第10話 いろいろあったがなんとかなった


 ディオノス・ドーム手前の大通りに路上駐車させ、「面倒な事になるからしゃべるのも動くのも禁止」とノーマッドに死刑宣告をたたきつけたアルマが、白亜の敷石で舗装された歩道へと飛び降りる。それに続いて、昭五式軍衣に似た戦闘服の上に同色のフード付きマントを羽織ったユキトもディオノス市外へと降り立つ。マントの下には振動刀とマテバにしか見えないオートリボルバーサーマル・コイルガンを帯びていた。

 季節は冬に近づいていく頃合いだからか市内には冷たくなり始めた風が吹き抜けており、厚着と言える格好であっても快適だった。もっとも、戦闘服に温度調節機能があるため夏だろうが冬だろうが装備を変える必要はなかったが。


「いくぞ、ついてこい」

「ん?ドームに行くんじゃないのか?」

「それ以前に用意しておくものがある」


 いいから早く来いと目で指示し、雑踏の中をずんずん進んでいく紺色のフードを追いかける。周囲を歩いているのは人、亜人を問わない多種多様な人々だったが、ユキトには拭い去れない違和感があった。


「なあ、アルマ」

「なんだ?」

「なぜ、銃と剣が両立しているんだ?」


 銃と剣と魔法が両立した世界。そうとしか思えないほど、周囲を歩く冒険者や傭兵と思われる人々の装備は雑多に過ぎた。右を歩いていく20代過ぎと思われる4人の男たちは軽装の鎧に身の丈ほどもある巨大な剣や槍で武装している。かと思えば、左の屋台で飲んだくれている犬頭の亜人の集団が机に立てかけているのはボルトアクション式と思われるライフル。ついさっきアルマがすり抜けたローブ姿の男女の手には彼女と同じように先端に結晶が埋め込まれた杖。

 少なくとも地球ではあり合えなかった光景だ。銃という遠距離攻撃手段が発達した結果、剣や槍と言った近接攻撃武器は急速に衰退し、現在では見る影もない。勿論、銃と剣が両立した時代はあるにはあったが、ボルトアクション式のライフルが登場する頃には銃剣はともかくクレイモアの様な長剣は廃れてしまっていた。


「銃では魔獣を倒せない。たったそれだけのことだ」

「魔獣を倒すための装甲車両じゃないのか?」


 大通りの両端に立ち並ぶ多種多様な店を視線で物色しながら、アルマは異星人の認識を正し始める。


「ビークルが魔獣を刈り取れるのは地盤がよくそれなりに視界が開けた場所だ。そこなら、ビークルの機動力と火力、装甲を生かすことが出来る。しかし、魔獣は森や洞窟、山岳地帯にも出没する。そういった環境でのビークルは魔獣に対しては盾と援護ぐらいにしかならん」

「だからって剣や槍を持った人間を突っ込ませるのか?」

「魔獣用の大剣ならば一撃で首を断ち切れる。槍ならば魔獣の急所を一撃で貫ける。手持ち式の銃でそれだけの威力を持つものはない」


 ――リアルモンスターハンターですね。いや、ドラクエかな?


「手持ち式の無反動砲とかロケットランチャーないのか?」

「むはんどうほう?ろけっとらんちゃー?なんだ?それ」

「携帯式の歩兵砲と言えるものだ。1人で運用し、大口径の炸裂弾頭を射出して対象を破壊する。大きくかさばるが威力は高い。一撃で戦車を吹き飛ばすものもある」

「要するに目標に爆発などでダメージを与えるのだろう?魔術やビークルじゃダメなのか?」


 どうやらこの星では、ボルトアクション式のライフルや車載可能な速射砲がありながら、手持ち式の対戦車火器と呼べるものが無い、そもそも概念自体存在しないらしい。杖さえあれば様々な物理現象を引き起こすエリクシル人にとって、大きくかさばり、継戦能力はお世辞にも高くない対戦車火器は全くもって不要だったという事だろう。


「基本的にビークルの威力が発揮できない戦場では、ビークルに乗っていた魔術師と近接職が要だ。ビークルの火力でできる限り敵の足を止め、魔術師によって魔術障壁を付与された近接職が近接攻撃によって対象を仕留める。場合によっては魔術師が魔獣への主攻を担当し近接職はそれらに魔獣を近づけさせない様にガードする。どうするかは、パーティーの編成によって変わるがな。そして、貴様に必要なのがこれだ」

 

 そういってとある道具やらしき店先で立ち止まったアルマが小型のランタンの様なものを取り上げ、ユキトの顔に近づける。


 ――なにそれ、青鉄鋼ブルースチールのランタン?

「保身無きゼロ距離射撃とか勘弁してくれ」

「何を言っている?これは補助魔力炉だ、おもに魔力障碍者用のな。魔力障害を持つものは足りない魔力をコレで補い生活する」


 ランタンの横についているスイッチをひねると、ランタンの四方についている窓のシャッターが開き、中から深い青色の光が漏れてくる。意識を集中すると微かではあるが、アルマが魔術を発動したときの様な風の流れの様なものを感じる。


「側面のスイッチをひねると高出力状態、魔力障害者でも魔術が使えるほどの魔術を生み出すが、燃料の消耗も早い」

「燃料がいるのか」

「当たり前だろう?燃料はほかの魔術師の魔力を充填した液状結晶だ。これは私が錬成できるから燃料の心配はしなくてもいい。店主、いくらだ?」


 店の奥で船をこいでいた老猫としか言えない風防の猫の亜人が目を開ける。青と金のオッドアイが2人の放浪者の姿をとらえ「5万ワール」としわがれた声でつぶやいた。


「ちっ、ぼったくるな。どう見ても安物だろうが」

「5万ワールだ、お嬢さん。出力はそこそこだが、頑丈さがずぬけている逸品だ。何なら、強度に関しては解析しても構わんよ」

「ならば……フン」


 アルマが杖をランタンにかざし、ややあって納得がいったという風に片眉を上げる。その様子に少しだけ満足げな笑みを浮かべた店主は店の端に並んでいるライフルへも視線を走らせた。一丁当たり3万5千前後の札が掛かっている。


「今なら、そこの小銃マスケットも一丁つけて8万だ」

「6万5千」

「バカ言え、7万5千」

「6万8千」

「7万、これ以上は負からんね」

「…いいだろう、どちらもよこせ」


 アルマが懐から大ぶりの金貨を七枚、小ぶりの金貨を1枚取り出し放り投げ、ランタンをユキトに押し付けるように手渡し小銃のかかった壁へと歩み寄る。そこにかけられている小銃はボルトアクション式の機構を備えたもので、第二次大戦ごろの銃によく似ていた。


「ユキト、どれがいい?」

「口径は?一番メジャーなのはどれだ?」

「7.67㎜が一番流通している、小型の魔獣ならそれなりに効果があるし、対人には言わずもがなだ。一番上の小銃は9㎜、左下のツボの中に入っているのが6.3㎜。威力を取るか、反動を取るかは撃ち手次第というやつだ」


 そういいながら、丸椅子から立ち上がった店主がおもむろに1丁の小銃を取る。木製のストックに横へと飛び出たボルトハンドル、槍のように長い銃身。ノーマッドのライブラリを参照すると九九式小銃とほぼ同じ構造の小銃だった。


「カリサワ工房製の小銃だ。口径7.67㎜、全長1258㎜、重量4100g、装弾数5発、最大射程は約3㎞。他の小銃に比べ命中精度が良いのが特徴だ」

「これにしておくか?」

「ああ、気に入った」

「そうか。店主、銃剣と弾薬100発も貰っていくぞ」

「毎度あり。ポイントカードはどうする?」

「いらん」


 ぶっきらぼうに吐き捨てて街道へと戻るアルマに続く。スリングで買ったばかりの小銃を背負い、腰のベルトにランタンをつるした。


 ――どんどん帝国陸軍将校と化していますね、ユキトさん

 ――ボルトアクションマスケットとかどんな分類だよ。そもそも、コイルガンがあるのに使うのか?これ 

 ――誘導補助弾頭のコイルガンとはいえ所詮は拳銃ですからねぇ、中長距離戦ならば小銃のほうがいいでしょう。今度戻ってきたときに魔改造しますけど。

 ――使えれば何でもいいが、ゲテモノにはするなよ。


 いうだけ無駄なような気がするが、一応くぎを刺しておく。この駄目戦車ならば、ボルトアクション機構をあえて残したうえでコイルガン化とか平気でやるだろう。


「これでギルド登録に必要なものはそろったな」


 通りを並んでドームへ向かいながら隣の少女がぽつりとこぼす。


「ランタンと小銃が必要なのか?」

「小銃はおまけだ。必要だったのは補助魔力炉の方だからな。基本的に直接他人に干渉する魔術は他人の魔力炉に干渉する魔術と言い換えていい。魔力炉や対象の身体をめぐる魔力を変質させて影響を与えるからな」

「魔力は触媒という事か?」

「そういうことだ。特に魔術障壁を張る場合には結界の起点を対象者に固定しなくてはならない。昨日は私が起点になったからいいが、これから先、貴様には外に出て戦ってもらわねばならんからな。結界の他、各種の強化エンチャントにも最低限の条件として対象に魔力があることが前提となる」

「ギルドに登録するような冒険者が、魔力障害者の疑いもあるのにランタンも持っていないとなれば怪しまれるか」

「そうだ、ギルド登録の前に魔術炉の出力も計測されるからな。魔力障碍者の場合は、魔術炉の出力は補助魔力炉の出力とほぼ同値だ。底の面にランクが彫られているだろう?」


 ランタンをひっくり返して底を見ると、確かに”C-”の文字が彫られていた。彼女の話によると、魔力炉や補助魔力炉のランクはF-からA+++まで存在し、F-からD+までは戦闘を考慮しない日常生活に支障を来さないレベルの魔力をもたらすもので、C-以上が俗に戦闘用補助魔術炉と呼ばれるカテゴリだった。ユキトのもつ補助魔力炉は最もランクが低いものだ。

 ちなみに、魔力炉のランクはC-あれば駆け出しの魔術師として冒険者・傭兵ギルドに登録でき、C+で一人前、B前後で一般、A-で凄腕、Aで超一流となり、それ以上になると英雄レベルと呼ばれている。


「君の魔力炉のランクはいくつなんだ?」

「以前計った時はB+だった」

「そいつはすごい」

「もっとも、それなりの魔術師なら魔力炉の出力を制御することなど朝飯前だ。普段より高い出力を一時的に出すことも、普段以下の出力に意図的に抑えることもできる。あまりあてにはならん」

「アルマはどっちなんだ?」

「さて、どうだろうな」


 重要なところをまたはぐらかされてしまい、肩をすくめるしかなかった。アルマはそんな彼を視界に入れることなく、ディオノスドームの大きな玄関をくぐる。

 ドームの中はまさしく別世界と表現するにふさわしかった。

 薄汚れた白亜のドームの中は木材によって内装が施され、空中を浮遊するいくつかのクリスタルによって暖かな暖色系の光によって照らされていた。ドームの底面にはいくつものテーブルが並べられ、多くの冒険者が酒や肴に舌鼓を打ち、儲け話や武勇伝を大声で喚き散らしている。天井に目を向ければドームの中央部分は吹き抜けになっており、底面と同じような酒場が各階に設けられているのが見て取れる。吹き抜けの最上部、ドームの頂点にあたる部分からは豪華な――かなり年季が入っているが――シャンデリアがつるされており、無数の結晶が淡く輝いていた。

「すごいな」と典型的なファンタジー世界の酒場と言える空間に感嘆の息を漏らすユキトとは対照的に、「喧しいだけだ」と不愉快さをにじませたアルマが言葉をこぼす。彼女にとって、暖かな光に包まれたこのようなお祭り騒ぎの場所よりも、星の帯と星々が瞬く静かな湖畔の様な静かな場所のほうが好みだった。


「ドームの中央は酒場だ、一仕事終えた冒険者がため込んだワールを遠慮なくバラマキ素寒貧になる場所だ。賭博も喧嘩も日常茶飯事、せいぜい因縁をつけられないようにすることだな」


 壁際に向かって歩くアルマに続く。彼女が視線で指示した先ではテーブルを蹴飛ばした大男2人が取っ組み合いの大喧嘩を繰り広げ、周囲の酔っぱらいたちが面白半分に喧嘩中に2人をあおっている。


「不躾な輩もいるのはお約束ってか」


 さっそくアルマの尻に手を伸ばそうとした猿の亜人の手首を、腰におびた振動刀の鞘でさらりと撫でることで警告し引っ込ませる。振動刀はベルトに挟まっているわけではなくなぜかボールジョイントで接続されているため意外に自由が効いたりする。


「ご苦労、その調子だ。励めよ」

「何時僕は君のガードマンになったんだ?」

「持ち金の大半を投資したからな、役に立ってもらわねば困る」

「汚いな、流石魔術師汚い」


 ニヤリとフードの隙間から魔女の様な笑みを向ける彼女にげんなりする。…そういえば魔女だったなこいつと自分で自分に突っ込みを入れて虚しさが加速した。

 心なしか上機嫌のアルマと、そんな彼女にちょっかいを駆けようとする荒くれ者をやんわりと、時には実力行使で退けているとようやく壁際に設けられたカウンターへとたどり着く。カウンターの向こうにはギルドの制服らしき、メイド服の様な衣服に身をつつんだ受付嬢が営業スマイルを向けていた。


 ――メイド服受付嬢キタコレ!ユキトさん!おかえりなさいませご主人さまって言ってもらってくださいよ!

 ――却下に決まってるだろうがバカヤロウ


 欲望駄々洩れのノーマッドがネット回線で喚くのを無視しているユキトの横で、アルマはギルド登録の受付を続ける。


「名前はユキト・ナンブ。出身はセズミモフ自治領、魔力障碍者で補助魔力炉ランクはC-、属性は地。武器は小銃に刀剣。紹介者はアルマ・ブラックバーン」

「ユキト・ナンブさんですね。ディオノス・ドームへようこそ。説明は必要ですか?」

「お願いします」


 此方の返答を予想していたのか、受付嬢は「かしこまりました」と営業スマイルを崩さず説明を始める。と言っても、その形態はよくあるファンタジー世界と同一と言ってもよかった。ギルドに集められた依頼を冒険者・傭兵がこなし報酬を受け取る。依頼には一般人にもできるようなFランクのものから一流の冒険者・傭兵が束になってかかるようなAランク以上の依頼など、ランク分けがなされている。依頼をこなしていくことでより上のランクの依頼を受けられるようになるらしい。


「では、パーティーを組まれますか?個人的にはパーティーに入ることをお勧めしています。報酬は山分けですが、単独よりも安全に依頼をこなせますよ?冒険者や傭兵は体が資本、怪我をしては元も子もありません」

「こいつは私と組む、リーダーもこいつだ。それでいいな?ユキト」


 彼女の言葉に、意外なことにユキトではなく受付嬢が目を丸くした。それどころか、話を聞いていたらしい受付嬢の後ろで書類を整理していた別の職員も学z年としたような顔をアルマへと向ける。


「え?あの、ブラックバーンさん。本当に貴女がこの方と組まれるのですか?」

「なにか問題でもあるのか?」


 若干不愉快そうに声にドスがこもると、受付嬢は「ひっ」と小さな悲鳴を上げて涙目になってしまう。彼にとっては慣れたものだが、やはり少女が出すには少々威がありすぎる声なのだろう。


「あ、あの、いや、その。ブラックバーンさんほどの魔術師なら、ほかのパーティーにも引っ張りだこなのではないでしょうか?このままだとギルドの規定で低いランクの依頼しか受けられませんよ?」

「それがどうした。殺す気で鍛える、そのうちランクは上がるだろうさ」

「ああなるほど、それなら安心ですね!」


 ニタリと美少女が決してしてはいけないような部類の笑みを浮かべるフードの魔女に「どこがだよ」とツッコミを入れたくなるが、それよりも早く受付嬢はいそいそとパーティー作成用紙を取り出し必要事項を記入していく。

 パーティーリーダー、構成人数、装備、実績などなど、ほとんどの項目を書き込まれた用紙をカウンターに置かれたが一か所だけ空白があった。


「それではパーティー名を決めていただけますか?パーティー名を設定されますと、名指しで依頼が入るようになりますし我々も依頼者の方に売り込みやすくなります」

「パーティー名か、好きに決めろ。私は何でもいい」


 アルマの問いに顎に手を当てて考える。名前か、正直言ってこういうものの名づけは得意なほうではないのだが。


 ――アインズ・ウール・ゴウンとかどうです?

 ――だれひとり異形種じゃないだろうが

 ――じゃあ公安9課

 ――1から8課どこ行った

 ――ネオアトランティス

 ――確かに異星人だが…

 ――バチカン法王庁特務局第13課イスカリオテ

 ――銃剣神父にAMENされろ。頼むから真面に考えてくれ

 ――うーん、それじゃあ。ちょっと腕を借りますね♪

 ――ちょ、おま!


 慌てて防壁を張ってノーマッドからの信号をブロックしようとするが、子機が親機に勝てるはずもなく、陳腐な攻勢防壁は簡単に回避されひとりでに腕が動き出し、用紙の空白に遠慮なく英語を書きこんだ。


「む、何と読むんだ?これは」

「あー、ついの言葉で書いてしまった、書き直す」


 久しぶりに見たような気がする英字に二重線を引っ張ってエリクシル語で地球と同じ発音ができる文字に書き換えた。


「これでパーティーの登録は完了しました。あなた方の栄達を願います。依頼を受け付ける際には向こうのカウンターへどうぞ」


 依頼を受け付けるカウンターへ歩き出すと、すぐにアルマが先ほど彼が書いた単語の意味を問いかける。


「聞いたことがない単語だな、テラの言葉か?」

「そうだ。もともとは舞台用語でな、舞台の登場人物だけではどうにもならなくなった時に超自然的な力を持つものを出して、丸く収めて強引に幕引きに持っていく手法の事を言う。機械より生まれた神という意味だ、機械仕掛けの神とも言うが」

「なんだそれは、脚本家は何やってるんだ」


 微妙な顔をするアルマに、思わず苦笑してしまう。確かにその通りだ、機械仕掛けの神は使い方を誤れば強引なご都合主義として批判を受ける。強力な効果を持つ分、物語の陳腐化を食い止める手法が作者には求められるのが特徴だ。

 それでも、ユキトはこの言葉が嫌いには慣れなかった。


「物語の中ぐらい、大団円で締めくくれればいいじゃないか。1流の悲劇バッドエンドよりも3流の喜劇ハッピーエンドいろいろあったがなんとかなったデウス・エクス・マキナ、悪くはないと思うが、どうだ?」

「どうだと聞かれてもな。ま、名前を好きに決めろと言ったのは私だ。機械仕掛けの神デウス・エクス・マキナか、私たちのところで機械仕掛けというと」

「あの馬鹿を神とは認めたくはないが」

「それは言えている」


 戦車ではない!神だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!という社長ボイスの合成音声が大音響で頭に鳴り響くのを必死に無視しながら、アルマと笑い合う。機械仕掛けの神を意味するたった2人と1機のパーティー。

 彼らの記念すべき最初の任務を受けるためカウンターに向かうが、そのカウンターの前で佇む朱殷のスーツに身を包んだ山羊頭の後ろ姿を見つけた彼女が、嫌そうな顔をして足を止めた。


「何故奴がそこにいる」

「聞いてみるのが手っ取り早いんじゃないか?」

「ふざける…あ」


 此方に気づいた朱殷のスーツの魔族――マーフィー氏は別れた時と同じように帽子を取って恭しくお辞儀をする。アルマの顔はノーマッドの軍用コーヒーを一気飲みしたときのように苦く歪んでいた。

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