第8話 進展 1

 翌朝。

 いつものように登校し、教室へと入る。クラスメイト達が談笑をする中、無言のまま自分の席へと座った。席についても誰も僕を気にする様子もなく、まさに空気と一体化したような感覚だ。

 あまり言いたくないのだが、僕には友達がいない。高校に入って、仲良くなったやつもいない。ただ、ひっそりと何事もないよう日々を送ってきただけのつまらない青春である。

 昨夜、結城さんが荒々あらあらしく座っていた机を見つめ、あれは夢だったのではないかという感覚に陥る。あんな衝撃的な出来事は、今まで生きてきた中で初めてであった。


(結城さんは、どんな様子なんだろう?)


 ふと気になり、彼女の席へと目をやる。自席でイヤフォンをつけ、本を読む姿は、周りには一切興味ないといわんばかりのクールさである。その姿は孤独とは違っており、孤高と呼ぶにふさわしい。それに比べ、僕はぼっちだ。

 彼女の言った『勉強を教えてあげる』という言葉が脳内でリピートされるが、一体どのタイミングでどう教わればいいのか……皆目見当かいもくけんとうがつかないまま、授業の合間や休み時間に、話しかけたり、かけられたりすることもなく時間は過ぎていった。


♢♢♢


 気がつけば本日の終業ベルがむなしく鳴り響いていた。


(はぁ……結局話しかけられなかったか)


 自分の意気地のなさに、頭を抱え、自席で落ち込む僕。すると……

 

「じゃあ當間君。今日も教室で待ってるね」


 ふと結城さんの声がした。どうやら、僕の席のところまで来ていた様子だ。

 

「えっ!?」


 僕は驚き、慌てて顔を上げる。結城さんはニコッと笑い、教室の出口へと向かって歩いていってしまった。


『ねぇ、結城さんがなんか當間に話しかけてたよ』


『孤高のクールビューティーが?』


『一体、どういう組み合わせなんだ?』


 教室中が一時、騒然そうぜんとなり、クラス全員の視線が僕へと向けられる。


(わわわわ!)


 こんな注目された経験はないため、その場の空気に耐えられず、そそくさと鞄を背負ってクラスから逃げるように出ていく僕。結城さんの影響力を改めて思い知らされた。


(少し早いけど、塾へ行こう)


 講義までだいぶ時間があるが、心臓がバクバクして落ち着かない。心を落ち着かせるためにも、自習室で問題集を解いていようと学校を後にした。

 

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