第26話 まさひこかける三
強い武器やらといえば、最終目的地に近いほど敵が強いほどいい武器が出るのが定番ってもんだ。
じゃあ、強い敵と言えば……魔王城以外となるとドレッドマウンテンにあるダンジョンがラストダンジョンと言えるだろう。
そんなわけでモニカパーティを誘って、ドレッドマウンテンのダンジョン入口まで来ている。
このダンジョンは、ドレッドマウンテンの麓から魔王城のあるエリアまで抜けることができるのだ(メガネの予想)。
じゃあ、山の上から……つまり出口側から行けばいいじゃないかと思うところだけど、そこは様式美。入り口から入りたいってのはゲーマーの
いや……性とかは冗談だけどさ。
別に俺一人でこのダンジョンを踏破することは問題ない。むしろ俺一人の方が手間が無いんだが……。
隠し扉とか謎の仕掛けとかは複数人で行った方が見逃さないだろうし、一番の目的はラストダンジョンのモンスターが勇者たちに太刀打ちできるものなのか確かめたいってことなんだよ。
ダンジョンは奥に行けば行くほど敵も強くなる。順を追うことでどのあたりまでのモンスターと戦えるのかチェックできるというわけなのだ。
勇者たちは未だにラストダンジョンに到達していない。レベルは既に八十を超えているというのに……。
モニカやメガネは言葉だけで納得はしてくれたけど、ひょっとしたら無理ゲーじゃないかもと思っているところがある。
要するに、勇者はラストダンジョンのモンスターにさえ敵わないと身をもって知ってもらおうと実地検証もやってしまおうってわけ。
モニカパーティにしたのは、戦いたくて仕方がないまさひこがいることと、現地人なので警戒心や観察力が高くアイテムも発見しやすいと思ったからだ。
――ダンジョンの入り口。
自然の状態からくり抜いただけの岩肌を進んでいくとすぐに鉄の扉が見えてくる。
鉄の扉は両開きのスライド式になっているが、硬く閉じられていて中央に赤色で大きな紋章の絵が描かれていた。
「ソウシさん、私たちはまだ二種類しか紋章を集めていないわよ」
タチアナがさっきと同じことを繰り返す。
「だから、問題ないって。全く……信用がないんだなあ」
「信用してないわけではないさ。この扉を君が突破するのにどれくらいの時間がかかるかが問題なのだよ」
モニカがまさひこへ目線をやり、肩を竦める。
た、確かにそうだ。あまり時間をかけると待ちきれなくなった彼が何をするか分からんな。
いや、でもここまで一本道だし迷子になることは……無いよな?
「ソウシさん、今回は入り口までソウシさんのロケートできたけど……」
「あ、うん。そうだな」
ドレッドダンジョンの周囲は毒の沼地がある。
ダンジョンから飛び出したまさひこが、毒の沼地に沈んだりモンスターと格闘したり……は無いと言い切れんのが辛い。
「なるべく急ぐ。まさひこがウズウズし始めたら言ってくれ」
背中に担いだツルハシを取り出し、シャキーンと天に向かって掲げる。
「ソウシ殿……」
「ソウシさん、さすがにそれは無いんじゃ……魔法でドカーンとやるって思ってたんだけど……」
あきれたような二人の声。
「なあに、問題ない。ふふふ」
両開きの鉄の扉は確かにこのツルハシではビクともしないだろう。
でもさ、扉がくっついている壁は岩なんだよ。それもただくり抜いただけのモロそうなやつだ。
「とくと見よ。このソウシのパワーをなああ!」
謎の雄たけびをあげて、ツルハシを振りかぶり扉の横にある岩肌へばちこーんと振り下ろす。
いい音を立てて形が変わる岩肌。
よおおし、行けそうだ!
二発目。ガラガラと音を立てて岩がボロボロと落ちてくる。
三発目。どんどん岩肌が崩れていくぜえ。
五発叩いたところで、岩肌は崩れ去り扉の向こう側へ繋がった。
「どうだああ。力こそパワー!」
雄たけびをあげる俺。
「……酷い……」
「ソウシ殿、さすがにこれは……」
え、そこは「すごい、ソウシさん! 素敵!」じゃないの?
あからさまなため息はやめてくれないだろうか。
「うおおおお。ソウシさん、やるじゃないかああ」
「あ、ありがとう」
ところが、まさひこだけは感動したように拳を握りしめプルプルと震わせてくれた。
「ありがとな。ソウシさん。開かずの扉が開いた。燃える!」
「そ、そうか……」
「行くぜ! 行くぜ! 行くぜ! 俺、参上だぜえええ!」
「あ、ま、待て!」
しまった。
タチアナが俺に対し脱力していて、彼女が止めるのは間に合わなかった。
俺は俺でまさひこが突然走り出すとは思っておらず……。
「い、行こう」
「う、うん……」
タチアナと目を合わし、中へと進む。
向こう側に出た時――
『まさひこが死亡しました』
とウィンドウが開く。
「まさひこおおおお!」
思わず叫ぶ俺。
対する鬼の双子はもう慣れたものですぐに状況を察してはああと大きなため息をつく。
◆◆◆
おお。まさひこよ。落とし穴にハマって串刺しとは情けない。いや、グロいから勘弁してくれ……。
王様のところへ戻り、再びラストダンジョンに戻る。
「今のは無し。今のは無しだ。いいか?」
「え、ええ……」
モニカは無言。タチアナはタラリと額から汗を流し、言葉だけは返してくれた。
「タチアナ!」
「分かっているわ」
また同じところで落とし穴の罠に引っかかりそうだったまさひこである。
俺とタチアナは左右から彼の腕を引っ掴み、彼の体を後ろへ引きずった。
「まさひこおおお! さっきそこに落ちただろおお!」
「そうだったっけ? 男たるもの細かいことは気にしないんだあああ!」
「お前は少しくらい気にしろよ!」と言う気力も沸かずに落とし穴の罠を通り抜け、先へと進む。
狭い回廊を右手に折れ、少し歩くと大広間に出た。
そこには……。
「ドラゴンだあああ! うおおおおお! やったぜ。ドラゴンだぜえ!」
「ま、待て!」
何この既視感。
正面から何の対策も無しに進む奴があるかああ。
待てと言われて止まるまさひこではなく、彼は赤い鱗に全身が覆われた巨大な龍へ真正面から向かっていく。
あ、龍の口が開いて……チリチリと青い色の炎が。
『まさひこが死亡しました』
ですよねえ。
◆◆◆
――テイクスリー
三度目。三度目である。
「こ、今度は縄で括っとくから。ね、ソウシさん」
「あ、いや、もうまさひこの役目は済んだから……しばらく、棺桶を俺が引っ張ればいい」
何の事? って顔をしているタチアナだけど、モニカはもうすでに察しているぞ。
「ソウシ殿。まさひこの活躍でハッキリしたよ」
「うん。勇者が魔王を倒すどころか、このダンジョンのモンスターでさえ厳しい」
俺がダンジョンの入り口からわざわざ入ったのは、まさひこにモンスターと戦ってもらうため。
いや、彼じゃなくてもいいんだけど、彼なら率先して突っ込むだろうし。
「ねねね。どういうことなの?」
「少しは頭を使え。おっぱいと一緒に脳みそまで忘れてきたのか」
「ちょっとお。ひ、ひんぬーは関係ないでしょ」
顔を真っ赤にして自分の胸を覆うように腕を組むタチアナ。
「いいか、タチアナ。ダンジョンってのは奥に行けば行くほど、モンスターが強くなる」
「まさひこは、入って一番最初のモンスターに一発でやられちゃった……あ、そういうことね!」
タチアナはやっと合点がいったと膝を打つ。
入口から入ったのは、どのあたりまでのモンスターならまさひこが戦えるのか見るため。
モンスターは奥に行けば行くほど強くなるわけだが、彼はファーストコンタクトのモンスターに不意打ちとは言え一発でさえ耐え切れなかったんだ。
ちゃんと戦えば、勝てるかもしれないけどワンキルされる状態だとモンスターを倒しながら進むことは非常に難しいと思う。
奥に行けば更に強くなるわけだしさ。
彼ほどの高レベルの勇者でもこれなんだから……勇者じゃ無理ゲーなのは実際彼が戦ってみて明白になった。
「じゃあ、お宝を全て集めるか」
俺の言葉にモニカとタチアナは無言で頷きを返す。
そう言っている間にもまさひこが死んでしまったようだけど……。
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