第27話 文化祭はどうするの? その2

「あっ……」


 ある現場を目撃してしまった僕は、思わず廊下の壁に身をひそめた。

 購買で弁当を買って教室へ戻る途中……結城さんが以前声をかけてきたあの男となにやら話していた。


(……なにを話しているのだろう?)


 結城さんは美人だ。他者を寄せ付けないオーラをまといつつ、玉砕してもなお好意を寄せてくる男子がいたってなんらおかしくない。結城さんの方はいささか困っている様子だったが、割って入る度胸もなく、僕はそっとその場から引き返した。


♢♢♢


 行く当てもなく彷徨さまよい、なんとなく屋上へ来て空を見上げる。お昼時間は屋上が解放されており、今日はわずらわしいリア充たちの姿も見受けられない。物思いにふけるには最適だ。 


「はぁ……」


 思わずため息が漏れる。そりゃあ最近少し距離が縮まってきたとはいえ、結城さんは僕の彼女というわけではない。誰がアプローチしてきたところでそれを遮る術はないのだ。

 でも、なんだかやりきれない。ギュッと胸が締め付けられる感覚に今にも押しつぶされそうだ。


「……思えば、僕って何もしてないんだよなぁ」


 参考書を取りに行ったあの日から、行動の起点はすべて結城さんだった。勉強会、初デート、受け身のままで与えてもらってばっか……積極的な行動なんかしてこなかった。なのに、意中の人が他の人と話してるからと勝手に傷ついて、引き下がり、何を被害者面してんだか。


『當間君と過ごせるのが素直に嬉しい』


 昨日、結城さんがかけてくれた言葉。その言葉にきっと嘘はなかったはずだ。


(どうにか彼女に報いたい。そして、この気持ちを伝えることが出来たら……)


 ボーっと屋上から見下ろす校舎の陰、そこに隠れるように置かれている未完成の文化祭アーチがふと目に入った。


『當間君と文化祭で何かできたらもっと楽しいかな?』


 そういえばそんなことも言ってたっけ。もし、仮にもしだが、この文化祭で僕と何かしらの思い出を作ることができれば、結城さんは少しは喜んでくれるかな。


「そうだ、そうだよ。このままでいいはずないよな」


 高校三年は今しかない。今この時を何もせずかっこ悪いままじゃ、一生振りむいてもらえないかもしれない。しんみりした胸の内からなんだか熱いものがこみ上げてくる。

 

「よし、いっちょやってやろうじゃないか!」


 やる気になった僕はある決意をしたのであった。

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