第22話 コズミックエンジェル 3

 僕は両替機にて、千円札を百円硬貨へと変えてきた。クレーンの見張り役は結城さんに頼んでいたので、他の誰かに横取りプレイはされていないようだ。


「ねぇ、まだ続けるの?」


「ここまできたら最後までやらせてほしい。意地でも結城さんにプレゼントがしたいんだ」


「當間君って、意外と負けず嫌いなのね?」


「勉強面ではそうでもないけどね」


「いや、そこで発揮してほしいんだけどなぁ~」


「ははは……」


 苦笑いをしながら、ロスタイムばりの延長戦に執念を燃やす僕。那波の先ほどのアドバイスが脳内でリピートする。

 ぬいぐるみを持ち上げるのではなく、押す。


「よし!」


 クレーンの配置を行い、気合と共に勝負をかける。


「頼む、今度こそ」


 すると、これまでの死闘をあざ笑うかのように……なんともあっさり、鉄壁の牙城がじょうは崩れ落ちたのだった。


「やった……」


 やった、やった! ついにうさ丸をゲットしてやったぞ! 

 ちょっと拍子抜けだが、それでも総大将の首を打ち取ってやった。僕は景品口より取り出したうさ丸を掲げる。


「やったよ、ゆうきさーん!」


「もう、恥ずかしいったら……目がマジだよ」


「あ、ごめん」


「それよりも、それ……」


 結城さんが少し遠慮しがちに、僕の持つ特大なサイズのうさ丸を指差す。


「あ、色々あったけど……どうぞ。お納めください」


「ふふ、ほんと。色々あったけど、ありがと♪」


 そういうと、結城さんはとても嬉しそうにうさ丸を抱きしめた。


「どうやら、うまくいったようだな。あにぃ」


 ほんわかしたムードの中、景品の袋を抱えた那波がいつの間にか戻って来ていた。


「よう、那波。おかげで、900円残せたよ。ありがとう」


 僕は借りていたお金を返す。


「ふん、私にあまり恥をかかすなよ」


「那波には言われたくない」


 憎まれ口をたたきながらも、お互いに不敵な笑みを浮かべる。


「どれ、私も一度チャレンジしてみるか」


「え? でも、お前させてもらえるの? そんなにお土産ももらっておいて」


「たぶんいけると思う」


 那波は店員を呼ぶと、ぬいぐるみを補充ほじゅうするよう言いつけた。店員は仕方なしとばかりに、茶色い肌をしたうさ丸2号をセッティングする。ただし、一回きりのチャレンジという条件付きらしい。


「よーし、いいか? 私の華麗なるテクニックを見ておけよ」


 僕とうさ丸を抱えたまんまの結城さんは、まじまじとクレーンの行く末を見つめる。那波が操作したクレーンは一見、まったく的外れなところ降下した様に見えるが。


「もらったな」


(まさか……いくのか!? たった一回で?)


 右斜め頭部を狙ったクレーン……持ち上げることを度外視し、クレーンの力で大幅に動かされたうさ丸は、まるで逃げ出すがごとく取り出し口へと落ちていった。そしてゲーム機が祝福の音楽を流す。


「見たか! あにぃ! 我がクレーン技術を!」


「うそ~ん……」


 那波はぬいぐるみの首根っこを捕まえ、自慢気に僕らに見せびらかす。


「すごーい妹ちゃん!」


「はっはっは、もっと言え! もっと言え! 我がクレーン技術……英語で言ったらエレキトリ・カル・パレード!」


 その英語は違うと思うんだけどなぁ。なにをぬかしているのか……指摘しようかどうか迷っていると、ご機嫌な那波は僕にうさ丸の特大ぬいぐるみを突き付けてくる。


「ほれ、あにぃ。やるぞい」


「え?」


「私は取れれば満足だ。頑張ったあにぃへの褒美だ」


 僕は那波からうさ丸2号を受け取ると、すかさず結城さんに渡す。


「はい、結城さん」


「わぁ♪ でも、いいの?」


「僕は男だし、結城さんにあげる」


「わーい、双子ちゃんになったね~♪」


「って、コラー! 私を無視して勝手にあげるなー!」


 二人で勝手にやり取りを進める俺たちに、那波がブチギレする。


「妹ちゃんもありがと♪ これ、大切にするね」


「うっ」


 お礼を言われると、照れたのか……那波は顔を真っ赤にして黙り込む。


「うううっ、一体なんなのだ……この女は」


 どうにかこうにか、こうして辛く厳しいプレゼント作戦は無事終了したのであった。

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