第16話 減点ポイント1

「やばいよー!!」


 土曜日……おそらく人生初のデートの日。男ならば、何が何でも格好良く決めねばならない、いわば勝負の日だ。


「はぁ、はぁっ」


 全力疾走を決め込む僕。この状況を見て、おさっしの方もいると思うが……そう、あろうことか寝坊してしまったのだ。

 待ち合わせ時間は午前9時。待ち合わせ場所は、街でも有名なショッピングモールのカフェ前。昨日、さんざん確認したのに、寝坊で遅刻したのならば元も子もない。


(このままじゃ遅刻だよー!)


 走るスピードを上げるが、そんな僕をあざ笑うかのごとく、焦れば焦るほど状況は悪化……モールまであと少しというところで、横断歩道の信号が赤に変わった。


「う、ウソ! 頼む、急いでくれ!」


 ソワソワと足踏む……刻一刻こくいっこくと迫るリミット。そして、ようやく信号が青へと変わり、渡り切った僕はようやく待ち合わせのカフェ前へと辿り着いたのだった。腕時計を確認してみれば、時刻は9時ジャスト。奇跡だ!


「セーフ! セーフ!」


 まだ結城さんの姿は見えない。間に合った喜びから、僕は人目もはばからず、手を横に切る塁審るいしんのような動作をした。すると……。


「アウトー!」


「えっ!」


 いつの間にか、ひょっこりと現れた結城さんが親指を立てるポーズをした。


「ゆ、結城さん! いたの!?」


「当たり前でしょ。デートの待ち合わせ時間は何時?」


「く、9時です……」


「普通、デートっていえば、5分前集合は当たり前でしょ。女の子を待たせるなんて、信じられない。減点ポイントワン!」


「す、すいません……」


 うう、泣きそうだ。人生初のデートがマイナスからのスタートだなんて……僕はガックリと肩を落とした。なんで、昨日もっと早く寝なかったんだ!? とはいっても、ドキドキで寝られなかったんだけどさ。


「ほーら」


「!!」


 ヘコんでいる僕の腕に、結城さんが抱きつくように腕を回してくる。これはどういう状況? なんかやわらかいものが当たっているけど、これってアレ? πパイ


「その分楽しませてよね♪ デートは始まったばっかなんだし」


「お、仰る通りです」


 結城さんとまさかの零距離。オーバーヒートしまいそうだ。いけない、今日はジェントルにエスコートをするって決めたはずだろ? 

 こういう時こそ心頭滅却だ。パイあーる二乗のサイン・コサイン・ブイサイン。微分積分いい気分!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る