第12話 バーニング!

――王の間。

「おお。勇者よ。死んでしまうとは情けない」


 王様は例えまさひこ相手だと言えどもセリフには手を抜かない。

 でも、王様……顔に出てるって。もっとも、復活するまで本人に見られることはないから問題が起こることはないけれど。

 おお、王様よ。俺にもあなたの気持ちはよおおおく分かる。

 

 王様が杖を振ると、棺桶が光につつまれまさひこが目を覚ます。

 

「うおおおお。ありがとおおおおう! 王様! ソウシも!」


 まさひこは起きるなり耳が痛くなるほど大きな声で熱く叫ぶ。

 彼は二十歳そこそこの赤毛のツンツンヘアーをした青年だ。小柄で意思の強そうな釣り目をしており、常にメラメラと何かに燃えている。

 

「まさひこ。モニカさんとタチアナが待っているから一度、『天国の階段』へ戻るぞ」

「オッス! 助かりまっす!」


 まさひこは空手の挨拶を真似たのか両腕をクロスさせて頭を下げる。


「いいか、まさひこ。くれぐれも、モニカさんの指示があるまで動くなよ」

「ウッス! うずうずしてきたッス!」


 こ、こいつ……。まるで話を聞いちゃいねえ。

 

 ◆◆◆

 

 再び鬼の双子のところに戻ると、まさひこは悪びれもせず「よお!」とか陽気に右手をあげていた。

 おいおいと思ったが、タチアナがパシンと軽くまさひこの頭をはたく。

 

「もう、まさひこ。勝手に進んだらダメだって言ったでしょ」

「そうは言ってもだな。風が俺を呼んでいるんだ! うおおおおお」

「……」


 タチアナがギャーギャーとまさひこへ小言を言いながら、またしても彼の頭を平手ではたく。しかし、彼は目を輝かせて「次なる獲物を求めている」とかまるで聞く耳を持たず勝手にしゃべっている。

 一方のモニカは眉をひそめ、大きな胸を持ち上げるように腕を組み首を振った。

 

「時にソウシ殿。先ほど飛び降りたのは必要があったのか?」


 モニカは二人から目をそむけ、俺へと向き直る。

 

「ダンジョンや塔の中だと、俺の転移魔法『ロケート』は機能しないんだよ」

「それは聞いている。だから、貴殿は塔の中へ出現せず入口に来たのだろう? それを見越して私たちは塔の前にいたのだ」

「うん。塔の前にいてくれて助かったよ。話を質問に戻すとだな、『一階と二階の間に見えない壁がある』って言ったことを覚えているか? 答えはそこにある」

「……なるほど。そういうことか」


 モニカは納得したように大きく首を縦に振る。

 塔と外界を仕切る壁は、塔の内部扱いなのか外部扱いなのか判断に迷うところだけど、答えは見えない壁にあった。

 一階の壁はフィールド扱いなので、草原にある岩と同じように誰でも登ることが可能である。しかし、二階以上の壁は「塔の内部」扱いになっているのだ。

 「塔の内部」だから、塔の中からしか普通は壁の外側に到達することができない。その上、塔は階層ごとに区切られていて階段以外に上下階を移動できないんだ。

 結果、外側から二階へ登ろうとすると、侵入不可となり見えない壁に阻まれることになる。

 しかし、俺はダンジョンの扉が壊せたようにシステム的な制約を受けない。だから、気にせず二階へ登ることができたというわけ。

 

 話を戻すと、俺が八十六階の窓から塔の外へ出ただけでは、まだ「塔の中」にいるのと同じ扱いでロケートの魔法が使えない。

 しかし、一階部分まで落ちてくると「塔の外」なのでロケートが使える。

 

「モニカさん、まさひこは本当に大丈夫か?」


 今度は塔へ向かおうとして、タチアナに後ろから羽交い絞めにされているまさひこを見やり……うらやまし……じゃない。不安になってきた。

 

「ああ、タチアナが彼へ首輪をつけることに慣れてきたから勝手にどこかへ行くことは少なくなるだろう。他にもいろいろ問題を抱えているが、彼の戦闘力は折り紙付きだ」

「へええ」

「恐れを知らずどのようなモンスターへでも向かって行くし、彼は前衛なのだが炎の魔法も使える超攻撃タイプだから突破力はぴか一だ」

「……猪突猛進の極みだな……」

「それは言わない約束だよ。ソウシ殿。なあに、ものは使いようだ」


 言ってる鼻からまさひこが塔とは反対方向へ走っていくぞ。

 お? 空を飛ぶ巨大な鷹のようなモンスターがいるな。それにしてもまさひこはモンスターのことだけはよく見ている。他にももっと注意力を発揮してくれればなあ……。

 えっと、まさひこの向かう先にいるあのモンスターは、ガルーダ―という名前のモンスターだ(メガネ情報)。

 確かレベル三十くらいで戦うに丁度いい相手とか聞いたが……。

 

「うおおおおお! 降りてこい!」


 まさひこが叫ぶ。

 思った以上のおバカさんぶりに頭が痛くなってきた……。

 

 モニカと目が合うが、彼女はまあみていろとばかりに頷きを返す。

 

 ガルーダはグゲグゲとまさひこを小ばかにしたように鳴き、彼が顔を真っ赤にしたところで大きく息を吸い込み嘴を開く。


 ――くええええええ!

 耳をつんざくような咆哮と共に、ガルーダの開いた口からソニックブームが吐き出される。

 しかし、まさひこは動じず腰だめに拳を構え叫ぶ。

 

「バーニングファイアー!」


 まさひこが拳を振り上げると共に、彼の拳から炎が迸りソニックブームごとガルーダを飲み込む。

 炎にまかれたガルーダ―はプスプスと黒煙をあげて地に転がったのだった。

 

「俺の勝ちだあああああ! うおおおお。レベルもあがったぞおおお。七十三だあああああ!」


 騒がしい鬨をあげるまさひこ……。

 

「ま、まあ。暑苦しいけど戦えるんだな……」


 ボソリと呟き、たらりと額から汗を流し頭をかく。

 

「そういうことだ」

「じゃあ、これで……」


 キンキンとする耳を軽く押さえ、俺はロケートの呪文を唱えたのだった。

 

 ◆◆◆

 

――おうち。

 自宅に戻ってようやくアップルパイを食す。おおお、おいしいじゃあないか。

 由宇の料理の腕は抜群だな。うん。


 食べているうちにもウィンドウが二つ出て来たけど、場所がフィールドでソロ勇者だったから後回しにしても問題ないと判断し放置。

 しっかし低レベル帯ほどソロが多いな。

 勇者たちはパーティを組むかなあと思える意識つけが為されていないというのが、ソロが多い大きな理由かもしれない。

 例えば女神が他の勇者もいるということを伝えてないし、王様も勇者たちが一丸となって協力することを勧めるなど気の利いたことは言わない。

 それでも、メガネのように一部の勇者たちは、自主的に攻略を進めるため互いに協力しあったりしているが……。

 

 そこまで考えたところで、アップルパイの最後のひとかけらをもぐもぐしながら対面に座る由宇の幸せそうな顔を見やる。

 食べている時は本当にいい顔するよな。彼女は。

 たが、食べることが大好きな彼女は食への探求心も強く、料理もうまい。素晴らしい!

 

「ん、どうしたんです? ソウシさん……もぐもぐ」

「いや、今回さ、まさひこをタチアナたちに紹介してうまくいったんだけど」

「はい」

「勇者たちってそれぞれ女神から魔王討伐の報酬を約束されてるから、無理にパーティを組ませるのはよくないのかなとも思ってたんだ」

「なるほど。でもですね。女神様は『魔王を討伐した時に報酬を約束』しただけでして、『誰が討伐するのか』とはおっしゃいませんでしたよ?」

「……なんという詭弁。しかし悪くない考え方だ。勇者たちの攻略を進めるためにも、死亡率を下げるためにも全員にパーティを組んでもらった方がいいと思うんだ」

「なるほど……わ、私も……戦わないとですよね」


 ずっと気にしていたのか目を伏せる由宇であったが、彼女に俺の考えている真実を言っていいのか悩む。

 

 

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