第26話 文化祭はどうするの? その1
僕たちはそのまま自分たちの教室へと向かい、並び歩く。すると、ふと駆けてきた見慣れない男子に結城さんは声をかけられる。
「結城さん良かった。教室にいないからてっきり今日は帰ったものだと」
「あ~……例の件ですか」
結城さんはチラリと僕を見ると、どこかばつが悪そうにしている。
「當間君、悪いんだけど先に教室戻ってもらっていい?」
「え? うっ、うん……」
どうやら、この場に僕がいては都合が悪いらしい。気にならないといえば噓になるが、困らせてしまっても仕方がない。僕は一足先に教室へと向かった。
♢♢♢
「もうすぐ文化祭だね」
「え、ああ。そうだね」
教室に戻って再び勉強を教わる中、結城さんが唐突にその話題を振ってきた。
「うちのクラスは何かやるんだっけ?」
「確か、休憩所じゃなかったかな」
「休憩所……かぁ」
思い出した。たしか今日の
「でもさ、高校最後の文化祭なのに何もしないなんてちょっとやりきれないね」
文化祭における休憩所なんてのは、机やイスをある程度座りやすい位置に並び直せば完了だし、事前準備なんてのもない。青春とはおよそ対極に位置するほど面白くもなんともないが、受験で大変なのはみんな一緒だし、仕方ないと言えば仕方ない。
なにより僕みたいなコミュ症には、リア充との接触を避けられる願ってみない展開。だけど、そんなクラスの出し物に結城さんは少しだけ寂しそうだ。
「結城さんは何かしたかった?」
「う~ん、特にやりたいことがあるかと聞かれるとそうでもないんだけど……なんだろう。當間君と何かしてみたかったかな? ってのはあるかも」
「ちょ、ちょっと。また冗談ばっかり」
「うふっ♡」
いつものように結城さんにからかわれ、勉強時間が過ぎていく。見回りに来る教員も残っている生徒が結城さんだと気づくと「戸締りは忘れずにな」と声をかけ去っていった。なんでかんだで、時刻は既に21時近くとなっている。
「ねぇ、當間君」
「ん? 何?」
「さっきのことね、まんざら冗談でもないよ」
「えっ……」
「私ね、周りからは『孤高のクールビューティ』なんて言われてるけど、本当は一人ぼっちなだけ。そして、それを自分から打破していく気もない」
「そりゃ結城さんは高値の花だし、仕方ないよ」
「高嶺の花かぁ。聞こえはいいかもしれないけど、お高くとまってるだけって思わない? それに、交友関係は自分自身で広げるもんだし」
「それはそうかもしれないけど……僕だって人付き合いとか苦手だし。人それぞれ、できることやできないことがあってもいいんじゃないかな」
「そっかぁ……そうだね。ふふっ、當間君やっぱ優しいんだ」
「そ、そんなことないって」
「私ね、こうして當間君と過ごせる時間が素直に嬉しい。だからね……」
少し間が空いた後、結城さんが言う。
「當間君と文化祭で何かできたらもっと楽しいかな? なんて欲張りなこと思っちゃった」
「……結城さん」
「って、何言っちゃってるんだろう私。もう模擬店じゃなくて休憩所にしようって決まってるのに。あははは」
気持ちをごまかす様に、結城さんは勉強の指導へと戻る。僕もこれ以上かけてあげられる言葉が見つからず、本日の活動は終わりを迎えた。
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