第4話 出会い 4

「ごめん、ごめん。冗談だから、気にしないで」


 なんだか、いつもの結城さんと違って、今日は随分と話しやすい気がする。僕は、思い切って疑問だったことを聞いてみることにした。


「そんなことよりも結城さん。聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」


「何? 私のスリーサイズ?」


「え!?」


  すっ、スリーサイズって……まるで予想だにしない、ありがたい情報。僕は大きくつばを飲み込む。


「いいの?」


「當間君のエッチ」


「だだだ! だって!」


「ウソウソ。耳まで真っ赤にしちゃって~」


 結城さんの顔はすっかりイタズラ顔だ。こんなお茶目な一面もあるんだなぁと思う反面、ちょっと戸惑う。


「そうじゃなくて……どうして、こんな時間に学校にいるの?」


「あー。やっぱ、そこ気になるよね」


 いたずらな笑みは消え、少し真剣な顔つきになる結城さん。その表情はどこか寂しそうだ。聞いちゃまずかったかな?


「ご、ごめん。嫌なら、いいんだ」


 どうやら、他人の僕が簡単に踏み込んではいけない領域の様な気がした。


「ありがとう。優しいね、當間君は」


「そんなことはないよ。誰だって、言いたくないことはあるし」


「私からも一つ聞いていいかな?」


「何?」


「どうして、當間君はわざわざ学校まで参考書取りに来たの?」


 僕からしても、それは返答に困る質問であった。だけど、変に隠してもより理由が変になるだけだ。僕は正直に話した。


「その、結城さんと話がしてみたくて。僕って、何やってもダメだし、そんな僕に結城さんが電話くれたことが嬉しくて。たぶん、今日話さなかったら、一生話す機会なんてなかったと思ったからさ」


「へぇ~、私とお話がしたかったんだ。いいよ、なに話そうか?」


「いや、そう思ってたんだけど……今日は一旦帰らない?」


「どうして? 何か不都合でも?」


「いやさ、夜の学校って怖いじゃん。幽霊とか出てくるかもしれないし」


「は……?」


 あれれ、先ほどまでのイタズラ顔が消え、表情が固まる結城さん。何か変な事でも言ったのだろうか。


「あっ、あはははは」


 結城さんはなぜか大声で笑った。僕は状況が理解出来ず、呆気あっけにとられる。


「何かおかしかった?」


「いや、ゴメンね。幽霊、信じてるんだ」


 笑い涙をぬぐいながら、結城さんが答えた。


「い、いや、そこは大事だよ! 幽霊は怖いんだ! おどかすだけじゃなくて、襲ってくる霊だっているんだから」


「ふふ、そうだね。それは怖いね」


 彼女の笑顔にドンドン胸の鼓動こどうが強くなる。なんて反則級に可愛いんだ。


「當間君って面白いね」


 そういうと彼女は座っていた僕の机から「よっ!」というかけ声と共に立ち上がる。


「當間君を怖がらせても悪いし、一緒に帰りますか。よく考えれば、その途中で色々とお話できるだろうし」


「へ? 一緒に?」


「うん、勿論。當間君、学校の戸締りできる?」


「できないです」


「よし、じゃあ、帰ろっか」


 どういう奇跡なのか。僕は手の届かないであろう、高嶺の花と帰宅を共にすることとなった。

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