天使からCall Me

若狭兎

コールミー(呼び出し)

第1話 出会い 1

 當間義孝とうまよしたか鬱蒼うっそうとした気分であった。

 今日の塾で返ってきた、模試の結果のせいだ。


『C判定』


 その文字が頭から離れない。夏休みも終わり、季節は秋へと変わりはじめている。志望校へ受かるための勉強にも、追い込みがかかりつつあるというのに、合格の可能性はいまだ50%。一か八か……半々の賭けだ。


「はぁ」


 塾からの家路いえじの途中、ふと空を見上げ、同時にため息が漏れた。空はすっかり暗くなっている。

 ゴールへの道のりはまだまだ先。例えるならば、ガンダーラにありがたい経典を取りに行く気分だ。

 

(いけない! こんな気持ちを引きずっていては、明日の勉強に支障をきたすぞ)


 気分転換でもしようと、少し遠回りして帰ることにした。あてもなく歩いていると、気がつけば神社の近くに来ていた。


(成績祈願でもするかな? でも、時間的に遅すぎるか)


 夜の神社はお世辞せじにも良いとはいえない。というかむしろ悪いだろ。幽霊でも出てきそうな雰囲気である。ブルブルッと身震いした僕は、近くの自動販売機の明かりに吸い込まれるように導かれた。

 一本の缶ジュースを買い、ふたを開ける。飲んだ瞬間の甘ったるい味が、少しだけ模試のにがい結果を緩和かんわしてくれたような気がした。すると……。


『ジリリリーン』


「おわっ!」


 不意に携帯のスマホが鳴った。着信に気づきやすいように、着信音は古い固定電話の音にしている。いつもの事ながら、この音は心臓にあまり良くないな……などと思う。

 おそらくだが、母がいつ帰宅するのかと連絡してきたのだろう。あんまり遅くなって親に心配をかけるわけにもいかないし、電話に出るか。画面を確認してみると……。


「あれ? 知らない番号からだ」


 予想に反し、着信画面には知らない番号が表示されている。いつもなら知らない番号は通話に出ないか、ネットで番号を調べ、必要ならこちらからかけ直したりする。だが、このとき僕は通話ボタンを迷うことなく押した。誰でもいいからとりあえず話をすれば、少しでも気がまぎれそうな気がしたからだ。


「もしもし?」


「もしもし、當間君ですか?」


「そうだけど、どちら様?」


「あっ、ごめんね。私、同じクラスの結城亜澄美ゆうきあすみ


 えっ、結城亜澄美ゆうきあすみって……あの結城さん!?

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