込んでしまっていたみたいだ。
「ちょっと気になったことがあるんだよ。ソウシ君」
「えむりんとお友達になりたいとかですか?」
「……っつ。それはそうなると望ましいが、えむりん君のことで間違いはない」
うひゃー。メガネをからかうとおもしれえ。
「えむりん君じゃないよー。えむりんだよー」
「そ、そうか。えむりん。メガネだ。よろしく」
ちゃっかり自己紹介をするメガネ。こういうところが抜け目ない。
でも、口元が緩んでるぞ。
「ソウシ君、君は『ロケート』を使う時、座標で転移場所を指定しているんだったよね」
「はい。その通りです」
「えむりんも先ほど、ここに転移してきたけど、ロケートを使えるのかな?」
「はい。えむりんもロケートを使えます。あ」
えむりんがロケートを使えるのは何度も見たし、俺の前で呪文を唱えるところだって確認した。
ふうむ……バナナで体全体をベタベタにしたえむりんへ目をやる。
こら、あかんやつやで。知性をまるで感じない。
んー。彼女が座標とかそんな難しいものを操っているようには思えないんだよな。
それに、彼女はどうやって座標を確認しているんだろう。俺と同じようにマップコマンドかなあ。
「えむりん、君はどうやってここに転移してきたんだ?」
「んー。ソウシの声だよー」
「俺の声?」
「うんー。ソウシがいるって分かったからーここに来られたんだよー。誰もいないとどこへ行けばいいのか分からなくなっちゃうのー」
お、おお。
メガネと頷きあう。
「ソウシ君、えむりんに協力してもらえば女神に会えるかもしれない」
「はい!」
「んー?」
何のことか分からないって感じでえむりんはぽやぽやとしたまま俺とメガネを交互に見つめる。
「ソウシ君、魔王が待っているんだろう。僕の方でも道具屋や武器屋と相談してみる」
「はい。魔王と会った後、また情報共有しましょう」
「分かった」
◆◆◆
――魔王城
えむりんに連れられて魔王城へ向かう。
魔王へ女神の反撃?について伝え、彼女をいかにとっちめるのか俺の考えを述べる。
「――なるほど。この調子であれば癇癪を起した女神が、暴発するかもしれぬな」
「そうですね。刹那的にやらかした所持金ゼロはすぐに対策しましたし。ますますムキ―とくるかもしれません」
「ふむ。して、お主のその顔。何か考えがあるのだろう?」
「はい。魔王さんは世界の理が見えるんですよね。全ての武器と防具、それにアイテムなどの性能を教えていただくことはできますか?」
「実物が無いと見えぬ。ここへ持ってこい。ならば見てやろう」
うーん、楽はできないかあ。
激おこ女神が次に何をしてくるか分からないから、なるべく急いだほうがいい。
「俺は急ぎアイテム集めをします。女神を懲らしめる作戦実行の際にはえむりんを」
「分かっておる。えむりんに礼をはずめよ」
「はい」
ともかく、世界中のアイテムを集めねば。女神が作成したモノと元からこの世界にあったモノがあるだろうけど、そのうちどれかが使えれば問題ない。
一発目で当たりを引かないかなあ。
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