第5話 帰宅 1

 教室を出た後、暗い校舎内を僕らは並んで歩く。


「かーごめー、かごめー♪ かーごのなーかのとーりーはー♪」


 この不気味な雰囲気にマッチングしている選曲を、ピクニックでもあるかのように歌う結城さん。しかも声高々たかだかと。


「あのさ……やめてくんない? それ?」


「怖いの?」


「いや、そんなの歌われたら誰でも怖いでしょ」


「ビビりなんだから、もう~」


「呼び寄せるかもしれないって、心配してるんだよ。怖い話とか、怖い歌に霊は寄って来るっていうし」


「その時は守ってね♪」


「こんな時だけ頼るんだから」


 隣の席の奴とだってまともに会話できない僕だが、彼女にはスラスラと言葉が出てくる。不思議な感覚であった。彼女との会話は他愛がなくとも嬉しかった。

 そうこうしている内に、僕らは校舎出口へ到着したのだった。


「あっ、ちょっと待ってね」


 すると、結城さんは制服の胸ポケットからなにやらカードらしきものを取り出し、近くの機械にそれをかざす。『ピッ』という音と共に、警報音のようなものが鳴りだした。


「何したの?」


「ほれ、當間君や。はよ出るぞい」


 どっかの長老みたいな口調。


「一分以内に出ないと警備員がくるぞい。はよ、はよ」


「わ、わかったよ」


 僕らはそそくさと外へと出た。


「よし、あとは鍵をかければOK。そんで、これが『戸締り用のカギ』~!」


 青いネコ型ロボットのように一人芝居をする結城さん。またも、ある疑問が浮かんだので、そんな彼女を無視するかのように尋ねる。


「結城さん、あのさ」


「わかってますって、みなまで聞くな」


「じゃあ、答えてよ」


「私のスリーサイズは……えっとね」


「違うよ!!」


「やっぱダメ~! タダじゃ、教えられな~い」


 はぁ……め息とともに僕はこうべをたれた。


「あはは、ごめん、ごめん。當間君ってからかうと面白いのが発覚したから、ついつい」


「僕が聞きたいのはね……なんで、そんなもん持ってるの? ってこと。見た感じ、あの機械って警備システムっぽかったし」


「このシステムのカード? 先生が持っててもいいって。最近は私の方が帰るの遅いし」


「でも、学校側にとって大事な物じゃないの? それ」


「ま、優等生権限ってやつかな。ずっと学年1位の成績取ってると、けっこうわがままがきくの」


「なんか……それはそれで問題あるような気がするけど」


「細かいことは気にしない、気にしない♪」


 こうして、僕らは夜の学校を後にする。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る