第14話 勉強会

 結城さんのとんでもない大ボケからスタートした勉強会。一瞬、図書室が妙な空気に包まれたものの……いざ始まってみれば、割と普通に進んでいく。


「當間君。ここ、間違えてるよ。ついでにここも」


「あ……」


 あちゃ~……今日も苦手な数学から教えてもらっているのだが、相変わらずのポンコツ具合である。慌てて消しゴムで数式を消し、再度、計算をやり直していく。


「當間君は焦って問題を解くくせがあるね」


「ご、ごめん」


「謝んないの。間違うことは悪いことじゃないよ」


「そうだよね、はは」 


 塾では問題を間違えてばかりなので、すっかりあやまりぐせがついてしまっているようだ。


「数学はね、想像力と推理力を使うの。少し先の事を考える癖が身につけば、数字が一体何を導き出そうとしているのか……おのずと犯人を暴けるってもんよ」


「犯人って、なんだか名探偵コ〇ンみたい」


「おっ! ナイス推理! 真実はいつも常に必ず一つ!」


「あはは……」


 若干、決め言葉のフレーズが違うような気もするけど。


「さて、冗談はこの辺にして。今度は焦らないで、ゆっくり解いてみて」


「は、はい!」


 結城さんの顔が近づいてくる。その吐息が聞こえるほどの距離に、胸のドキドキは止まることを知らなかった。こうして、本日の至福の時間……じゃなくて、勉強時間は過ぎていった。


♢♢♢


「だから……ね。勉強力ってのは、要はマネジメントの仕方だと思うの。偏差値を上げたいのなら、国語、数学に的を絞って勉強することが先決。残りの科目は暗記で大体乗り切れるからね」


「な、なるほどです」


 合間の時間に、それとなく勉強のコツなんてものを聞いたのが間違いだった。結城さんが人差し指をたてたポージングをし、力説が止まらない。しかし、そこは学年成績一位である結城さん……その、ありがたいお言葉を聞きこぼさないよう、ノートにメモしていく。


「あの、そろそろ閉館の時間なんですけど」


 不意に図書委員の女の子が声をかけてきた。携帯電話で時刻を確認すると、既に18時を過ぎている。


「あっ、もうこんな時間」


 図書室には、その子意外にもう誰もいない。熱中するあまり、塾に行く時間も忘れ、勉強をしていたようだ。


「僕たちも帰ろうか」


「え~、これからが良いところなのになぁ」


 解説し足りないと、不満げな顔の結城さんと共に、図書室を出ていく。薄暗くなった校舎の廊下を二人で歩きながら、尋ねてみた。


「結城さん、このまま教室に残るの?」


「そのつもりだけど」


「一人で危なくない?」


「何をいまさら、當間君ったらや~ねぇ。私のテリトリーになりつつある教室だよ? むしろ安全地帯だよ」


「でも幽霊とか?」


「またそれかぁ。会えるなら会ってみたいけど~♪」


 そんなタフ発言に、結城さんは本当にすごい人だなと感心する。


「それよりも! 塾が終わったら、まっすぐ学校に来ること! いい?」


「わかってるよ」


「勉強の続き、見てあげるからね。それと……」


「まだなにか?」


「やっぱいい。あとで話す」


 気のせいだろうか? お茶を濁した結城さんは、いつもと違って、少しだけ照れているように感じた。

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