第8話 次々に死亡していく

「な、何? その棺桶……あ!」

「気が付いたようだな。その棺桶に入っておけば安全に外へ出られるはずだ!」

「え、えええ……」

「どうせこのままじゃあ、死体になってしまうだろ、さあ入った入った」


 生きている状態のタチアナを棺桶の中に入れたとしても、モンスターが襲ってくるかもしれない。

 でも、何もやらないよりはと思ってね。ひょっとしたら棺桶の中なら死亡扱いになって、モンスターに無視されるかもしれないじゃないか。

 

 戸惑いながらもタチアナが棺桶に入ったところで蓋を閉じた。

 そして、棺桶を縦に連結して荒縄を引っ張る。

 ズリズリと動き出す棺桶。

 

 なんかこうやって棺桶を引っ張っていると俺もパーティの一員になった気分だ。

 うろ覚えだから一度道を間違えてしまったけど、俺の予想が的中したようでモンスターが襲ってくることもなく無事外に出ることができた。

 

「蓋を開けるからじっとしていてくれ」

「うん」


 棺桶の蓋を開けると、タチアナが外の眩しさに目を細めながらも立ち上がる。


「本当にモンスターが来なかったわね」

「だろ?」


 偉そうに腕を組んで頷いているが、モンスターが襲ってくるか来ないかは分からなかったことを彼女には黙っておこう。

 結果的にうまくいったんだから、問題ない。ふふ。

 

「じゃあ、王様のところへ行くぞ」

「え?」

 

 タチアナの返答を待たずロケートの魔法を唱える俺。

 この後、彼女はロケートの魔法に驚いていたがモニカが復活すると彼女を抱きしめ何度も「よかった」と言葉を繰り返すのだった。


 感動の再開をしている双子の姉妹をよそに、俺はニヤニヤと自分の所持金を眺めている。

 だってさ、百ドールも手に入ったんだぜ。

 

 二人の注目が俺に向く前にロケートを唱え自宅に戻る。

 

 ◆◆◆

 

「ただいまー」

「おかえりなさい!」


 自宅に戻ると、由宇がパタパタと笑顔で出迎えてくれる。

 いいなあ。待っててくれる人がいるってさ。過労死する前は一人暮らしだったし、家に戻っても真っ暗闇。

 

 鍋で何かを煮込んでいるのか、いい香りが漂ってくるのもなんともまあよいものだ。

 

「何も食べられてませんよね? 庭で獲れたサツマイモをふかしてます。あと芋系ばかりですいません。カボチャのスープも」

「ありがとう。あ、俺からも買ってきたものがあるんだ」


 三人を復活させた分で合計百五十ドールを手に入れた。

 そのお金でいろいろ買ってきたのだ。

 

「包丁、フォーク、ナイフ、コップに皿だろ……」

「ソウシさん、素敵です!」


 テーブルに次々と買ってきた物を置いていく。

 まだ驚くのは早いぞお。

 塩、小麦粉、そして極めつけはこれだ。

 

「どーん、鶏か七面鳥の丸焼きだ」

「二つも! そんなにお金が手に入ったんですね」

「うん」

「じゃあ、お食事を持ってきますね」


 さっそく買ってきた皿にサツマイモをコップにカボチャのスープを入れて、由宇がテーブルへ食事を並べてくれる。

 

「おいしそうだ」

「えへへ」


 頷きあった後、手を合わせて食事を食べ始めた。

 さっき買った塩をサツマイモへ振りかけるとよりおいしいぞ。


「しまった」

「どうしたんです?」

「フライパンも買ってきたらよかったな」

「いえ、今買ってきてくださったものでも大助かりです!」


 生活必需品が揃ったら由宇の服を買いに行きたいなあ。

 いつまでもサラシとワイシャツじゃあね。針と糸があれば、ズボンを裾上げしたら彼女でも使えるかな。

 不便なことを何とかしようとするのは、購入意欲に繋がりそれがマンネリを避ける生きる活力になるのだ。うん。

 しばらくはそれでいいが……そのうち完全ニート化してやるぜ。勇者たちよ。早く魔王を倒してくれよお。もし収入が今すぐ無くなったとしても、それはそれで何とかできるしさ。

 と他人任せな俺なのであった。

 

 なんて考えながらむさぼり食っていると、ようやく満腹になった。

 

「ごちそうさま」

「大したものじゃなくて……」

「この材料でおいしかったし、ありがとうな」

「えへへ」


 それじゃあ風呂に入って洗濯を回した後に寝るかなあ。

 食器を持って立ち上がった時、ウィンドウが開く。

 

『まさひこが死亡しました』


 またかよ! 

 「おお。まさひこよ。一日に二回も倒れるとは嘆かわしい」

 こんなセリフが脳内で王様の渋い声で再生され、乾いた笑い声が出る。

 

「由宇、もう一回行ってくる」


 後片付けを由宇に任し、再びロケートを唱えた。

 

 まさひこを王様に届けた後はウィンドウが開くことも無く、久しぶりにウィンドウがゼロの状態でベッドに寝転がる。

 イルカがゆーらゆらと左右に動く姿を眺めていたらうつらうつらとしてきて、いつのまにか寝てしまった。

 

 ◆◆◆

 

 一週間が過ぎる。

 あれから十人の勇者たちは全体で数度死亡することがあったけど、一度も死亡していない人もいた。

 しかし、一名だけやったらめったら死ぬ奴がいるのだ。そう、まさひこである。

 これくらいならまだ対処できるし、一日の労働時間としては数時間もないからまあ許容範囲かなあ。

 

 でも、まさひこの死亡回数が突出して多いのが気になっているのも確か。

 後で彼をこっそりとつけてみるとしよう。後でな。

 

 今はダメだ。だって、俺は由宇とカルディアの街に来ているのだから。

 ここは王様のいる街より大きくて、マップによる事前調査ではこの世界で一番大きい港街なのだ。

 港街は船の往来があるので、人とモノが集まるはず。

 つまり、由宇の服を買うに一番適していると思う。

 

「あ、あの店とかどうだ?」


 俺は隣で歩く由宇へ右斜め前の店を指さす。

 彼女は最初に会った時の服装で街に来ており、買い物に出かけているからか終始ご機嫌モードだ。

 

「ありがとうございます。行きましょう!」

「おう」


 由宇がはしゃいだ様子で速足になったものだから、少し後ろから俺が追いかける。

 彼女の手の指先が目に入り、一瞬、手を握りたい衝動に襲われてしまう。

 

「ソウシさん、すごいですよー。このお店」


 窓越しに見える茶色のロングコートへ由宇は目を輝かせる。

 ひまわりのような笑顔に囚われる俺。あまーい気持ちになりかけた時……。

 

『ゆうけんが死亡しました』


 な、何。


「どうしました? ソウシさん」

「勇者が死亡したんだけど……」

「それはすぐに向かわないとですよ!」

「いや、いつもなら買い物を済ませた後でもいいんだけど……場所と死亡した勇者の名前が」


 ゆうけんはこれまで一度も死亡したことがない勇者で、今回が初だ。

 彼女は勇者同士で四人組のパーティを組んでおり、後衛を務める。残りの三人は死亡しておらず、彼女だけが死亡。

 それ以上に死亡した場所が……。

 

「そ、それは大変です」


 俺の思考を遮るように由宇の声が響く。

 

「確かにすぐに見に行った方がいいかもしれない。少しだけ待っていてもらえるかな」

「ごゆっくりどうぞ! 私はこの中をじっくりと見ていますので!」

「うん」


 場所は海の上だったんだ。

 一体何が起こっている? 不安を感じながらもロケートの呪文を唱える。

 

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