第19話 サードステージ ~ゲーセン~

 昼食を済ませ、僕は結城さんをモール内のゲームコーナーへと誘った。


 遅刻ギリギリの上に映画やお店の選定など、エスコートするどころか、リードされっぱなし……このままでは面目丸つぶれだ。人生初のデートだし、少しでも彼女を喜ばせてあげたい。となると、残された手段はプレゼント作戦しかない。『女性は贈り物が好きと相場で決まっている』とどこかのお偉いさんも言っていたからね。


(でも、服とかアクセサリーは高そうだよなぁ……)


 思いついたのはいいものの、高校生男子が買える物なんてたかが知れている。早くも頓挫とんざしそうなプレゼント作戦に悩む中、ある秘策を思いつく。そう、僕には『アレ』があったのだ。

 というわけで、ゲームコーナーを訪れるに至ったのである。


「すごいね、いろんなのがある!」


 ゲームコーナーには最新モデルのクレーンゲームや景品ゲットの機器が並んでおり、結城さんはそれを興味津々きょうみしんしんに眺めていた。


「もしかしてゲーセンとか来たことない?」


「まぁね。こういう遊びの場って、なかなか縁がなかったから」


 少しだけ寂しそうな表情を浮かべる結城さん。彼女の家庭事情はよくわからないが、学年一位をとるほどの優等生。生活面で、普通の女の子より我慢することは多かったのかもしれない。

 最初からそのつもりだったが、いやおうでも、何かをプレゼントせねばとふるい立つ。


「結城さん、何か欲しい景品とかない? 僕が取ってあげるよ」


「え? 當間君、取れるの?」


「任せてくださいよ」


 僕はドンと胸を叩く。


「でも、これって難しいんじゃ?」


「こう見えても、けっこう自信あるんだ」


「へぇ、當間君にしては珍しい自信」


 実をいうとクレーンゲームは得意なのだ。

 妹の那波ななみの影響なのだが……彼女、数々のゲーセンをあらし回っているアウトローなのである。中でもクレーンゲームの攻略は神レベルであり、数々の景品をさらっていった過去を持つ。(後にフリマアプリで転売)

 動画撮影などの名目で、僕は幾度かそれに付き合わされ、その技を間近で見てきた。腕は鍛えられまくっているはず。あいつほど店員泣かせではないが、結城さんの為、景品はゲットさせていただきたい。


「じゃあ、せっかくのご厚意こういだし……これ!」


 結城さんが指さしたものは、うまくハサミを使って糸を切り、景品をゲットするゲーム機だ。これは運営側が仕掛けたブービートラップにも近い機器であり、絶対に取らす気のないやつだ。


「結城さん、ノンノン。これは景品ゲット率が極めて難しいやつなんだよ」


「そうなの?」


 妹の受け売りだが、むざむざ難易度の高いやつに金をつぎ込む気はない。


「確実を求めるのなら、クレーンゲーム関係を推奨すいしょうします」


「すごーい。なんか、初めて當間君が頼もしく見えてきた♪」


 人間、何かしら得意なことの一つや二つはあるもんである。今は、それが誇らしい。こうして、しばし、二人してクレーンゲームを景品を見て回る。


「あっ、これなんかいいんじゃない♡」


 結城さんが選んだクレーンゲーム機は、『うさ丸コレクション』というもので、大きなウサギのぬいぐるみが景品である。重量がある分、これもまたゲット難易度は高めだが、僕は退かない。


「オーケー」


 まず小手調べに100円硬貨こうかを投入し、様子を見た。無情にも景品は持ち上がる事すらせず、むなしく定位置へと帰ってくる。


「あちゃ~、難しいね。これ」


「大丈夫、想定の範囲内だよ」


 少し残念そうな結城さんを元気づけ、僕は那波がいつもやっていることを実践して見せた。

 まず店員に話しかけ、既に2000円使ったと嘘をつく。少し怪訝けげんそうな表情をされるが、女の子の手前だし、恥をかかせないようチャンスを頂きたいと懇願こんがんして、ぬいぐるみの位置を取りやすい位置にズラしてもらう。そこで財布から500円硬貨を取り出し、投入した。

 500円だと、5ゲームにプラスして1ゲームおまけがつくので、合計6回。重量のある景品は、頭部にうまくクレーンを絡ませ、ゲットするのが鉄則だが、問題はアームの強さだ。アームは、金銭を使うことでしか強化されないと那波が言っていたので、迂闊うかつなプレイをせぬよう、最初の500円はアーム強化のための準備かつ、じりじり動かすことに徹する。

 そして、次の6プレイで一気にたたみかけるのだ!

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