第4話 素敵なおうち

『発電機について

 やっほー。ソウシさん、元気してるー? アハハ。

 あなたの世界の生活用品を真似してそのまま作ってみたわ。気に入ってくれたかしら?

 でもでもでもお。あなたの世界のような電気? だっけえ。仕組みは分かったんだけど、ちょっと難しかったのねえ。

 だ・か・ら、魔力を電気の代わりに使えるようにあなたの世界で言うところのお「発電機」をつくったわよお。

 地下にあるからあなたの濃いいいものをびゅっびゅしてねえ』

 

 う、うぜえ。この上なく腹が立ったが、家電製品まで準備してくれたことは非常に喜ばしい。

 特に冷蔵庫、風呂、温水。こいつは欠かせない。

 キッチンの奥には風呂場があって、蛇口をひねってみたけど水しか出なかった。どこから水を引いているのか疑問に思ったが、考えても無駄なので事実だけをありがたく享受する。

 

 全部の部屋を早く見たいところだけど、まずは地下に行ってみるとしようか。

 って、地下へ続く階段がないぞ。

 

 外かと思い家の外周を回ってみたが、階段は無い。

 あれえ? そこで俺はポンと手を叩く。

 

 暖炉の前の立ち、中を覗き込むと……下方まで穴が続いていた。

 よっこいせっと、穴の中に入り下に進むと鉄製の扉を発見する。ここだろう。うん。

 

 扉を開け放った状態で中に入るが、さすがに外の光が差し込んでこず真っ暗闇だ。

 何も見えん。

 ち、ちくしょう。これだとどうしようもないな。ランタンかロウソクがないと……簡単には使わせまいと悪意を感じる。

 

 仕方ないので、一旦一階に戻り部屋の中を探ることにした。

 一階にあるのは、キッチン、風呂、洗濯機、冷蔵庫、そして暖炉だ。あとはテーブルとか椅子が置いてある。

 しかし、食器類やフライパンなどの調理器具は一切置いていなかった。

 

 二階にあがると部屋が三つあり、全て寝室だ。

 二つの部屋は同じ作りで、シングルベッドとクローゼット、小さい机と椅子が置いてあるだけのシンプルな作りだった。

 クローゼットの中には俺の着ているものと同じスーツが十着。下着も込みで。それに、二つの部屋両方に同じものが……。

 残りの一部屋は広めで、天蓋付きのクイーンサイズのベッドがでーんと中央に鎮座していた。

 

 枕元に手紙とピンク色のとある施設で見るようなピンク色のライターが並べて置かれている。

 手紙には……

 

『えっちー』


 とだけ書かれていた。

 俺はすぐにそれを破り捨てゴミ箱へ放り投げると、イライラしたまま一階に戻る。

 

 何か役に立つ物はねえのかと間仕切りの無い広い一階を見渡す。

 すると、あることに気が付いた。

 暖炉の前には丸い絨毯が敷かれているのだが、平らになっていないのだ。

 

 ニヤリと笑みを浮かべ、絨毯をめくる。

 

「お、おお」


 思わず声が出てしまった。

 なんと絨毯の下から本を二冊発見する。

 

 どれどれ……。

 一冊目は緑色の装丁で、タイトルは「食用の植物だお」と書かれていた。

 もうこの程度の挑発ではイラつかなくなった俺は、そのまま本のページを捲る。ほう。ほうほう。こいつは使えるな。

 食用の野草や果実が絵付きで紹介されているではないか。これは、ここでスローライフを行うのによい。女神も一応は約束通りスローライフができるように情報を準備してくれたってわけだ。

 

 二冊目は見るに耐えない内容だったから割愛しよう。

 しかし、これで発電機に魔力を込めることができるな。うん。

 

 俺は二冊目の本を先ほど破り捨てた紙の入ったゴミ箱に放り込み、「LOVE」と書かれているピンク色のライターで火をつける。

 よく燃える燃える。いい気味だ。

 と思いながら、地下へ。

 

 炎で照らすと、発電機の様相がようやく確認できた。

 思ったより大きいな。発電機は一畳分ほどの縦横のサイズがあって高さは一メートルほど。手のひらの図が描かれているところがあり、そこに手を当てると発電機が光りメーターがあがっていく。

 

 メーターは充電量によってランプが灯っていくタイプなのだが、上に目安なのか文字が表示されていて……卑猥なので割愛。

 とりあえず、最終的に「ビンビン」になる。

 

 ため息をつき、地下室の電気を灯す。

 明るくなってようやく部屋を観察できたのだが、ここには発電機以外何もないな。

 一度充電が切れると、真っ暗になるから充電が尽きる前に補充することを忘れないようにしないと……。一回の充電でどれくらい電気が持つのかチェックをしておけば問題ない。

 

 ようやく電気が通ったところで、全ての家電製品が動くか確認しておこう。

 湯沸かし器が発見できなかったけど、お湯は蛇口をひねると自動的に出る模様。洗濯機・冷蔵庫は電源が入ったから問題ない。

 キッチンには無駄に豪華なIHクッキングヒーターがあるのだが、これもちゃんと動いた。

 どんな罠があるのかひやひやしながら動かしてみたけど、何とも無くてよかったよ……。

 

 このまま気分がよいうちに、風呂に入って寝たいところだがさっきから腹が減って仕方がない。

 庭に何か生えてないか見に行くか。暗くなる前に……。

 

 ◆◆◆

 

 俺の家の庭はなかなかすごい。

 

 俺は拾ってきた物を机の上に広げた。

 イガイガに入ったままの栗、野イチゴ、何故か木になっていたメロンにスイカと季節感がバラバラのそれらを満足気に眺める。

 栗はそのまま食べられないから今日のところは放置しておいて、残りは今すぐ食べてしまおう。

 

 包丁やスプーンが無いから手をベッタベタにしながらも完食する。

 はああ、後は風呂に入って寝るか。天蓋付きは意地でも使わねえからな。

 

 翌日のお昼前――。

 ふああ。よく寝た。朝から誰にも追い立てられないってなんて素敵なんだ。

 一瞬納期に追われ続けたかつての仕事のことが頭をよぎり、ブンブンと頭を振る。

 もう俺はブラックな仕事をしなくていいんだ。これからはこのパラダイスでスローライフを送る。

 

 えいえいおーとベッドの上で気合を入れたところで、ウィンドウが開く。

 

『由宇が死亡しました』


 またかよ。彼女のレベルをチェックしてみたが、レベルは一のままだ。

 「頑張れよ。勇者!」と思いつつも、現金収入のため着替えてからロケートの魔法を唱えるのだった。

 

 ◆◆◆

 

 由宇は前回の死亡場所にほど近いところで、シマパンを出しながら倒れ伏していた。

 彼女の近くには緑色のスライムがぷよぷよと身震いしている。

 

 二度目ともなると、前回よりは彼女の体に触れるのにも慣れ棺桶へ彼女を安置した。

 そうそう。棺桶なんだけど、何度でも出せるようだから在庫が尽きる心配はしなくてもいい。

 

「すぐに復活させるからな。由宇」


 俺は一人呟くと十字を切り、ロケートの魔法で王の間に転移する。

 

「おお、勇者よ。死んでしまうとは情けない」


 その言葉と共に、棺桶が光って蓋が開き由宇が目を覚ますのだった。

 彼女が起き上がると共に、棺桶は光の粒子となって霧散する。

 

『報酬として三ドールを手に入れました』


 やはり、少ない……。

 しかし彼女、全く成長しているように見えないけど、ちゃんと生きて行くだけのお金を持っているんだろうか?

 

 復活したばかりの彼女を一瞥するが、彼女へ問いかけることは思いとどまった。

 彼女には彼女の仕事がある。俺が口出しすべきじゃあないな。うん。

 踵を返し、王の間を立ち去ろうとした時、腰にタックルを喰らってもんどりうって倒れこんでしまった。

 

「待って、待ってください!」


 後ろから俺を押し倒したのは由宇で、彼女は俺にのしかかったまま必死にそう叫ぶ。

 

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