第10話 進展 3

 情けない姿をさらした僕であったが、どうにか自席にて落ち着きを取り戻す。


「ごめんね、ほんの少しからかうつもりだったの」


「大丈夫だよ。だいぶ落ち着いてきたから……」


「ふふ、でも當間君のあの顔。傑作だったなぁ~」


 結城さんが無邪気に笑う。なんだろう……この、苦さと甘さが一気に来たような感じ。まるで、カカオ70パーセントのチョコのようだ。


「あのね、僕は怖いの苦手なの。結城さんは、心臓に悪いよ」


「あら、私だってレディよ。怖いの苦手だもん」


「それでよく夜の学校にいられるよね」


「まぁまぁ。それよりも、早速始めよっか」


 切り替えるように、結城さんがそんな言葉を口にする。


「始める? 始めるって、何を?」


「べ・ん・きょ・う。昨日、教えてあげるって約束したでしょ」


「あっ、そっか。そういえば、そうだったね」


「二人きりの教室で何期待してたの?」


「べ、別に何も期待してないよ!」


「當間君のエッチ」


「ち、違うってば!!」 


 こうして結城さんにからかわれつつも、夜の教室で勉強を見てもらうことになった。


♢♢♢


 結城さんには、まず苦手な数学を見てもらうことになった。秀才タイプは自己理論が強いという先入観があったため、苦労するかもと覚悟はしていた。

 だが意外や意外。教え方は丁寧でわかりやすい。もしかすれば、塾の講義よりも理解できているかも。


「そろそろ良い時間だし、今日は切り上げようか」


「あ、そうだね」


 携帯で時間を確認すると、時刻は10時。集中していたので、時間の経過があっという間に感じられた。

 母にはさっき、講義室で復習して帰ると電話を入れたので、今日は怒られる心配もなさそうだ。


「ありがとう。すごくわかりやすかったよ」

 

「當間君、教えれば理解できてるじゃん。数学苦手って、嘘みたい」


「いや、本当だって。僕は結城さんみたいに頭良くないし、ダメ人間だよ」


 すると、少し神妙な面持ちとなる結城さん。


「當間君、そういう風に自分を卑下ひげしちゃダメ。私も當間君も能力は一緒だよ」


「で、でもさ、結城さんみたいに成績上位者じゃないし」


「私は、別に自分をすごいと思って欲しくない。問題は目の前の課題にいかに取り組み、いかに解決するかってこと。その考え方が身につけば、當間君もきっと変われるよ」


「そうかな?」


「うん、約束する」


 自信たっぷりに微笑む結城さん。夜だというのに、その笑顔はまぶしい気がした。


「まぁ、受験までの付き合いだし、少しずつ教えていくから安心して」


「あ、ありがとう」


 随分と結城さんが大人に感じられる。同い年なんだけどなぁ。

 でも、今はそんな結城さんと、これからの時間を共有できることが嬉しくてたまらない。


 よし、明日も勉強頑張ろう。

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