第3話 出会い 3

(ヒィィィィ!)


 僕は心で悲鳴を上げる。夜の校舎は異様で、本当に幽霊でも出てきそうだ。普通に生きていれば夜の学校に入るなんて、人生に一度あるかないかだというのに。

 今は無人セキュリティの時代だし、宿直の先生なんてのもいない。仮に霊障などが降りかかった場合は、一人で対処しなければならない。


(どうか幽霊よ、現れないでくれ)


 こうも暗い廊下だと、歩く時間が妙に長く感じる。本当に結城さんは、こんな時間に学校にいるのだろうか? 僕は騙されてないだろうか?

 祈るような気持ちで、自教室がある階に到着すると、遠くに明かりが見える。教室に電灯がついている様子だ。


(た、助かった~)


 明かりがこんな嬉しいなんて。僕は安堵あんどし、足早に教室の前まで歩く。ドアを少しだけ開け、隙間から中を確認すると……そこには、青空のブルーを薄くしたようなさらっとしたロングヘアーに、少しふっくらとしたボディの女の子、結城亜澄美さんがいた。夏目雅子も真っ青な美しい容姿である。

 彼女は腰を机の上に下ろし、足は椅子いすの方へと置いて座っている。そのスタイルは優等生というよりも不良に近い。っていうか、そこ僕の席だし。


(あっ、参考書!)


 結城さんの目線の先には僕の参考書があり、彼女はそれを眺めている。僕は教室のドアを大きく開けた。


「あの、結城ゆうきさん?」


「あら、當間とうま君。早かったんだね」


 そう言うと結城さんはパタンと参考書を閉じ、僕のもとへ歩いてくる。


「はい、これ」


 そして、たった今まで目を通していたであろう僕の参考書を手渡す。


「ありがとう」


「いえいえ」


 僕はお礼を述べ、それを受け取ると同時に抱えていた疑問を投げかける。


「あのさ……これ、どうして僕の参考書だってわかったの?」


「さぁ、どうしてでしょう?」


 結城さんはイタズラ顔をして、うしろを向き、さっきまで座っていた僕の席へと歩いていく。


「ね、ねぇ、教えてよ。気になるじゃんか」


 僕は彼女のあとを追う。


「うふふ、じゃあ……参考書の中を御覧ごらんなさい」


(えっ?)


 僕は今しがた彼女から受け取った参考書をめくる。すると、塾への特別講義の申込用紙が出てきた。氏名はもちろんのこと、しっかり携帯の番号や住所まで記入済みである。


「あっ、これ……だから僕の携帯番号わかったんだ」


「机の上に置き忘れてたよ。個人情報、ダダれを恐れないなんて、いい度胸してるよね~」


 皮肉を込めた言葉を言い放ち、さっきと同じ不良スタイルで僕の机に座る。


「あの、そこ……僕の席なんだけど」


「別にいいじゃない。それともなぁーに? 参考書そのままで個人情報バラされても良かったの?」


 うっ……結城さんのイタズラな言葉に何も言えず、僕は黙り込んだ。

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