第20話 コズミックエンジェル 1

 重ねること数回……気がつけば、想定している金額よりもはるかにオーバーした金額をゲーム機に投入していた。


(こ、こんなはずじゃ……)


 目論んでいた作戦はものの見事に不発。うさ丸のしぶとさに、焦りをあらわわにする僕であった。もし、これで取れなければ……財布の中身はゼロになってしまう。


「これでラスト! 頼む!」


 必死の願いと共に投入した最後の100円硬貨……汗ばむ手でクレーンの位置を定め、勝負のボタン。程なくして、クレーンはうさ丸を持ち上げた。順調かに思えた運搬だった……が、それを拒むかのようにうさ丸が微動した。


(うわ、もうダメか!?)


 諦めかけた、その時! 天の助けか、念力か。一度は体制を崩しかけたうさ丸に対し、アームがしぶとくらいつく。どうやら、これまで続けてきたアーム強化作業が効いているようだ。


「當間君! いけるよ、これ!」


「そ、そうだね!」


 僕の連敗続きに、結城さんの口数も減っていたが、最大のチャンスにパァっと表情が明るくなる。


「頼む、うさ丸! もう終わってくれ!」


「いけー! 運搬ー!」


 僕たちの願いは頂点に達し、気がつけば二人で人目もはばからず、応援コールをとなえていた。


「「う・ん・ぱん♪ う・ん・ぱん♪」」


 だが、そんな刹那……残念ながらクレーンは僅差きんさのところでぬいぐるみを手放してしまったのだ。


「「……」」


 あまりのことに二人とも言葉を失くした。せめて、あと1秒……あと1秒保っていてくれれば。


「あ、あははは……残念だったね」


 結城さんが優しく言葉をかけてくれたが、のどに何かが詰まったように言葉が出てこない。


「う、ううっ」


「ちょっと、當間君? 泣いてる?」


 目から込みあげたものが止めどなくあふれ出る。情けない。結城さんにプレゼントの一つもできないなんて……結局、本日のカッコ悪さに、拍車はくしゃをかけただけじゃないか。


「ほら、気にしないで? また、今度リベンジしよ?」


 このままここに突っ立ていても他のお客さんに迷惑だ。悔しい気持ちに見切りをつけ、結城さんに促されるまま、僕はその場を後にしようとした。


「哀れだな……銀河シーサーよ」


 不意に聞き覚えのある声がした……この声、なんだか、すごく嫌な予感がする。僕は恐る恐る声の方へ振り返った。


「コズミックエンジェル、参上!」


 そこには黒いゴスロリ風の衣装に身を包み、左目に眼帯がんたいをかけた少女が決めポーズで立っていた。


「な、ななみぃ!?」


 そう、そいつは見紛みまごうことのない……妹の那波であったのだ。


「那波じゃない! この格好しているときはコズミックエンジェル! 身元がバレる!」


「それよりも、どうしてここに?」


「ふん、ずいぶんだな。ここは私の庭だぞ? 居たところで何らおかしくはない」


 このキザったらしい言い回しはどうにかならんのか。そういうキャラだから仕方ないのだろうけどさ。相変わらず、痛いやつだなぁと僕は溜息をついた。

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