第32話 生存者たち


「まてっ!」


 銃口から魔力がほとばしるよりも先に、背後から響いた鋭い声が耳朶を打った。首を回して後ろに視線をやると、インバネスコートの上に先ほど自分がかけっぱなしにしていたカーキ色の上着を羽織った魔女が、操縦士席から這い出そうとしている。

 とはいえ、体が思うように動かないのか手足は震えており、目の焦点もあっているかどうかすら怪しい。それでも、2つのアメジストは自分を取り囲む獣人達へと向けられていた。


「見当違いも…甚だしい。そいつじゃない」


 息をするだけで消え去りそうな意識の火を消さないように、ぶつ切りにされた言葉がのろのろと彼女の口から漏れ出てくる。


「そいつは…あの…爆発の原因…でも元凶でも…ない。順」


 そこまで言ったとき力尽きたのか、糸の切れた人形のようにぐらりと彼女の体が揺れた。

 今、彼女がいるのは砲身下の操縦士用ハッチから出てすぐのところ。前面投影面積を減らすため車高を下げる努力が払われているとはいえ、巨大な戦闘車両から転げ落ちて無傷なはずがない。

 まずいと思ったときには、すでに飛び出していた。幸いにも距離が近かったため、頭から落ちる前に彼女を保持し、なんとか軟着陸させることに成功する。抱きとめられれば理想だったが、ケガがなかっただけで良しとしよう。

 彼女の無事を確認したのもつかの間、何かが破裂するような音とともに右手に衝撃と熱を感じる。威嚇の意味を込められて放たれたのか、それともこちらの動きに反射的に放ってしまったのかは分からないが、撃たれたことに変わりはなかった。


「馬鹿ニャろう!誰が撃てといった!」


 反射的に引き金を引いてしまったアルドマンにバルナルドの鉄拳ねこぱんちが炸裂し「グニャボァ」と猫がつぶれたような悲鳴が響く。暴発であったことに内心胸をなでおろしつつ。ジンジンと鈍い熱を発する右腕を無視し、彼女を横たえてからゆっくりと振り返った。

 焦るな。ここで焦れば彼らの猜疑心を高めてしまううえ、暴発による負い目を失わせることになる。焦ることはない、主導権を握り返してしまえば状況はひっくり返せる。まずは…


 ――愉しい愉しいO☆HA☆NA☆SHIの時間ですねぇ!

 ――お話(物理)な管理局の白い悪魔はNG

 ――でも、1発ぶん殴って言うこと聞かせるとか列強の得意分野じゃないですかやだー。特にコーラとか紅茶とかウォッカとか。

 ――1発ぶん殴る(核)

 ――1発だけなら誤射(震え声)


 いつも通りの会話を切り上げ、口角を釣り上げて笑みの形を作る。張りぼての虚勢でも、相手が誤認するのならば十分だ。


「中尉殿、少し誤解があるようだ。お互いの情報を交換して整理すべきと思うんだが」

「誤解があるかどうかはコレから調べることだ。だが、情報交換は魅力的だな」


 対するナングスも獰猛な笑みを浮かべる。さすがは、現在の軍事ドクトリンに真っ向から喧嘩を売る戦術を、周囲の視線を無視して研究し続けている軍人といったところか。ガキのこけおどし程度でうろたえる存在じゃない。

 けれども、相手を交渉のテーブルにつかせることはできた。トンネルから出た直後で碌に情報を握っていない彼らからすれば、外を進んできた自分たちを問答無用で射殺するなど愚の骨頂だろう。平時だろうが緊急時だろうが、情報ほど便利かつ高威力な”実弾”は存在しない。

 右腕のかすり傷は鈍い痛みと鋭い熱を発しながら修復を始めていた。







 ノーマッドの砲塔を90度旋回させ、横に突き出した2本の方針に防水シートを被せ、机と椅子は錬金術を扱えるソルジム上等兵が簡単なものをしつらえたただけの簡素な天幕に生存者たちが集まった。情報交換という名目ではあるが、一応はナングスらに拘束されている現状であることを示すためか、目の前に座る中尉の後ろと自分の後ろには魔術短銃を携えた下士官と将校バルナルドとハルムが控えている。


「さて、ユキト。単刀直入に聴く、いったい何が起こった?」


 先ほどまでの威圧感はそのままに、一気に砕けた口調になり本題に突入したナングスに思わず苦笑が漏れるところだった。騎兵将校は決断が早いと聞いたことがあるが、それは星の海を越えた先でも同じらしい。


「核だ。いや、正しくは核兵器に類する超大型爆弾がルベルーズ中央で炸裂した」

「カク?なんだ?そりゃ」


 聞きなれない単語に中尉の耳がピクリと動き、背後の下士官が正面の少尉と目配せをするような雰囲気を感じ取る。この反応を見る限り、やはりエリクシル内で核兵器が使用されたことは無いか、小規模な実験ぐらいだと思われる。そして、重要なこととしては軍において核兵器の存在は少なくとも末端にまでは届いていなかったらしい。


「中尉殿が疑っているのは、あれを僕らが用意し起爆させたという点だろうが、その件に関しては全くの冤罪だ。こいつはそこまで物騒な代物ではないよ」


 そういいつつ胸ポケットから黒光りする円筒形の弾頭を取り出すと、周囲の3人がピクリと反応する。机の上に置かれたのはナングスがギルタブリオンに向けて発砲した弾頭だった。


「これはあくまでも発信機ビーコンだ。そして僕らが使用したのは威力偵察用の砲弾で直撃させなければ意味がないし加害半径は1mと無い。こいつを中尉殿に打ち込んでもらってギルタブリオンの精密な位置を確認し、長距離砲撃しただけのことだ」

「オイ待て、長距離砲撃だと?一体どこから撃ったっていうんだ?」


 彼らの驚いた点に少し違和感を覚える。喰いつくとすれば威力偵察用の砲弾の方だと考えていたため、ある意味では不意を突かれた格好だった。机に広げられたルベルーズ周辺の地図の中で、自分たちが砲撃を行った小高い丘を指し示すと3人の軍人の顔が驚愕に染まることになった。


「はぁっ!?まてよ、10㎞以上あるじゃねぇか!?こんな距離で砲弾が届くわけねぇだろ!?そのうえ直撃なんざできるかっ!」

「は?いや、直撃は確かにノーマッドがなければ不可能だろうが、150㎜クラスの重砲なら10㎞ぐらい届くだろ?」


「あのなぁ…第一」と呆れた顔で息を吸い込んだ下士官に「落ち着け、バルナルド」とナングスが声をかけて制止する。ほかの二人に比べて混乱から立ち直ったのは幾分早いようだったが、彼自身もノーマッドの長距離砲撃に対して釈然としない思いを抱いているようだった。


「貴様が撃ったのは加害半径の狭い、徹甲弾同然の砲弾だったってことで間違いないんだな?で、それの目印として俺たちにあの銃を渡したと」

「そのとおり。そして、そもそもの疑問として」


 彼の口調が4人になったとたん急に崩れたことの合点がいった。少なくともナングスは自分たちを核テロリストだとは思っていない。これはあくまでも、祖国を瞬時に失った若い部下に対する一種のポーズといったところか。今のところ、最も関連が疑われる自分たちの身の潔白を証明させるための。


「あんなに高威力の砲弾を持っているのなら。わざわざビーコンを打ち込みに行ってもらう意味なんてないだろう?適当に市街地の真ん中にでも放り込んでおけばいい。もしそうだったとしても、こうして貴方方とテーブルを囲む意味もない。中尉殿が高性能爆弾でルベルーズを破壊するならば、何も知らずに手を貸した間抜けを生かしておく理由はない。違うか?」


 一息に言葉を紡ぎ相手の出方を見るが、その必要はなさそうだった。中尉もハルムも白けたような顔をして「茶番は終わりだな」と肩をすくめている。


「だから言ったでしょう?中尉殿。こいつらは無実だって」

「解ってる。こうでもしないと示しがつかんだろうが。重要参考人には変わりないんだから」


「しかし、なかなかの役者っぷりだった」と人の悪い笑みを浮かべるユキトに、心底いやそうな顔をしたナングスがため息を吐く。


「諜報部だけはごめんだな…。なんにせよ悪いな、ユキト。不快な思いをさせちまって」

「場合が場合だ、仕方ない」

「そういってもらえると助かる。お姫様は?」

「フェネカならノーマッドの中で」

「いや、レネーイドの皇女サマじゃなくて、お姫様だ」


 今度はナングスの方がニヤニヤとの悪い笑みを浮かべる方だった。銃口を向けられているにもかかわらず、後先考えずに彼女の救助を優先したのを見られるのは当然の帰結だった。


「あー、うん。意識がないからノーマッドの中へ乗せにくくてな、そのまま操縦士用ハッチのすぐそばに寝かせてある。ケガは無さそうだ」

「アノ時の慌てっぷりはなかなか見ものだったぜ」

「映像結晶で残しておけばよかったかな」


 ――もうヤダこの毛玉

 ――いい加減観念して個別ルート入ったらどうですか?これ以上粘り続けてもヒロイン出てくるとは限りませんよ?

 ――ちょくちょく思うんだが…お前、僕をギャルゲ主人公か何かと勘違いしてない?

 ――ときめきエリクシル、略してときエリ。ビームと核兵器と戦車砲と魔獣が飛び交う星でヒロインと恋愛するゲームですね解ります。

 ――それなんてマブラヴオルタ?

 ――未来への咆哮は名曲


「まあ、この際お前の恋愛事情はあとで追及するとして。カクってなんだ?確かに、あれはお前が起こしたものじゃないと思うが。さっきの口ぶりだとあの爆発の正体を知っているような口ぶりだったぞ?」

「正体というよりも、あれと似たようなものを知っているというところか」


 ――え?話しちゃうんです?

 ――端的に言えば、会話選択ミスった

 ――ないわー、これはタイガー道場まったなしですわー

 ――止めようと思えば止めれただろ?

 ――ここでエイリアンってばらすのも面白そうなんで見て見ぬ振りしました。

 ――SSN


「この際、全員集めてくれ。実際に見てもらわないと信じてもらえんだろう」







 天幕のテーブルに置かれたディスプレイには、ドローンから撮影したルベルーズの最期だけではなく、遥か彼方の別の惑星で起こったいくつかの惨劇の映像も流れていった。最初はルベルーズの最期に様々な感情を吐き出していた獣人たちも、見慣れない風景の町が同じような爆発に飲み込まれていく光景が映し出されるころには一様に目を見張った。

 外壁のない、人族しかいない都市。空を魔獣ではないナニカが舞い、巨大な物体を投下したかと思うと膨れ上がる火球。星の帯が存在しない空を引き裂いて落ちていく無数の流星、それらと地表が交錯した点で連続的に吹き上がる原子雲。直観的にこれはルベルーズは愚かエリクシルのものではないと理解した彼らは、ディスプレイの横で何の感慨も湧いていないという風に視線を投げる異邦人へと目を向けた。


「ユキト。これは一体…」

「最初に映ったのがルベルーズの最期。そのあとで映ったのが、この星系のすぐ近くにあるゲートを潜り、光の速さで3000年進んだ先にある星で使われた兵器の映像さ。最初の映像は航空機から投下するタイプ、もう一つは衛星軌道上まで打ち上げた後、大気圏に再突入させるタイプだ。運搬方法は違えど、炸裂の仕方は似てるだろう?」

「いいや、そうじゃない。この映像が俺たちの世界で起きたことじゃないことは理解できる。星は空に張り付いているわけではなく、この大地自体が虚空に浮かぶ島の一つで、同じような島が空の彼方にはあるとかいう与太話がどうも真実らしいことも頷いてやれる。じゃあ、この映像を持っているお前は一体何なんだ?」


 18の瞳が突然異質な者に見え始めたユキトへと向けられる。もちろん、映像をねつ造することは可能だ。しかし、彼らは魔力もなく稼働し続けるディスプレイがあるとは到底考えつかず、よしんばねつ造された映像を作ることが可能だとも思えなかった。そして何より、映し出される映像には偽物には決して存在しない無言の圧があった。

「そこ迄思いつけるのなら、あえて説明する必要はないと思うが」と呟きなのかボヤキなのかわからない言葉を吐き、再びユキトは名乗りを上げる。デウス・エクス・マキナのリーダー、ユキト・ナンブではなく。地球人、南部征人として。


「僕はここからザっと3000光年+α離れた場所に存在する、太陽ソル星系第3惑星地球テラから飛ばされてきた地球人テラリアン。魔術や魔法ではなく、科学だけで発展した文明の末裔だよ、地球人エリクシアン


 最早驚き疲れたのか、それとも予想された内容だったのか、9人の獣人の反応は鈍いものだった。







 混乱が収まった後、しばらくは共に移動するということで話はまとまった。3両のソミュールは都市間を移動するビークルとしては十分以上の代物だったが、「何が起きるかわからないためノーマッドの庇護下に入りたい」という中尉の依頼を受けた形だった。ユキトもナビ役の調子がすこぶる悪い現状では都合がよく、高性能レーダーがあるとはいえ、見張りの目が増えることに越したことは無かった。

 ノーマッドのフロントに腰を掛け、ナングス達が出発準備を整えていく様をぼんやりとりを眺める。


 ――いやー、思ったよりもすんなり納得してくれましたねー

 ――納得というよりも、情報の津波で溺死寸前なだけだろう

 ――色々ぶちまけましたからね。まあ、軍人ですから口は堅いでしょう。上級司令部どころか国体が爆発四散した今、私たちを売り飛ばすよりも味方につけておくメリットの方が大きいですし、第一証拠がなければだれもこんなこと信じませんて。

 ――まあ、それもそうか。ところで、あの件はどうなった?

 ――BoBですか?何度もデータを見直しましたが、エラーや誤作動はなさそうですね。わが軍にも奴らにも、デススティンガーの建造計画なんてなかったはずなんですけどねぇ。

 ――じゃあ、なんでIFFが友軍を示したんだよ。


 着弾後に情報収集用砲弾が送ってきたデータの中に存在したBlue on Blueの文字列は、友軍誤射、すなわち同士討ちを示す符丁だった。今回の砲撃では隠密性確保のため火器管制レーダーを照射せず、発進されたビーコンに向けて砲弾を飛ばし、終末誘導を砲弾側で行ったうえ、数百年使用しなかったノーマッドの敵味方識別装置IFFは故障したままで修理されておらず、砲撃前に友軍だと知るすべはなかった。


 ――んん、もしかしたら第2陣だったとか?

 ――第2陣?

 ――我々のエリクシル探査計画ではまず最初に自律思考戦車の大隊を送り込み、情報収集と着陸地点の確保。しかる後に設営部隊を送り込み前線基地を確保する計画でした。まあ、実際は初手で躓いたので設営隊は来なかったと思っていたのですが、ギルタブリオンがその第2陣だったとは考えられませんか?

 ――……なあ、それってどう考えても”探査”じゃなくて”侵攻”だよな?前線基地じゃなくて完全に橋頭保だろ、それ。

 ――武力衝突は最小限に抑える予定でしたから探査ですよ。まあ、実際は問答無用で相手が殺しにかかってきて、自衛のために制圧したらこっちが殲滅されたんですけど。


 あっけらかんと言うAIだったが、裏を返せば数百年前はこれほどの性能を持つ高性能自律戦車の一個大隊を殲滅する戦力が、エリクシルには存在したということだ。そして、それほどの技術を擁していた国家はおそらく大災害によって終焉を迎え、アルマたちはその子孫ということになる。


 ――じゃあ、第2陣として降下したギルタブリオンはお前らと同じく殲滅され、ルベルーズに来襲したのは最後の生き残りってわけか。そして、当時のプログラムに従って報復行動を続けている、と?

 ――そう考えると丸く収まりそうなんですが、ところがどっこいそうではありません。だとするならば、純地球産メイド・イン・アースであるはずのギルタブリオンに魔術由来の技術が使われているのはおかしいでしょう?

 ――エリクシルからパクってきたんじゃないのか?キャトったりなんなりで

 ――私がエリクシルに来てから大災害が発生するまでだいたい100年ですよ?片道3000光年以上ある星を行ったり来たりしてサンプル集めて、実証試験やって、図面引いて、試作品作って、改良して、量産品作って、部隊編成して、兵站準備して送り込むのを、戦時でもないのに高々100年でできますかね?

 ――人が空を飛んで宇宙に行くまで100年かからなかったからいけるんじゃないのか?

 ――なお予算

 ――無理だな

 ――何もかも、いつの時代も金!金!金!絶望した!資本主義の豚どもめ!公営組織の一番の敵は、敵性国家や目の前の課題じゃなくて財務省ってそれ一番言われてるから。

 ――なあ、ノーマッド。IFFで友軍とされたのなら、通信を送って無力化出来たと思うか?


 ギルタブリオンの戦闘能力は先ほど見た通りだ。もしもアレを手ごまにできれば、いざというときの切り札となりうる。しかし、AIの出した結論はその希望をたやすく粉砕するものだった。


 ――難しいでしょうね。自律兵器は自らで考えて行動します。ギルタブリオンがそれだと仮定すると、たとえ友軍でも司令コードを持っていない機体の命令は聞きません。それが、現在出された自身結論と相反するのならばなおさらです。

 ――そうか…

 ――やっぱりユキトさんも奴が生きていると考えてます?

 ――ああ。頭上で熱核兵器が炸裂しても命は助かる新第7世代戦車よりも後の戦闘兵器だとすると、数メガトンクラスの爆発で消し飛ぶようには思えないんだよな。

 ――さすがに私も、真上で熱核兵器使われると、乗員”は”無事なだけですけどね。車体が解けて使い物になりませんよ。

 ――できるなら破壊を確認したいが。

 ――無理無茶無謀無価値無意味ですね。奴に狙われていると決まったわけではありません、今のうちにずらかるのが一番でしょう。

 ――そうだな。

 ――うーん、それよりも、あの核は一体どこの持ち物なのでしょうか?軍の技術部に凸した中尉殿の話では、そんな爆弾があるなんて資料なかったようですし。

 ――逃げる時に一部の上層部の人間が仕掛けて、資料全部焼き払ったんじゃないのか?

 ――ここまできたら貴方を殺して私も死ぬ!で逃げ遅れた軍民まとめてダイナミックヤンデレ自爆ですか…。もう、ルベルーズ軍というよりもルベルーズの敵国がこれ幸いと爆弾仕掛けて、合法的に吹っ飛ばしたと考えた方が収まりがよさそうですけど…、それならギルタブリオン誘導した時点で目的達成されてますもんね。


 ルベルーズもその敵国も、国のど真ん中で熱核兵器レベルの爆発を引き起こす理由が、如何にもちぐはぐに見えてしまう。もう一つ考えられるものとしては、ルベルーズの隣国がギルタブリオン殲滅のために使用したというセンだが、それならもっと手前で炸裂させてもいいはずだ。

 ギルタブリオンを市内に引き入れ、都市が半壊した段階で巣一切合切消し飛ばす。そうすることで、利益を被る存在は一体誰なのだろうか。


 ――案外、核兵器を作り出した企業が宣伝にやったとかあるかもしれませんよ?

 ――死の商人…か

 ――文明と技術と戦争があれば何処にでも湧いてきますからね。


 ノーマッドの話に耳を傾けていると、ふと上体を支えている自分の手に温かさを感じる。視線を下げると車体の上で横になっていたアルマの手が自分の手に重ねられていた。あれから起きる様子はないが、寝顔を見る限りあまり気分の良い夢を見られてはいなさそうだ。不快な表情を形作るように少し眉が寄っている。

 無意識のうちに彼女の頭に伸ばされた手を、強烈な自己嫌悪を感じて引き戻した。後ろで外野ノーマッドが「なぜそこで手を退くっっ!?このヘタレッ!」と喧しいが無視だ。奴がなんと言おうとそれは、彼女の恋人か両親がやるべきものだろう。エイリアンがやる事ではない。第一、柄じゃない。

 そういえば、彼女の顔を見て一つ思い出した疑問ことがある。あの時、意識を失う直前なんと言いかけていたのだろうか?

 記憶をたどろうとした意識は周囲に並んだ3両のソミュールの機関が息を吹き返す轟音と、出発準備完了を告げる小隊最先任軍曹の報告に塗りつぶされてしまう。周囲では恒陽が空へと昇り始め、わずかに残った朝露がその姿を消そうとしていた。














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