第12話 妹よ 2
「おかえり~♪ 長かったね、お説教」
部屋に戻ると、那波が僕のベッドに横になりながら、漫画を読んでいた。そんな妹を無視するように、僕は机に座り英単語帳をめくる。
「なによぉ、可愛い妹が
「余計なお世話だよ」
「ぶー」
機嫌の悪い僕。お互いに無言のまま、それぞれ目の前のことに集中する。
「那波さ、明日は学校に行くの?」
「いかなーい」
「だろうね」
そう淡々と答える那波。妹は僕とは違い、母の良い部分を受け継いでいる。容量も成績も良いのだが、周りがそれを快く思わないのか……小学校までいたはずの友達も、こいつが中学に上がる頃にはいなくなってしまっていた。それに天性の協調性のなさも相まってか、クラスで浮いているそうな。両親の努力もあってこれまではどうにか保健室登校をしていたが、最近ではそれも面倒とのことで行ってないらしい。
ちなみに、こいつは中学二年である。
「あにぃもさ、辛いんなら受験なんてやめちゃえば?」
「馬鹿。それじゃあ、将来の就職先はどうすんだよ」
「そんなのどうにかなるでしょ。時代は変わってきてるし、今に学歴なんて評価の対象じゃなくなるよ。それに知識さえあれば、考え方で稼げる手段なんていっぱいあるじゃない」
「まだまだ日本は学歴社会だ。今を頑張んなきゃお前もいつかきっと後悔するぞ」
「ふ~ん……じゃあさ!」
何かを思いついたように、那波は提案する。
「私の頑張ってるとこ見てよ!」
♢♢♢
「はーい、七つの波ちゃんねるの
那波の部屋に連れていかれた俺は、なぜかこいつのゲーム実況を見させられていた。
「今日はちょっとゲリラ配信になっちゃったけど、全国のお兄ちゃん♪ お姉ちゃん♪ 今日もよろしくね」
(なんじゃ、そのぶりっ子風なしゃべり方は……)
配信に声が入らぬよう、俺の発言は徹底的に禁じられている。
というのも、この妹、なんちゃらチューブという動画サイトでチャンネルアカウントを持っているらしい。
そもそもこの部屋にある恐るべき質の高いパソコンや高価な機材は娘に甘い母が全て用意したものだ。引きこもりでゲームばっかしている那波にどうにか一つでも特技を見つけたい母が試しに実況をやらせた結果、そこそこ人気が出てきているらしい。イラストも専門家に安くない金額で依頼し、ゴスロリ風の幼女でどこかこいつに似ていなくもない。
「じゃあ、今日は先日始めたバイオアクシデントの続きをやっていくよ♪」
手持ちのスマホでライブ中継を見ていると、次々とチャットが表示されては消えていく。どれもこれも『天使降臨』やら『待ってました。私の小悪魔』など、応援メッセージが流れていく。
「ひゃあああ! そこでの脅かしはずるい~」
ったく、俺の前ではそんな高い声出さないくせに……なんてひがみが出てくる。みんなこの声に騙されているんだろうな、きっと。
「怖かったねぇ~。でもまだまだ続きやっていくよー!」
……詳しくはわからないけど、きっと、こいつもそれなりに頑張っているんだなぁ。場が静まらないようにたくさん話題だして、しゃべって。先ほどの言葉を反省するとともに、自分がひどくつまらない奴に思えていたたまれない。
僕はそっと部屋を出て行き、自室で少し復習をして就寝した。
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