第23話 妙なトライアングル 1

 ゲームコーナーを後にした僕たちは、一旦休憩も兼ね、モール内のコーヒーショップへと入る。


「まだ怒ってるの?」


「ふん」


 僕の言葉に、那波ななみはブスっとそっぽを向く。


「おまたせ~♪」


 少しして、オーダーと会計を終えた結城さんが三人分の飲み物を持って席へと戻ってくる。


「妹ちゃんはキャラメル・フラペチーノで良かった?」


「う、うん……」


「當間君は私と同じドリップね」


「ありがとう。でも、お代は……」


「いいよ。當間君も頑張ってくれたし、お礼もかねて、妹ちゃんの分もおごらせて」


「悪いよ」


「いいから、いいから♪」


 那波は相変わらず不機嫌そうにフラペチーノをすすっている。それぞれがのどうるおしながら、テーブルを囲む三人と二匹(うさ丸のぬいぐるみ)だったが……。


(う~ん、気まずい)


 さっきから会話がない。どう話を切り出せばいいものか……悩んだ末、とりあえずジャブ程度に結城さんとの仲を話すことにした。


「那波……実はさ、結城さんにはいつも勉強を教えてもらってるんだ。兄ちゃんアレだろ? 成績悪いだろ? それでさ」


「それで? どうして、勉強教えてくれる人とお出かけするのだ?」


「それは、その、えっと……」


「あにぃ、朝、私の付き合っての申し出を断ったよな?」


「あれ? そうだっけ?」


「そうだ!!」


 そういえば、今朝、那波がなんか言ってたような気がするが……一緒に出かけてほしかったのか。遅刻の焦りと、デートの緊張からすっかり頭に入ってなかった。


「それで怒ってたのか」


「あにぃがそんなひどい男とは思わなかった。塾ならまだしも、私よりよその女を優先するなんて」


「それは悪かったよ」


 終わりの見えない兄妹喧嘩……すると、ふいに結城さんが助け舟を出してくれる。


「妹ちゃん、そんなに怒らないで。當間君ね、いつも勉強ばっかだから……たまには気分転換にでもと思って、私が無理に誘ったの」


「気分転換だったら、別にお前とじゃなくてもいいだろう」


「ごめんね、私が當間君とお出かけしたいってのもあったから」


「な!? そんな馬鹿なことがあるか。大体、あにぃが女とデートなんかできるもんか!」


「あのなぁ、那波。あんまり兄ちゃんを馬鹿にしないでくれよ」


「実際、あにぃは馬鹿だ!!」


 那波が声を荒げる。


「いい加減、冷静になれ! こんな綺麗な女が近づいてくるなど……あからさまに怪しいだろう。からかい半分に決まっている」


「からかい半分……なんかじゃないよ」


「なんだと?」


「當間君は私が高校に入った3年間で初めて友達になれた人。だから、決していい加減な気持ちじゃないよ。妹ちゃんに信用はないかもだけど、そこだけは信じてほしい」


 いつになく結城さんの表情が真剣なことに驚く。いつもは何かにつけて僕をだまそうとするけど、今の言葉にいつわりはないような……そんな気がした。


「那波……決して結城さんは悪い人じゃないよ。保証する。兄ちゃんの大事な友達だ」


 那波は押し黙ったまま、しばらく経った後……。

 

「わかったよ。よくわかんないけど、なんとなくわかった」


 そう口を開く。本当に理解してんのかな? こいつは。


「じゃあ、私のこと信じてくれるの?」


「ただし、あにぃに変な真似したら許さないからな」


「うん♪ ありがとう」


 ぶっきらぼうな態度だが、那波なりに結城さんへ理解を示してくれたようだ。握手する二人を眺めながら、とりあえず一安心といったところか。


「よし、じゃあこれで仲良しになったね」


「そうは言ってない」


「ところで、妹ちゃんに聞きたいことがあるんだけど?」


「無視するな!」


「うふ、可愛い♪」


 やっぱり、どこか噛み合ってない結城さんと那波であった。

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