第13話 図書室

「あれ? いない?」


 図書室へと入った僕はあたりを見回すが、結城さんらしき女性の姿は見当たらなかった。というのも、時をさかのぼること数時間前……。

 

「放課後、時間ある?」


「え……」


 休み時間、急に僕の席へと来た結城さんに戸惑う。一体、どうしたというのだ?


「じゅ、塾に行くまでなら……」


 ドキドキしながら答える。これって、もしかして、どこかに行こうというお誘いではないのか? 塾、さぼろっかな?


「じゃあ、放課後もちょっと勉強見てあげるよ」


「……」


 ですよねぇ。というわけで、放課後、図書室で勉強会をするに至ったのだ。

 カウンターにはいかにも図書委員って感じの眼鏡めがねをかけた女の子がおり、室内には生徒が数名ほど席に座っているだけだ。室内を見回してみるのが、どの席にも結城さんの姿が確認できない。


(いや、あれは)


 明らかに不自然な空席が一つあることに気づく。席の上に教科書やら、筆箱ふでばこやらが置かれている。筆箱のがらを見る限り、女の子の物で間違いない。結城さんだとすれば、席を外している最中だろうか? 確信のないまま、空席の場所へと近づいていく。すると……。


「わぁっ!」


(!?)


『ゴン!!』


 驚くこと束の間、にぶい音が室内に響き渡る。席の下から僕をおどかそうと結城さんが勢いよく出てきたのだが、勢い余ってテーブルに頭を打ちつけたようだ。


「つぅ~~~~~……」


 頭を押さえ、その場でもだえている。


「あ、あの結城さん、大丈夫?」


「くぅぅぅ、天井の位置関係を把握してなかったぁぁぁ」


「たんこぶできてない? 保健室行く?」


「くふっ、たんこぶって……くふふ」


 頭を打っておかしくなったのか……結城さんは痛みに悶えながら、なんか笑っている。


(大丈夫かな? この人)


 もしかして普段のイメージに反して残念系美少女なのか、結城さん。


「はぁはぁ、當間君……驚いた?」


 涙目で結城さんが問いかけてくる。


「うん」


「じゃあ、ウケた?」


「うん」


「その様子だと、両方違うな? くぅ」


 そういうと結城さんは、首をれた。なぜ、こんな体を張って僕へのリアクションを取りに来たのか。理解に苦しむ。


「あの……」


 いつの間にか僕らのそばに図書委員の女の子が立っていた。


「図書室では静かにしてくれませんか」


 周りを見回すと、図書室にいる生徒みんながこっちを見てる。ここが図書室であるということをすっかり忘れていた。


「ああっ……すいません」


 謝る僕。気まずい雰囲気の中、結城さんを席へと座るよう促す。


「変なことしてると、イメージ崩れちゃうよ?」


「だって、當間君が遅いんだもん」


 痛みがだいぶやわらいだのか……ぷくっーとほほふくらませて、結城さんがそっぽを向く。


「遅れたのはごめん。心の準備がなかなかできなくて」


「そのおかげで私の脳天はかなりのダメージを負ったんだけどぉ?」


「ほ、本当にごめん」


 僕は顔の前で両手を合わせ、必死に謝る。


「許してほしい?」


「許してください。成績優秀な結城さんに、勉強見てもらえるまたとないチャンスだし」


「その代わり条件一つ!」


「え? 条件?」


「まぁ、大して難しいものじゃないから安心して」


「わ、わかりました」


 僕の返答に満足したのか、結城さんがニタニタ顔になる。いささか、はやまったかもしれない。結城さんに一体何を要求されるのか……少し怖い。


「ね、ねぇ、結城さん。その条件ってなに?」


「まぁまぁ、それはあとでゆっくりとね」


「……(汗)」


「それよりもしょうもないことでだいぶタイムロスしたし、早く勉強しよ?」


「うん……」


 こうして、想像していたシチュエーションとは、あまりにもかけ離れすぎた二人っきりの勉強会。ロマンチックって、思ったより難しいものなんだなぁ。

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