第22話 先生(死亡専門)

「由宇。一言で言うと、俺たちは女神に騙されていた。魔王は風評被害を受けていたに過ぎなかったんだ」

「え、えええ! どういうことですか?」


 目をパチクリさせ、戸惑ったように由宇の声が上ずる。

 俺はポイントポイントをなるべく簡潔になるよう、ぽつぽつと彼女へ魔王と会話して判明したことを語っていく。


「ふへええ。ソウシさん! すごいです! そこまで考察して答えに辿り着くなんて!」

「全ては思い込みと先入観だったんだよ。他の勇者たちにも相談したいが、女神の動きもみたい」

「きっと女神様は既にある程度把握してるんじゃないかと」

「把握はしていても、取るに足らないと判断するかなんとしてでも潰してやろうと判断するのかを見極めたいところなんだよ」

「で、でも。ソウシさんはともかく……勇者さんたちは王様からお金をもらえないと生きていけないですよね……」


 王様もグルになっていると伝えたからか、由宇は顔を伏せ落ち込む様子を見せる。

 王様が復活を拒否するとかなら大ごとだけど……彼女の心配はどこかずれてないか?


「王様からお金って……?」

「所持金がゼロになると支度金をいただけるんです。ほんの少しですが、宿に泊まれるくらいの」


 それは初耳だ。

 なんとへっぽこ勇者由宇がここに来るまで支度金で生きていたとは。

 しかし、支度金とか彼女だけだって。


「待て、由宇。そもそも勇者ってのは、モンスターを倒して稼ぐもんじゃないのか?」

「え?」


 モンスターを倒し一定時間が経つと、霞のようにモンスターの体が分解され、後に魔唱石ってのが残る。

 それを街で売ってお金に換金するのが、勇者の収入源となる。


「そ、そうだったんですか……あ、あの、私は……」

「分かった。もういいから涙目になるな」


 驚くべきことだが、王様も最低限のお金は支給して勇者が飢えないようにしていたってことか……。

 俺の知る限り、最初のモンスターでさえ倒せないのは由宇だけだから……支給されたのも彼女だけだと思う。

 

「あー、ウィンドウの処理でもしてくるかなあ」


 ワザとらしく呟き、両手を頭の後ろで組む。


「お、お気をつけてください!」


 ハッと顔をあげ、由宇はにいいっと無理に笑顔を作り俺を送り出してくれたのだった。

 こういうところはいじらしくて可愛いよなあ。うん。

 

 ◆◆◆

 

――翌日。

 うおおおおお。まだだ。まだ終わらんよ。

 なんだか、まさひこの気持ちが少し分かってきたぞ。これがナチュラルハイってやつだああ。

 ちなみにアルコールは一滴も入っていない。

 

 モグラ叩きかよ。なんだか、ウィンドウを叩いても叩いても叩き潰しても湧いてきやがるぜ。

 見たことのない名前も含まれていたから、チラリと「勇者一覧」を見てみたら増えてるねえ。増えてるう。

 知ってたさ、増えているのなんて。

 

 日が昇ると共に勇者の回収を行い、食事の時間以外は勇者の回収をやっているがウィンドウがゼロにならねえ。

 現在の勇者の数……二百名。研修も追いつかねえぞ。

 

 時刻は既に深夜になろうとしている。

 コンフィグの明かり調整で真夜中だろうが俺には関係ないけど、死に過ぎだろ勇者たちよ。

 

 いくらなんでもおかしいってこれ。

 あのクソ女神。俺が反逆の意思を見せたことへ対する報復のつもりかよ。

 キリがない。

 

『★セフィロス★が死亡しました』

『スペランカー先生が死亡しました』


 また増えた!

 高レベル帯の不穏な中二病まで死亡してるんじゃねえ。また迷子だろうけど……。

 そしてもう一人。こいつは新人だ。しかしだな。今日だけで既に四度目なんだよ。名は体を現すと言うが、次に復活した時に問いただしてやる。

 

 まずは、★セフィロス★からいくか。こいつは復活させてもそうそう死なないからな。

 場所は……何ここ? 見たことのない座標なんだけど。

 

 マップを確認して、乾いた笑いが出た。

 

「ロケート」


 移動したところは、船の上。ただし、船は氷山に衝突して座礁している。

 なんと★セフィロス★がいたのは南極だったのだ。

 地球と違って南極に大陸はないようだが、北極のように一面の氷の世界ということには変わりない。

 こんなところに迷い込んだら砕氷船でもない限り進むことなんてできやしないぜ。案の定、座礁しているしさ。

 

 幸い吹雪いていないものの、とにかく寒い。

 座標によるとすぐそこにいるはずだけど……。船から氷山に降り立ち左右を確認するとすぐに★セフィロス★を発見した。

 彼は一度海の中に落ちて這い上がったらしく、全身が濡れて、無駄に海水を吸い込んだマントやらが凍って固まり、身動きがとれなくなったところで体全体が凍り付き……立ったまま彫像のようになったと推測される。

 

 うわあ。

 ペンギンさんがツンツンしているけど、失礼して彼を抱え上げると棺桶に突っ込む。

 

 続いて、スペランカー先生のところにいくとするか。

 俺は白い息を吐き、ロケートの呪文を唱える。

 

 ◆◆◆

 

 スペランカー先生が倒れていたのは、崖の……いや溝の下であった。

 ここは、ちょっとした丘というか山があるんだけど斜面を登るような山道が続いている。もし、足を踏み外したら下へ落下してしまうんだけど、高さは一メートルくらいかなあ。

 で、彼はこの段差に誤って落ちてしまいあえなく死亡したというわけだ。

 

 待ってほしい。

 高さが一メートルしかないんだぞ。

 しかも、頭から落ちたわけじゃあない。その証拠に彼の脚が変な方向に曲がっている。骨折に加え、落ちた時のショックで心臓麻痺を起こし死亡したのだろうと思われる。

 頼むから、もう冒険に出ないでくれよ!

 

 彼の遺体を棺桶にそおおっと安置し、息を吐く。

 乱暴に投げ込んでバラバラになったら困るからな……。

 よし、王様のところへ行こう。

 

「スペランカーさん、安全なところで療養していてもらえませんか……」


 復活したスペランカー先生へ苦言を呈するが、彼はとてもいい笑顔で首を左右に振る。

 彼は四十代後半の口髭を生やしたやせっぱちの男で、赤い服の上から青色のオーバーオールを着ている。

 頭には安全のためかヘルメットのような兜を装着しているけどまるで役に立っていない。何しろ、何かの糞が頭に当たって死亡していたからな。

 笑えないほどの虚弱体質。それがスペランカー先生なのだ。某ゲームと同じ名前にしたのは、自分がそこまでの虚弱だからなのだろうか……。

 

「いやいや、未知の世界に来て心躍らぬわけがないだろう! チミにはいつも感謝しているよ」

「で、ですが……まともに道も歩けないじゃないですか!」

「何を言うか、先ほどはちょっとした油断だったのだよ」

「人の高さほどの岩に登ろうとして死亡したこともあったじゃないですか! ゆっくりと街の中だけを散策するようにしてくださいよ」

「何を言うか。街の中も危険がいっぱいだ」

「植木鉢とかですか」

「そうだとも!」


 うん、この人、街の中でも死亡しているんだよ。

 まだこの世界に来てから二十四時間も経っていないと思うんだが……。

 

「死んだ時はまた頼む。ソウシくん!」

「だからあああ」


 行ってしまったが、またすぐに逝ってしまうんだろうな……。

 

 彼に構っている間にもウィンドウが二つ増えた。

 クソ女神めええ。

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